継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
169 / 187
番外編 〜 ミーシャ 〜

番外編 〜 ミーシャの日常、公爵邸招待編2 〜

しおりを挟む


ミーシャ視点


三人との待ち合わせ場所は、アカデミーのすぐ近くにある広場の、女神像の前。
いつものように変装した格好で、ドキドキしながら友人たちを待つ。

公爵家の馬車は少し離れた所に待機してもらっていた。

「ミーちゃんお待たせ」

後ろからぽんっと肩に手を乗せられ、体が跳ねる。

「コニー、おはよう。早いね」
「驚かせちゃってごめんね。ミーちゃんも早いね。まだ待ち合わせまでに20分以上あるよ」

クスクス笑いながら、コニーが時計台を見る。

「うん。早く着いちゃって……」
「じゃあ、二人が来るまで、そこのカフェで待ってよーよ」
「あ、うん」

コニーに手を引かれ、すぐそばのカフェのオープンテラスに腰を落ち着ける。
ここならクロエもナツィーもすぐにわかるだろう。

「ミーちゃん何頼む? 私はカフェラテにしようかな~」
「私も同じもので……」

ハァ……、この後の事を考えると、心臓がバクバクして息がしにくい。

「すいませーん、カフェラテ2つお願いします」

コニーが注文してくれて、すぐに美味しそうなカフェラテがやってくる。

「ミーちゃんの家に行くの初めてだね」
「う、うん。そうだね」
「貴族様のおウチに、どんな格好で行ったらいいのかわからなかったから、この間ホテルで着てたワンピースにしたんだけど、大丈夫かなぁ」
「普段の格好でも大丈夫だったよ」
「私は平民だもん。貴族様のお宅で失礼があったらダメだし」

おっとりした口調で、しっかりした事を言うコニーは、さすが花屋を手伝っているだけはある。

「ウチは気にする人はいないけど」
「私が気にするから~」

コニーのミモレ丈のスカートが、風でふわりふわりと揺れている。

おっとりした笑い声を聞きながら、クロエとナツィーが来るのを待った。

暫くして、二人も来て、カフェでお茶を飲んでから、ウチに行く事になった。
クロエとナツィーのコップの中の飲み物が減る度に、心臓が激しく鼓動する。

「ごちそうさまでした! よし、じゃあ男爵令嬢様のおウチにお邪魔しましょうか!」
「そうだね。楽しみだよ。確かミーシャの家には犬がいるって言ってたよね」
「貴族様のおウチ、ドキドキするねぇ」

皆が立ち上がり、会計をした後、カフェから出る。

「貴族街だとこっちに進めばいいんだよね?」
「ウチの馬車で行く?」

などと話している友人たちの背中を見ながら、息を整える。

「みんな、馬車があるから、それに乗って」

私の言葉に、皆の顔が固まった。

「どうしたの?」
「いや、だってミーシャ! 貧乏貴族のアンタに馬車を出してもらったなんて、何か悪い事しちゃった気がして……っ」
「馬車なんて私たち子供は滅多に出してもらえないから、何か気を遣わせてごめん」
「クーちゃんならまだしも……」

そうか。貧乏男爵家の娘設定だから、そういう反応になるよね……。

「大丈夫だよ。お父様もお母様も、特に何も言ってなかったし……」

私専用の馬車だから、好きに使っても何も言われないから。

「特に何も言ってなかったって、ちゃんと許可もらわなかったの!?」
「ミーシャ、それは良くないよ」
「ミーちゃん、ご両親にごめんなさい、しよう?」

誤解されてしまった……。

「許可はちゃんと取ってるから大丈夫。馬車はこっち……」

「本当に大丈夫なの?」と言いながらついてくるみんなは、不安そうだ。

「あれ、うちの馬車……」

待っていた馬車を指差すと、「え……、随分立派過ぎな馬車、だね……」ってちょっと引かれた。

「うわぁ……この馬、最高級の軍馬じゃないか……」
「ミーシャ!? 本当にこの馬車、ミーシャの家の馬車なの!?」
「うん……」

さっきから後ろを気にならない程度に離れ、ついてきていた護衛が馬車の扉を開けてくれる。
それに皆はぎょっとした顔をしており、血の気が引いていく。

貧乏男爵令嬢の馬車に護衛が付いているって、やっぱり変だよね……。

「みんな、馬車に乗って……?」

恐る恐る促すと、みんな顔色を青くして、

「ぇ、あ、う、うん」
「ほ、本当にこんな立派な馬車に乗って良いのかな……?」
「え、の、乗るの!?」

と言いながら、馬車の階段を上っていく。私が乗り終わると、護衛は扉を閉めた後、繋いでいた自身の馬へと飛び乗り、御者とアイコンタクトを取って、馬車がゆっくり走り出したのだ。

「す、すごい……極上の乗り心地……っ、この馬車、先日発表されたばかりの新馬車じゃない……」
「な、なんか内側の高級感もすごいね……」
「指紋一つ付けたらダメ……っ、触ったら処刑されるんだわ……」

クロエは座席の座り心地を確かめた後、キョロキョロと馬車を見て、ナツィーは緊張しているように、姿勢を正し、コニーは何にも触らないように膝の上で指を握り込み、真っ青になって震えていた。

私は、ただ俯いて足元を見つめていたのだ。

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...