継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
121 / 187
番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの里帰り5 〜

しおりを挟む


ノア視点


今、カーラは聖者と言わなかったか?

聖者とは、光魔法を使い、傷や病気をたちまち治してしまうという、奇跡のような存在だ。
この世界に数十年以上姿を現さず、もはや伝説と言っても過言ではない。そんな中フローレンスは、数十年ぶりに現れた聖女だった。

そのせいで殺されてしまったけれど……。
そんな存在が、私の弟……?

『やはり、闇の力をかき消してしまうほどの強さの光……、これは、セレーネ様のお力ではなく、”セレス様”のお力を継いでおられるのか……』

セレーネ……? セレスとは一体誰だろうか……

光る繭のに前足を乗せ唸っているカーラを静かに眺める。
何かを確認しているようだ。

『なるほど。前世の魂と同様の能力をお持ちですか……。どうやら私の封印は必要なさそうですが、セレス様は騒ぎ出しそうですね』
「カーラ、私は良くわかっていないのだけど、私の……弟? は、聖人なのかな?」

一人……一匹? で納得しているカーラに恐る恐る問えば、そうです。と頷くカーラの肯定に血の気が引いた。

そんな……っ、もし、この事が皇族に知られてしまったら、フローレンスのように……っ

『ノア様、心配いりません。現皇帝も次期皇帝も聖人を利用するような人物ではございませんから』
「? 君の話によれば、私はもう一度人生をやり直しているんだよね?」
『はい』
「なら、現皇帝はネロウディアスのはず。次期皇帝は、リュークだろう」

ネロウディアスは好色で欲深い男だったはずだ。リュークもその性質を色濃く継いでおり、母親のオリヴィアはもっと酷い。悪魔のような女だ。皇族も貴族も皆、腐り切っていた。

『現皇帝はネロウディアスですが、次期皇帝はイーニアス殿下です』
「!? イーニアス……っ」

イーニアス殿下は、フローレンスを狙い、義母と共に私を殺そうとした人物だ。

『イーニアス殿下は、ノア様ととても仲の良いお友達だと、イザベルお嬢様から伺っております』
「ばかな……っ」
『お心の美しい方で、ノア様と同じように妖精とも契約され、海賊の王様になるのが夢だと、お嬢様はお手紙で教えてくださいました』
「海賊!? いや、妖精と契約って……」

一体何がどうなっているんだ!?

『……ノア様、あなた様は”今のノア様”でもあるのですから、ご存知のはずです』
「っ……」
『別人ではないのですよ。同じ魂の同じ人物です。あなた様は間違いなく、を生きておられます』

今……そうだ……。

カーラの言葉に、“今”の記憶が一気に流れ込んでくる。

───私は、侵略者から民を守る為、必死で戦って……そして……

「あの時、死んだんだ……」

思い出した。

『ノア様……』
「そして、生まれ変わった」
『お嬢様は、それを回帰と言っておりました。また同じ人生をやり直す事だそうです』
「回帰……。ああ、そうだ。私は……」

私は今、両親に愛されている───



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「ノアが泣いていますわ……っ、怖い夢でも見たのかしら」

さっきまで幸せそうに笑っていたというのに、何があったの?

ハンカチで眠っているノアの目元を拭いてあげると、一瞬ノアが笑っているように見えたが、気のせい……?

「お嬢様、ノア様とアベル様をじっと見ていても何も変わりませんよ」

サリーはそう言って、特製の激マズ青汁を出してくると、「一気にどうぞ」と一歩下がる。
シモンズ邸にいた時は毎日出てきたのよね、これ。

「何も出来ないってわかっていますわ。でも、心配なの」

今ならわかる。これ、日本の青汁を参考に作っているのだわ。だからだったのね。あんなに粗食だったのに栄養失調にならなかったのは。

「……まっず」

久々に飲んだら、口の中に苦味と臭みが広がって大変な事になっている。

「お嬢様、そこは続けて『もう一杯』と言っていただかないと」
「口が裂けても言えませんわよ。それよりリバースしちゃうからお水をちょうだい!」

などと大騒ぎしている所で、アベルの身体からにゅっと黒豹が出てきたのだ!

「カーラが戻りましたね」
「カーラ!?」

い、今、アベルの身体から出てきましたわよ!?

『お嬢様、こちらにいらしていたのですね』

黒豹が喋りましたわ! 本当にカーラがこの黒豹ですのね……っ

「カーラ、ノアとアベルは大丈夫ですの!?」
『もちろんです。すぐにお目覚めになられますよ』

その言葉に安堵し、ノアとアベルの手を握ると、暫くして「にゃ……」と可愛い子猫のような声を出したノアが薄っすらと目を開けたのだ。

「ノア!? 目が覚めましたのね!」
「……おかぁさま……? アベル……」

ノアは目覚めてすぐ、アベルが無事か確認し、きょろきょろしている。

「ノアが守ってくれたから、隣で眠っていますわ」

そう伝えればほっと息を吐く息子は、とても優しい子に育っている。

「おっきぃ、ねこちゃんは……?」
『私はこちらにおります』

黒豹のまま、カーラがノアの前に出てきたのでぎょっとした。

「!? ねこちゃん、おしゃべり、するのね」
『私は神獣ですので、お喋りできます』
「ちんじゅー!! おかぁさま、ちんじゅーよ!!」

ノア、珍獣ではなくて神獣……ん? 随分前にノアが言っていた珍獣って……もしかして、神獣の事でしたの!?

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

処理中です...