継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
165 / 189
番外編 〜 ミーシャ 〜

番外編 〜 ミーシャ15歳の日常1 〜

しおりを挟む


ミーシャ視点


「ミーシャ! 聞いてっ、半年前から予約していたテュエベルホテルのスイーツビュッフェ、やっと明日行けるのよ!」
「へぇ、そうなんだ」
「そうなんだ、って、あのテュエベルホテルよ!? 超絶人気の、予約もなかなか取れないあ・の、テュエベルホテルのスイーツビュッフェなのよ!? 何そのうっすい反応!!」

アカデミーで出来た友人は、嬉しくて興奮しているのか、それとも私の反応の薄さに激怒しているのかわからないが、手を震わせながら、眦をつり上げて迫ってくる。

「いい!? テュエベルホテルは、今までの宿屋の常識を覆した世界初のホテルなの! 外観はもちろん、内装、設備、その他諸々、全てにおいて他の追随を許さず、今やホテル業界のトップオブトップ! その中にある絶品スィーツのお店、モンプティシェリのスィーツビュッフェなのよ!」

すごい熱量で一気に捲し立てられるが、無論知っている。
何せ、私はそこの元締めである、ベル商会の創設者、イザベル・ドーラ・ディバインの娘なのだ。知らないわけがない。

「ミーシャもなら聞いたことくらいあるでしょ!?」
「まぁ……」

だが、母も、もちろんディバイン公爵である父も有名すぎて、その影響力は面倒……、ゴホンッ、自分の実力を試すことも兼ねて、私はアカデミーを男爵家のミーシャとして一般受験し、通うことにしたのだ。
その際、母にだけは言っておいたが、父や兄たちには内緒にしている。

だから、ここで出来た友人たちは私がディバイン公爵家の娘だとは誰も知らない。
母似のこの顔にも眼鏡をかけ、そばかすメイクまで施しているのだから、バレるはずもない。

「もう! そんなに反応薄いと連れて行ってあげないんだからね!」
「え?」
「だーかーらー、ミーシャと明日行く為に、半年前から予約していたの! もうすぐあなた、15歳の誕生日じゃない」

ああ、そういえば、誕生パーティーの準備をお父様がはりきって何ヶ月も前からしていたような気がする。
デビュタントもあるからって、ドレスも色々作るって言ってたっけ……。

「誕生日、お祝いしてくれるの?」
「そうだって言ってるでしょ!」
「……ありがとう」

この子はクロエといって、裕福な商家の娘で、13歳の年にアカデミーを一般受験した際、たまたま隣の席で受験していたことで出会い、父に似て無愛想と言われる私と仲良くしてくれている数少ない友人だ。

「だから、明日は絶対予定を空けておくのよ!」
「……うん」
「もちろん、ナツィーとコニーも一緒に行くからねっ」

ウィンクしてふふんっと笑うクロエは嬉しそうだ。

ちなみに、ナツィーは男爵家の令嬢で、活発で動物をこよなく愛している、コニーはお花屋さんの娘でおっとりしているが、芯が強い。どちらも、同じクラスで自然と一緒にいるようになった友人だ。

「楽しみにしている」
「じゃあ、明日はまずアカデミーに集合してから、テュエベルホテルへ行くからね!」
「わかった」



翌日、いつも通りそばかすメイクを施し、眼鏡をかけてから、アカデミーに行く用のすごしやすいワンピースを着て玄関に向かっていた。
父も兄たちも、朝食後は早々と仕事に行くので、2年間この格好をしていてもバレたことはない。

「まぁミーシャ、今日はアカデミーはお休みでしょう? どうしてアカデミー用の格好をしていますの?」
「お母様、今日は友人たちとテュエベルホテルへ行ってきます」
「あら、お友だちとお出かけですのね。楽しんできなさい」
「はい」

我が母ながら、皆に女神と言われるだけあって、無駄にキラキラしている。が、昔から母は、私のやりたいようにやらせてくれるのでそんな所も大好きだ。
男爵家の身分も母に手配してもらった。

父も兄たちも母が大好きだから、我が家は母を中心に回っているのかもしれない。

「行ってまいります」
「いってらっしゃい」

母と使用人に見送られ、いつもと同じように公爵邸を出ると、アカデミーの少し手前まで馬車で送ってもらい、後は徒歩で門の前まで移動する。

すでにナツィーとコニーが待っていて、私を見つけ、手を振ってくるので、振り返した。

「二人ともおはよう」
「「おはよー、ミーシャ」」
「クロエは?」

言い出したクロエの姿がなく、周りを見る。

「クロちゃんまだみたい」

コニーがおっとりと返事をし、何が嬉しいのかニコニコしているので首を傾げた。

「ミーちゃん、15歳おめでとう」
「コニー、ミーシャの誕生日、は来週でしょ」
「でも、今日はミーちゃんのお誕生日を祝うために集まったんだし、おめでとうを言いたいの」
「そっか。そうだね! ミーシャ、15歳おめでとう!」

二人はそう言って祝ってくれた。

「うん。ありがとう」

友だちにお祝いしてもらえるって、嬉しいことだな……。

「みんなー! お待たせ!!」

クロエの声がして顔を上げると、馬車からクロエが手を振っていた。

「わぁ、馬車だぁ」

コニーがおっとり声を上げ、ナツィーがポカーンとしている。

「さぁ、乗って、乗って!」

目の前にやって来た馬車から顔を出したクロエは、そう言って私たちを馬車に乗せ、出発させたのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

処理中です...