継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 アベルとフローレンス 〜

番外編 〜 次男の名前 〜 アベル0歳

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テオバルド視点


どうしたものか……。まさか私とベルの子供がアベラルド様の生まれ変わりだとは……っ

「旦那様、やはりお子様は、聖者でいらっしゃるのでしょうか」

ウォルトが深刻な表情でこちらを見つめてくる。
もし、あの子が聖者だと知られてしまえば、ディバイン公爵家といえど教会の介入は免れないだろう。

「……そのようだ。しかも、歴代で最も力の強いと言われた聖人だ」
「……どうなさるおつもりですか。このままディバイン公爵家で、誰にも知られぬようお育てになるのか、それとも教会へ報告するのか……」
「教会へ報告するなどあり得ん! 私とベルの大切な子だ。お前もそれは十分に理解しているはずだろう」

教会になど報告しようものなら、自分の子と引き離される事は目に見えている。
ここ100年以上聖者など現れてはいないのだ。教会側も、聖者の存在が明らかになれば、取り込もうと必死になるだろう。
それも、ディバイン公爵家の子供ともなれば、教皇となり、皇女との婚約まで早々に整えられ、あの子に自由はなくなる。

「もちろんでございます。しかし、このまま誰にも知られぬようお育てするには、あまりにも人の目がございます。何しろ、イーニアス殿下も、皇后陛下も、皇帝陛下すら気軽にお越しになるのですから」
「わかっている……。しかし、皇家に関しては、あの子を聖者として公表しない限り何かを求めてくる事はないだろう」
「そうでしょう。しかし、人の口に戸は立てられません。公爵家の中だけであれば、魔法契約で可能でしょう。しかし、ご成長すればそういうわけにはいかないかと……」
「言われなくともわかっている……。かといって、閉じ込めて育てるなど出来るはずもない」

私たち夫婦の宝だ。可愛い我が子に自由さえ与えてやれぬ親になどなりたくはない。

「……せめてあの子が成人するまでは、公爵家で育て、何があっても治癒魔法は使用させぬようにする。成人後は、あの子の意志に任せる事にしよう……」
「かしこまりました。旦那様がそのようにお望みであれば、我々“影”はあなた様に従います」

大丈夫だ。あの子は誰にも奪わせない。


◇◇◇


「“アベル・ユリシーズ・ディバイン”という名はどうだろうか」

ベッドに座り、こちらを見る愛しい妻に、ずっと考えていた次男の名を告げると、妻は満面の笑みを浮かべ、

「素敵な名前ですわ!」

と喜び、愛おしそうにその名を呼ぶのだ。

「アベル……。アベラルド様からいただいたのですね」
「ああ」
「わたくしたちの、二番目の息子ですわ」
「そうだ。ノアとアベル、二人は私たちの宝だ」

ベルは笑みを深くすると、その美しい声でテオ様と、私の名前を紡ぐ。

何と愛しい女性なのだろうか。

「どうした、ベル」
「わたくし、あなたと結婚できて、可愛い息子たちに恵まれて、本当に幸せですわ」
「っ……ああ。私も、君と結婚できて、子供たちの父親になれて幸せだよ」

必ず、ベルも息子たちも、何者からも守りぬこう。

「ふぇっ、ふぇっ、ぇ~」
「あらあら、アベル、どうしましたの? お父様に抱っこしてもらいたいのかしら」

聖母のように微笑み、私を見る妻に負け、アベルを抱き上げる。相変わらずふにゃふにゃとして潰れてしまいそうだ。

「あらテオ様、赤ちゃんを抱っこするのが上手になっていますわね」
「生まれてから毎日抱っこしているんだ。上手くもなるだろう」
「フフッ、そうですわね。次はアベルをお風呂に入れてみますか?」
「私がか?」

赤ん坊を風呂になど……恐ろしくて無理だ。

「大丈夫です。わたくしが入れ方をお教えいたしますわ」
「……ベルがそう言うなら、やってみよう」

本当に、ベルと結婚してからというもの、初めて体験する事が多い。
しかし妻が一緒ならば、何でも出来そうなきがするのはどうしてだろうか。

「ノアとも一緒に、お風呂に入ってくださいましね」
「ああ」

可愛いお願いをしてくる妻を抱きしめたいが、今は息子をこの手に抱いているからな。また後で抱きしめる事にしよう。



この小さな息子が、あの聖女と後に、教会を巻き込んだ大事件を起こす事になるとは、想像もつかなかったのだ。

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