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番外編 〜ノア5歳〜 〜
番外編 〜 夢での邂逅1 〜 イザベル臨月
しおりを挟む崩れ落ちた家々、瓦礫の転がるひび割れた道、人の居なくなったボロボロの街。
見覚えがあるこの通りは、イルミネーションで彩られていたはずなのに、面影すらなく、お城のようなディバイン公爵邸は、お化け屋敷のように廃れてしまっている。
これは……夢の中?
ふわふわと浮いているわたくしは、ネグリジェに裸足で、身体も透けている。
なんて恐ろしい夢をみているのかしら……。
ディバイン公爵領が、まるで戦争の後のようにボロボロになって……。
「ノア様……っ」
突然、ノアを呼ぶ声にハッと顔を上げ振り向くと、そこには二人の青年の姿があった。
一人は煤だらけで汚れてはいるが、シアーグレージュの髪の……どこかで見た事がある顔立ちをした男性と、テオ様……? いえ、あの銀髪は、ノア!?
大人になったノアですわ!!
うわぁっ、なんて素敵な男性になっているのかしら!! テオ様よりも柔らかい雰囲気の超絶美形ですわね! さすがわたくしの息子ですわ。ということは、そばにいるのはサイモン君?
「ノア様、あなた様だけでも国外に脱出してください」
「……」
「もう、ここに守るものなど何もないではないですか。フローレンス様も……っ、殺されてしまったのですから……」
え……? フロちゃんが、殺された……?
ノアらしき青年は、黙ってサイモン君らしき青年の話を聞いている。表情はピクリとも動かない。
まるで、全ての感情が抜け落ちてしまったかのようだ。
「もうこの国は終わりです。リューク皇帝の治世になってから、何もかもがおかしくなってしまいました……っ、それもこれも、あのオリヴィアが、国を売るような真似をしたから……!」
「サイモン……」
オリヴィア側妃!? え、オリヴィア側妃は亡くなられていますわよ!?
何ですの、この夢……、もしかしてここ……っ
「オリヴィアは、自分よりも大切にされるという稚拙な理由で、聖女であるフローレンス様を殺し、他国と通じていたのですよ! こんな事は……っ、あのイザベルよりも質が悪い、」
「サイモン!」
前前世の、わたくしが死んだ後の事!?
「っ……申し訳ありません。感情的になってしまいました……」
「いや、いいんだ……。もう、ディバイン公爵領も、他国の侵略に抗う力は残っていない……。だけど私は、逃げたりはしないよ」
「ノア様!」
「私はここで、最期まで…………ぇ?」
え? わたくし今、ノアと目が合っている……?
「何で……っ」
「ノア様、どうかされたのですか?」
自分の後ろを見たけれど、誰もいない。という事は……、
「お、お母様……っ」
『もしかして、わたくしが見えておりますの!?』
「どうして……!? あなたは、私が殺したはず……っ」
ノアにそう言われるとグサッときますわね……。しかも臨戦態勢になっておりませんか?
『待ってくださいまし! わたくし、あなたに危害を加えようとは思っておりませんのよ!? 』
「そんな事は信じられないっ」
ノアに信じてもらえませんわ!
「あの、ノア様……一体どうされたのですか!?」
「サイモン! イザベル・ドーラ・シモンズだ!」
「!? まさか蘇って……!? ……いえ、誰もいませんが……??」
「あそこにいる! 透けているけど……透けて……!? 幽霊!?」
『違いますわよ!?』
これ、夢よね? にしては随分リアルですわ……。
「じゃあ何で透けて……」
『わたくしの夢だからじゃないかしら??』
「何を言って……」
つい答えてしまって、ノアがとても戸惑っている。
『あの、ノアは今いくつになったの?』
「は……?」
見た目はテオ様よりも若い気がするわ。二十代後半かしら。
「そんな事より、なぜ殺したはずのあなたがここに……っ、成仏出来ずにうろついていたのか!?」
『だから幽霊じゃありませんわよ。って、わたくしを殺した……という事は、やはり前前世の世界の夢を見ているのかしら?』
「前前世? 何を言って……」
つまり、目の前にいるのは、わたくしが虐待したノアということですのね!?
『の、ノア……』
わたくしがノアの名前を呼べば、目の前の青年ノアはビクッとする。
夢だとしても、わたくしが酷い事をしたノアなら、せめて謝らないと……っ
『ノア、ごめんなさい。わたくし、幼いあなたに、絶対やってはいけない酷い事をしてしまいました。そして、成長したあなたにも……』
「……」
『今更と思うかもしれませんけれど、あなたの心の傷はなくならないかもしれないけれど、本当にごめんなさい……っ』
「何を……」
『悪魔に操られていたとはいえ、とんでもない事をしてしまいました』
「っ……」
『許してほしいというわけではありませんの。ただ、夢だとしても、せっかくこうして会えたのですもの。謝罪したかったのですわ』
「そんな勝手な……」
そうですわね。勝手な事を言っておりますわよね……。
「ノア様、本当に、あのイザベル・ドーラ・シモンズがいるのですか?」
「……ああ、透けていて、浮いている」
「悪霊なのでは!?」
「いや、悪霊というよりは……発光していて、妖精のような……」
え、わたくし発光していますの!?
「あの悪女が、妖精?」
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