継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
173 / 187
番外編 〜 ミーシャ 〜

番外編 〜 ミーシャの日常 授業参観編1 〜

しおりを挟む


ミーシャ視点


「おはよう! ミーシャ」
「クロエ、おはよう」

公爵令嬢と告白してからも、三人が言っていた通り、私たちの関係は変わらなかった。
ただ、秘密が無くなったからか、三人と目が合うとお互いに、なんとなく笑ってしまって、くすぐったいような、泣きたくなるような、良くわからない感情が湧き上がってくる。

「やっぱりもったいない」
「え?」
「あの芸術品のような顔を、前髪と眼鏡とそばかすで隠すなんて……っ」

クロエが朝からそんなことを言ってくるものだから、「ちょ、声抑えて」と慌てて口を塞ぐ。
誰にも聞かれていないかと、キョロキョロと教室を見渡すが、朝のこの時間はみんなお喋りに夢中で、誰も気にしていなかった。

「みなさま、ご機嫌よう」

と、そこに、現在このアカデミーで一番位が高く、今年の冬のデビュタントでも関心を集めるだろうと評判の美人であるロペス侯爵令嬢がやって来たことで、お喋りしていたみんなの注目を一気に拐っていく。

「オーロラ・ブルー・ロペス侯爵令嬢。綺麗な人よねぇ。二日前までは、あんな綺麗な子見たことないって思ってたけど、本物の美人を目にすると、言われてるほどでもない? って思っちゃうのよね」
「クロエ……」
「本物の女神様を前にしたら、あの自信は打ち砕かれるでしょうね」

まぁお母様は、毎年皇后陛下と一緒に、デビュタントする令嬢たちの自信を木っ端微塵にしてるって、アベルお兄様が言っていたけど……。

「それにロペス侯爵令嬢の友だちは、ロペス侯爵令嬢が皇太子殿下の婚約者に選ばれるって言って回ってるみたいよ」
「アスお兄様、人気だからね」
「もうっ、私たちはミーシャを応援しているからね!」

クロエは何を応援しているんだろうか??

「ミーシャってば、自分があのディバイン公爵令嬢だってことを自覚しなさいよね」
「クロエ! しーっ」
「どうせ授業参観でバレるんだから、時間の問題でしょ」

バレる前提!?

「今年の皇城でのデビュタントは、ロペス侯爵令嬢じゃなく、ディバイン公爵令嬢の話題で一色になるはずよ。あーあ、私も貴族だったら面白いデビュタントが見れたのに」
「ミーちゃんのデビュタントの話?」

デビュタントの話で盛り上がっている時に、コニーが教室に入って来た。

「コニー、おはよう」
「おはよう、コニー。そう! 私も貴族だったら見れたのに! って言ってたの」
「おはよう二人とも。そうだね。貴族って色々大変そうだから、なりたいかって言われたら遠慮したいけど、ミーちゃんのデビュタントは見たいよね」

などと話しているのが聞こえたのか、ロペス侯爵令嬢の友だちが、「貧乏男爵令嬢がデビュタントの話をしているわよ」と、馬鹿にするようにコソコソと話しているのが耳に入った。

貴族はカーストを気にするよう教育されているから仕方ないとはいえ、あまり良い気分ではない。だというのに、コニーもクロエも気にしていないようなので、頼もしく思ってしまった。

「参観日が楽しみよね」
「うん。あの鼻っ柱がポッキリ折れるのが楽しみ」

と二人が笑っていたことには気付かず、そろそろ先生が来るなと、教科書を鞄から引っ張りだしていたのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




~ おまけ ~


三人が帰った後、私は一人頭を抱えていた。
三人との友人関係が壊れなかったのはすっごく嬉しいけど、大問題が残っていたのだ。

授業参観、どうしよう……っ

『ミーシャ、なやむ。アオ、そーだんのる!!』

絶対いらない。

『アオ、かいけつできる!!』

引っ掻き回して終わるだけだと思う。

『ミーシャ、チロ、イイカンガエ、アルノ!』

アオの申し出を断っていた時だ。
私の肩に乗り、ずっとそばで見ていたチロちゃんが、顔の前に飛んできてそう言ったのだ。
アカやアオとは違い頼りになるチロちゃんは、くるくると周りを飛び回り、良い考えとやらを教えてくれた。

『ベル、テオ、ヘンソースルノ~!』

変装? お父様とお母様が?

『ミーシャ、イッショー』
「そうか……、お父様とお母様に私と同じような変装をしてもらえばいいんだ!」
『ミーシャ、ベル、オソローイ』
「うん。早速お母様たちに言ってくるね。ありがとう。チロちゃん」
『あーっ、チロ、めっ!! それ、アオいおーとした!!』

さすがチロちゃん! アオは、「おもちゃもっていくー!!」とかそんなしょうもないことを提案しようとしたに決まっている。だってアオだから。

『アオのてーあん、チロとった!!』
『チロ、トッテナイノ』

お母様たちにチロちゃんの提案を言いに行こうとしたのだが、後ろでアオとチロちゃんが珍しく言い合いになっていて驚いた。

「二人とも、ケンカしないで……」
『チロ、とったー!!』
『チロ、トッテナイ……』
「わかった。わかったから……。アオもチロちゃんと同じ提案、してくれようとしたんだよね。ありがとう」

ケンカしている妖精たちを引き離し、アオにお礼を言うと、アオは『アオ、ほんと、チロとおなじ……』としおらしくなってしまった。もしかしたら、本当に同じ提案をしようとしたのかもしれない。

「うん。アオありがとう」

抱き上げて頭を撫でたら元気になったので良かったけど、悲しませることになるかもしれないから、もう決めつけた態度を取るのは止めよう。反省だ。

『ミーシャ、アオ、しんじる?』
「うん。信じるよ」
『ミーシャ、チロモ』
「うん。チロちゃんも信じてるよ」

二人のキノコ帽子をなでなでしていると、珍しくアオが『チロ、アオわるいこした……、ゴメン』と謝ったのだ。これにはチロちゃんも驚いたようでちょっと動揺していたけど、

『アオ、アヤマッテクレタノ。チロ、ウレシイ』

そう言って、アオのほっぺにチュッとしていた。

『チロ、だいすき!! アオもチュッ』

妖精たちは今日も仲良しだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた

東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
 「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」  その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。    「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」  リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。  宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。  「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」  まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。  その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。  まただ……。  リシェンヌは絶望の中で思う。  彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。 ※全八話 一週間ほどで完結します。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」

みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」 ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。 「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」 王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

処理中です...