継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 ノア13歳、アカデミーに入学前日 家族団らん 〜

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ノア視点


「ノア、いよいよ明日からアカデミーに入学ですわね」
「はい、お母様」

夕食後のお茶を飲んでいると、お母様がにこやかに、明日のアカデミー入学式の事を聞いてきた。
お父様はお母様の笑みに見惚れているのか、じっとお母様だけを見つめているのはいつものことだ。

「いいなぁ、お兄様。オレも早く、アカデミー通いたい」
「……ミーちゃんも」

可愛い弟妹たちは、羨ましそうに私を見る。
二人の上目遣いが小動物のようで、とっても可愛い。

「アベルもミーシャも、13歳になったら通えるのだから、すぐですわよ」
「オレ、アスお兄様と通いたい!」
「ミーちゃん……、おにぃしゃまと」

弟と妹はちょっと難しい事を言って、お母様を困らせていた。

「イーニアス殿下と通うのは難しいけど、リューク殿下とは一緒に通えるよ」
「うーん、まぁ、リュークとでもいっか」
「まぁっ、アベル、不敬ですわよ」
「いいの。オレとリュークの仲だし」

アベルとリューク殿下は年も近いから仲が良いけれど、リューク殿下は皇族なのだから、他の貴族の前では礼儀を持って接するように教えてあげないといけないよね。

「親しき仲にも礼儀ありと言いますのよ。それに、高位貴族であるアベルがきちんと礼儀を守らないと、誰も守らなくなってしまいますわ」

そう思っていたら、お母様がアベルに言い聞かせているので、私も同意する。

「お母様の言う通りだよ。アベル」
「でも、オレたち友だちだもん。リュークも、オレがよそよそしいのは嫌がるよ。お兄様だって、よそよそしいとアスお兄様が嫌がるでしょ」
「それは……」

アス殿下は、確かに私が余所余所しいと悲しむかもしれない。

「アベル、ノアは時と場所に応じて振る舞いを変えているのですわ。皇族を立てながらも、友人としてそばにいるには、必要なことなのです。ねぇ、テオ様」
「そうだな。我々は庶民ではなく、貴族だ。貴族とは、ただ威張る者の事ではない。富、権力、社会的地位の保持には責任が伴うものだ。 身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務がある。リューク殿下は皇族であり、皇族の責任は貴族の比ではなく重い。だからこそ敬われ───」

お父様、アベルにはちょっと難しい言い回しかもしれない……。

「お父様、オレ、よくわからないよ」
「む……。ベル……」

案の定、理解できなかったアベルの返事に、お父様は眉を八の字にして、お母様に助けを求めた。
お父様はお母様の前でだけ、ああして甘えている気がする。

「フフッ、つまり、公の場では友だちであっても礼儀を持って接しましょう、ということですわ」
「はーい。わかったよ、お父様、お母様」

アベルはまだ8歳だし、今後色んな人と交流を持つようになったら、お父様とお母様が言っていた意味もきちんと理解できるだろう。

ミーシャはじっとアベルを見て……? あ、眠いみたい。

「ミーシャ、眠いの?」

抱き上げると、私の服をきゅっと掴み目を閉じる。

幼い妹は、感情を表に出すことが苦手で、言葉もあまり話さないので、こうして良く観察して気付いてあげなくてはいけない。

「ノア、気付いてくれてありがとう。ミーシャを寝かしつけたら戻ってくるから、ノアはアカデミーに持っていく荷物をもう一度チェックなさい。忘れ物のないようにね」
「はい。お母様……、あの、アカデミーでは、新しいお友だちもできるでしょうか……」

ミーシャをお母様に預けながら、少し不安に思っていた事を口に出すと、お母様は穏やかな笑みを浮かべ、「心配ありませんわ」と言ってくれた。

「だってノアは、優しくて、勇敢で、賢くて、わたくしの自慢の息子ですもの。きっと向こうから群がってきますわよ!」
「お母様……」

久々にお母様に抱きつくと、とても温かくて、お母様の優しい匂いがして安心できた。

「ノア、不安な時やモヤモヤしてる時は、お母様やお父様に相談すること。忘れてはダメですわよ」

心配かけないようにしないと。と思っていたけれど、お母様が相談しなさいと言ってくれて、アカデミーへの期待と不安にソワソワしていた心が、少し晴れた気がする。

「はい」
「もちろん嬉しい時も、家族にお話してくれると、嬉しさが倍増しますのよ」
「嬉しい事をたくさん報告できるよう、楽しみます」
「ええ。学園生活を思いっきり楽しみなさい!」
「お兄様、アカデミーがどんな所だったか、絶対教えてね!」
「ノア、しっかり勉学に励むように」
「はい!」

こうして家族に激励され、翌日アカデミーへと入学したんだ。



『アオ、ノアのため、アカデミーしたみした!! あんないできるー!!』

まさかアオがアカデミーに着いてきて、大事件を起こすことになるなんて、思ってもみなかったよ。

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