継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
184 / 187
番外編 〜 ミーシャ 〜

番外編 〜 ミーシャの日常 恋愛編3 〜

しおりを挟む


エスコートをしてもらうために、ノアお兄様の執務室に訪れた私は、ノックした後許可を得てそっと扉を開けると中を覗いて、机にむかってペンを動かしているノアお兄様に声をかけた。

「ノアお兄様……、ちょっといい?」
「どうしたの? そんな所に立ってないで入っておいで?」
「うん……」

相当忙しいのか、ペンを止める事はないのに、優しい声で私を呼んでくれる。
部屋に入った私を、サイモンが紅茶とお菓子でもてなしてくれてひと息つくが、デビュタントの事を今話してもいいか迷いながら、兄をうかがい見ていた。
すると、視線を感じたのか、ノアお兄様が顔を上げて私を見る。

「少し待っていてね。きりがいい所まで片付けてしまうから」
「うん……」

忙しい所ごめんね。と心の中で謝りながら、出来るだけ音をたてないよう静かに待っていれば、暫くして私の向かいにお兄様がやってくる気配がして、視線を上げた。

「お待たせ。それで、私に何か用事があるのかな?」

お兄様は微笑むと、サイモンが淹れたお茶をひと口飲む。

「あのね……デビュタントのエスコートの事なんだけど……」
「ああ、アス殿下からエスコートさせてほしいって、公爵家に手紙がきていたよね。何か問題があった?」
「え?」

アスお兄様から、エスコートの手紙??

「お兄様、そんな手紙が来ていたなんて知らない……」
「え?」
「だから私、ノアお兄様にエスコートを頼もうと思って来たんだけど……」

ノアお兄様は頭を抱えると、「お父様……」と呆れたように呟いたのだ。

お父様が、アスお兄様の手紙の事を、私に隠していたの?

「ミーシャ宛にも手紙が来ていたはずだけど、それも……見ていないんだね」
「うん……」
「お母様は何も言っていなかった?」
「何も言ってない……」
「という事は、お母様にも隠しているみたいだ」

お父様が、アスお兄様の手紙のことを、お母様にも言ってないの? どうして??

「しょうがないな……。ミーシャはアス殿下のエスコートを受けたい?」
「アスお兄様の……」

アスお兄様のエスコートなら……アカも付いてきて、きっとダンスもみんなで一緒に踊ってくれるだろうし……楽しそう。

「ノアお兄様、アスお兄様なら、エスコートもきっと楽しい」
「楽しい?? そ、そう。ならミーシャは、イーニアス殿下のエスコートなら受けると言う事だね?」

お兄様の言葉に頷けば、お兄様は、「なら今晩お父様に話してみるよ」と頭を撫でてくれた。


◇◇◇


「テオ様、イーニアス殿下からミーシャにエスコートの申し出があったのですか?」
「!? なぜそれを……っ」

その日の夜、お母様がお父様にアスお兄様の手紙の事を追及していた。
お父様はお母様の言葉に、ウォルトを見て、ウォルトは首を横に振っている。

「テオ様」
「ベル……、違う。私は……っ」

あのお父様が追い詰められている。
一方お母様は、怒っているわけでもなく、「どうして隠していましたの?」とただ疑問に思っているだけの様子なのに、お父様はオロオロしだして、いつもの威厳が見る影もない。

「あーあ、お父様って本当、お母様には弱いよなぁ」
「妖精女王、最強」
「お父様にも困ったものだよね」

アベルお兄様はケラケラと笑い、フロちゃんは頷き、お母様に話したノアお兄様は呆れ顔だ。

「ミーシャはイーニアス殿下であれば、エスコートを受けると言っておりますわ」
「!?」

お父様が素早い動きでこちらへ振り向く。
ちょっと怖いと思っていたら、今度は足の長さを生かした速歩きでやって来て、「どういう事だ」と低い声で凄まれた。

「テオ様」
「……ベル、しかしミーシャはまだ子供だ」
「デビュタントは、その子供が大人になるお披露目会ですのよ。結婚も出来る年齢ですわ」
「け、結婚……っ」

お父様がふらついている。
お兄様たちは我関せずで、それぞれ好きに過ごしていた。

「それに、イーニアス殿下がエスコートしてくださるなら、これ以上の安心はありませんわ」
「エスコートならばノアがいるだろう?」
「確かに親や兄弟にエスコートをしてもらうご令嬢も多いですが、エスコートを申し込まれたのであれば、そちらを優先するのは当然ですわ」
「!?」

お父様がどんどん落ち込んでいく。
この夜、父は可哀想なくらい落ち込んでいたが、翌日には元に戻っていたので、お母様に甘やかしてもらったに違いない。

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

妹を溺愛したい旦那様は婚約者の私に出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族令嬢であったアリアに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだグレゴリー第一王子。しかしその後、グレゴリーはアリアの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はアリアに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたアリアは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

処理中です...