継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
171 / 187
番外編 〜 ミーシャ 〜

番外編 〜 ミーシャの日常、公爵邸招待編4 〜

しおりを挟む


ミーシャ視点


「───みんな、ごめんなさい!」

「わたくしの悪女顔が……」と言いながら落ち込んでいたお母様には、部屋から出て行ってもらって、正気を取り戻した三人に謝罪する。

嫌われるんじゃないかって、やっぱり怖くて、顔が上げられなくて、目をぎゅっと閉じる。

私は、友人たちに嘘をついていた。だから嫌われても仕方ないんだ。そう思うけど、こんな無愛想で会話も上手く出来ない私を、友と呼んでくれた人たちを失いたくない。

出来ることなら、ずっと友だちでありたい。

「……ミーシャ」

クロエが私の名前を呼ぶ。その声に余計体に力が入る。

怖い……っ、どうか、お願いします……っ、私のこと、嫌いにならないで!

「……まさかミーシャが、あのディバイン公爵家の令嬢だったなんてね」
「こんな庶民が話しかけてごめんなさい!」
「驚きすぎて、意識が飛んでいたよ……」

三者三様の反応だが、思っていたものと違い顔を上げると、クロエとナツィーは苦笑いしており、コニーはガチガチと歯を鳴らしていた。

「怒って、ないの……?」

恐る恐る聞けば、ハァッとクロエが溜め息を吐く。

「あのねぇ、公爵令嬢だって事を黙ってた事に、私たちが怒るわけないでしょ!」
「どちらかというと、怒ると思われていたって事に悲しくはなるけどね」
「こ、殺さないで! 不敬罪は堪忍してください!」

クロエとナツィーの言葉にハッとして二人の表情を見る。二人は呆れたような、納得したような、そんな顔をしていた。

「ディバイン公爵家の令嬢だなんて、そりゃ大変そうだもの。色んな事情もあったんだろうし……って、公爵令嬢にこんな失礼な態度取っちゃダメよね」
「失礼じゃないよ! 私、クロエとナツィーとコニーが友だちだって言ってくれて、仲良くしてくれて、すっごく嬉しかった! だから、だから……っ、三人が嫌じゃないなら、このまま友だちでいてほしい!」

騙していた私が、こんな大それたお願いしたらダメかもしれないけど、絶対失いたくないから……っ

「……何言ってるの!」

クロエの言葉に、無理だと続けられるのかと思って身体がすくむ。

だけど、

「こっちこそだよ!! こっちこそ、庶民でも友だちやってくれるなら……っ、今まで通りがいいんだからね!」
「私も、しがない子爵家の娘だけど……ミーシャとは身分なんて関係のない、今まで通りの友だちでいたい」
「わた、私……っ、ただの花屋だし、クロエみたいにお金持ちでもないし、ミーちゃんと友だちでいたいけど、私、不敬罪で殺されない!?」

三人とも、友だちでいたいって、言ってくれた───

「ぅ……っ」

込み上げてくる涙に我慢できず、嗚咽が漏れる。

「ミーシャ、何で泣いてるのよぉ……っ」
「ははっ、クロエも、泣いてるじゃないか」
「そういうナツィーも泣いてるじゃない!」
「こ、公爵令嬢泣かせちゃった……っ、不敬罪!!」
「コニーは違う意味で泣いてるわよね!?」

ぷはっと、コニーのおかしな言葉に、泣いていた皆が吹き出した。

「コニー、不敬罪なんて絶対ないから安心して」

涙を拭きながら、泣いてるコニーに言えば、

「で、でも、ナツィーすら畏れ多かったのに、公爵令嬢だなんて雲の上の人が、実家が花屋の私の友だち……」

と、また倒れそうになっているではないか。

「コニー、私のことも畏れ多いと思っていたの!?」

ナツィーはショックだったのか、先ほどの感動が嘘のように、涙が完全に引っ込んでしまった。

「仕方ないのよ。私たち庶民が貴族と友だちになれるなんて、ありえないことだもの」

クロエはそう言って、コニーに向き直ると、

「でもね、コニー。私たち、子爵令嬢や公爵令嬢と友だちになったわけじゃないでしょ」
「クーちゃん……」
「私たちが友だちになったのは、ナツィーとミーシャっていう、同い年の可愛い女の子たちなんだから」

ああ……。私はこんなにも自分を一人の人間として見てくれる友人に恵まれていたのか。

「うん……っ、そうだよね。ナツィーは動物に目がなくて、ミーシャはお喋りが苦手だけど、素直な可愛い女の子だったよね」

コニー……っ

「クロエ、ナツィー、コニー、ありがとう」

三人は微笑んで、

「「「友だちでしょ!」」」

と抱きしめてくれたのだ。



「はぁ……、泣いたらお化粧落ちちゃったじゃない」
「クーちゃん目の周りが黒くなってるよ」
「うっさい! 私だけじゃなく、ミーシャだってほっぺたが黒く……ん? くろい……??」

え、何? 私の頬が黒い??

「ミーシャ、あんた、そ、そばかすが……っ」

あ、そうだった。そばかす描いてたから、さっき涙を拭いた時に擦れたんだ。

「ちょっと待って。ミーちゃん、眼鏡取って、前髪あげてもらってもいい?」
「え、うん」

コニーの言うように、変装用の眼鏡を取り、前髪をかきあげると……、

「「「め、女神ィィーーーー!?」」」

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...