継母の心得 〜 番外編 〜

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番外編 〜 アベルとフローレンス 〜

番外編 〜 算盤をやってみよう 〜 アベル5歳

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「今日は算盤を使って計算してみましょうね」

子供たち専用の勉強部屋。ディバイン公爵家にはそんな部屋がいくつか用意されている。その中の一つの部屋で、わたくしは教鞭を取っていた。

「そろばん! すべるー!」
『アベル、かっこいい!』
「エビフラーイ、シャカッ、エビフラーイ、シャカッ、おっきなおっきなエビフラーイ! シャカシャカッ」
『フローレンス、音楽の才能があるよ!』

アベルが生まれてから5年。今日からアベルに算盤を教えてあげようと思い時間を作って、そこにたまたまフロちゃんも遊びに来たので、じゃあフロちゃんにも。と思って誘ったのだが、

見事に学級崩壊をおこしていますわ。

「アベル! 算盤をスケートみたいに履かないの! フロちゃんも、算盤はマラカスじゃないのよ。シャカシャカ鳴らさない」
『メッ、ヨ~。ベルコマル~!』
「おかあさま、チロ、おこらない、おこらない」
「妖精女王様、チロちゃん、ごめんなさい」

アベル、怒らせているのはあなたよ。そしてフロちゃん、わたくしは妖精女王ではなくてよ。

「さぁ、アベルはその足の下にある算盤を机に乗せなさい。フロちゃんもよ。そしてウィル、ナサニエル、あなたたちは契約者を甘やかさないの」
『ベル、ごめんなさい……』
『ついつい、可愛くてさ!』

アベルの精霊ウィルと、フロちゃんの妖精ナサニエル(愛称なーたん)に注意する。

正妖精が、とうとうフロちゃんに名付けてもらったって喜んでいたのが懐かしいわ。

「はい。では二人とも、席についてちょうだい」
「「はーい」」

返事だけは良いのよね。

この算盤は、ノアが5歳の時、イフに頼んで作ってもらった物で、算盤が出来上がった当初は、ノアやイーニアス殿下だけでなく、テオ様やウォルト、皇后様まで習いにくるという画期的なものだったのだ。

算盤の前身のような計算機は元々あったのだけど、やっぱりこの前世の算盤の方が使い勝手が良いのよね。

まぁ、今では皆、そろばん式暗算が出来るようになったから必要なくなったのだけど。

「ではまずは、算盤の基本的な使い方を教えますわね」

初めはどうなる事かと思っていた算盤の授業は、案外上手くいった。

授業の前半で使い方を。後半で計算を少しやらせてみたけれど、集中しだすと優秀な子たちだから、楽しそうにやっていたわ。
若干、珠を元の状態に戻す作業に面白さを見出していたようだけど、これから何度もやっていれば、計算も早くなるでしょう。その後はそろばん式暗算を教えていけば将来役に立つでしょうし。

「できたー!」
『アベル、計算はやーい!』
「できた!」
『ボクのフローレンスも計算はやいよ!』
『ベル、オシエカタ、ジョ~ズ~』

精霊や妖精は皆親バカなのかしら。
アカやアオも自分の契約者が大好きなのよね。チロも。

「はい。じゃあ今日はここまでですわ。明日も同じ時間に授業しますからね」
「「ありがとうございました!」」

アベルとフロちゃんは、ちゃんとお片付けをして、部屋を飛び出していった。
これからノアの所に行くのかもしれない。

ノアは今の時間だと、イーニアス殿下と一緒に魔法の訓練か、裏の訓練場でアスレチックを使って体力作りをしている頃かしら。

二人とも影も騎士も顔負けの強さなのに、これ以上強くなってどうするのかしらね。

『ベル~、チロネ、“ミーシャ”、ミニイク~』
「そうね。ミーシャはおりこうさんにしているかしら」
『ミーシャ、オリコウヨ~』

1歳になるわたくしの娘、ミーシャ・ルルーシア・ディバイン。この子の名前は、わたくしとテオ様が出した案からノアが選ぶという素敵なエピソードがある。
いわば名付け親がノアだからか、お兄ちゃんっこになってしまって、テオ様がヤキモチをやいているのが困りものだが。

「ミサキ」、「ミーシャ」、「ルルーシア」、「アイリス」、「ルテア」、「アビゲイル」この中から、ノアは「ミーシャ」と「ルルーシア」を選んだ。
ちなみにテオ様は「ルテア」と「ミサキ」、わたくしは「アイリス」と「アビゲイル」をそれぞれ推していたのだけれどね。

「マディソンがお世話をしてくれるから、本当に助かりますわね」
『マディソン、スゴイネ~』
「本当に。アベルに続き、ミーシャまで。頭が下がりますわ」

などとチロと話しながら勉強部屋を出て、ミランダと共に娘のいる部屋へと向かったのだ。


「マディソン、ご苦労さま。ミーシャはいい子にしていたかしら」
「ん~まーま」

最近少しずつ喋るようになった娘を抱き上げながら、マディソンにお礼を言えば、「ぐずる事もございませんでしたし、ずっとおもちゃで遊ばれておりました」と教えてくれた。

「ミーシャ、おもちゃで遊んでいたの。楽しかったですわね」

ひらひらの上質な生地とレースで出来たドレスを着せられ、柔らかな触り心地のおもちゃで遊んでいる娘は、ディバイン公爵家のお姫様として、皆から溺愛されている。

「マディソン……、将来ミーシャがわがままな子に育ってしまったらどうしましょう……」

悪役令嬢とか言われるようになってしまったら……。

「奥様がそのように思われている限り、そのような未来は来ませんのでご安心ください」

マディソンの言葉は説得力が違いますのよね。

「ありがとう。わたくし、甘やかさないよう気をつけますわ」

と、そこへ……、

「ミーシャは起きているか」

ノック音と扉を開ける音がほぼ同時なのではないかという不思議現象を起こしながら飛び込んできたのは……、溺愛の主犯であるテオ様だった。

「ベル、私の愛しいひと。今日は私たちのお姫様の為にデザイナーを呼んだ。ミーシャの愛らしさをより引き立たせるドレスを作らせよう」

甘やかさないと言ったそばから、テオ様が甘やかしにくるのだけれど、どうしたらいいのかしら。

テオ様、マディソンが呆れたような顔で見ておりますわよ。

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