186 / 187
番外編 〜 ミーシャ 〜
番外編 〜 ミーシャの日常 恋愛編5 〜
しおりを挟む採寸は苦手だ。
ずっとバンザイしたままでいなきゃいけないし、隅から隅まで身体のサイズを測られることに抵抗がある。
「んまぁっ、コルセットの必要なさそうな細いウエストは相変わらずザマス! お母様似ザマスねっ」
ディバイン公爵家お抱えのデザイナーさんで、語尾にザマスを付けるおちゃめなお姉さんは嫌いじゃないけど、恥ずかしいから大きな声でそんな事を言わないでほしい。
『ザマスきた!! このひと、どーしてザマスっていうか、アオしってる!!』
アオがケタケタと笑いながら、デザイナーさんの周りを飛び回る。
『このひと、きぞくちがう!! だから、とりあえずザマスつける、ふけーざいならない、おもった!!』
なるほど。ザマスはこのデザイナーさんの中では最上級の丁寧語なのか……。
『きづいたときには、クセ、なってた!!』
というか、何でそんなプライベートなこと知ってるの?
『ミーシャ、キューケースル~?』
チロちゃんが顔の前に飛んできて、そう言ってくれるけど、デザイナーさんたちは忙しなく動いているので、休憩はちょっと無理そうだ。
力無く笑うと、チロちゃんは心配そうにバンザイしている腕を支えてくれた。
チロちゃんは優しい。青いキノコも人様のプライベートを覗き見してないで、見習ってもらいたいものだ。
採寸が終わると、今度は新たに作ったというディバインオリジナル生地のサンプルを男性スタッフ? が机に広げ、お母様とお父様がああでもないこうでもないと話し合っている。
というか、生地のサンプルを持ってきてくれたおじさんは、それを頷きながら聞いているが、さっきからかつらが少しだけズレていて、ものすごく気になる。
かつらはすこしでもズレると、違和感が半端ないからだ。
「このパールのような艶感は上品で、高級感もありますので、こちらの生地をメインに───」
一生懸命説明してくれるおじさんには悪いのだが、どうしても気になる。
「ミーシャ? 先ほどから心ここにあらずですけれど、あなたのデビュタントのドレスですのよ。きちんと手にとってご覧なさい。一生に一度の事なのですから」
「はい……、お母様」
かつらを見すぎたせいか、さすがにお母様に注意されてしまった。
そういえば、お母様のデビュタントはどんな風だったのだろうか。お父様とは17歳の時に出会ったらしいから、まだ出会ってなかったはず。
エスコートは誰にしてもらったのかな……。
エンツォおじい様かな。オリヴァーおじ様は当時幼かっただろうし。
お母様が大好きすぎるお父様は、デビュタントにエスコートできなくてさぞ無念だろう。
「ミーシャ、どうした……」
今度はお父様をじっと見てしまっていたらしく、お父様に眉をひそめられた。
「お母様のデビュタントの時のドレスは、どんなだったかと思って……」
シモンズ伯爵家はこの国でも屈指の資産家だから、きっとこれでもかっていうくらい豪華だったに違いない。
「私もベルのデビュタントをエスコートしたかったが、まだ出会う前だったからな……」
「フフッ、わたくしもテオ様に早くお会いしたかったですわ」
「ベル……っ」
またお父様とお母様がイチャイチャし始めた……。
「お母様のドレスは生地から作ってもらったの?」
「まさか! わたくしのデビュタントのドレスは、一番安い生地を使用した、とてもシンプルなものでしたのよ」
「そういえば、お母様は普段からシンプルなドレスを好むよね……でも、一番安い生地?」
「あの頃のシモンズ伯爵家にはドレスを買うお金も無くて、お母様のお父様が、一生懸命工面してドレスを用意してくださったのよ」
「え……?」
懐かしいわ、とお母様は微笑んでいるけど、お金が無かったの? あのシモンズ伯爵家が?
「でも、シモンズ伯爵家は帝国の経済を支えている家だって……」
ディバイン公爵家も、お母様が嫁いでより資産を貯えたって習ったのに、どういうこと……?
1,233
お気に入りに追加
8,488
あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる