継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの母5 〜 ノア5歳、イザベル臨月

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人間じゃない……? 今、人間じゃないと言いましたの?

「イザベル様のお母様であるセレーネ様は、“闇の女神”です」
「「「!?」」」

サリーの衝撃的な話に、その場にいた全員が息を呑む。

「……い、いやだわサリー。冗談なんて言って……っ」
「冗談ではございません。セレーネ様は闇の女神であり、あなた様は闇の女神の娘なのです」

サリーは、何を言っておりますの……?

「セレーネ様は、たまたま人の姿で地上に降り、そして旦那様と出会いました。惹かれ合ったお二人は結婚し、セレーネ様は人間として生をまっとうする事をお決めになられたのです」
「……では、一緒にいたというカーラという侍女も、人外か」

呆然としているわたくしに代わり、テオ様がサリーへと質問している。

これは……わたくし、夢を見ているのかしら?

「カーラは闇の神獣です」

どうやらこの夢だと、わたくしの乳母は闇の神獣らしい。という事は、サリーは闇の神獣の子供なのね。

「お嬢様、私とカーラは親子ではありません」
「え……?」
「お嬢様が夢でも見ているかのような顔をされておりますので、セレーネ様がどのようにして地上に降臨され、旦那様と出会い、なぜお亡くなりになられたのか、そして、なぜお嬢様を中心に回帰が行われたのか、少し
「回帰……!? 見せるって……サリー、」

サリーの言葉に戸惑い、どういう事なのかと口に出そうとした刹那、わたくしたちは光に包まれたのだ。



「───ここは……」

光が収まり目を開けると、そこは真っ白な空間で、周りを見れば、隣にはテオ様が、目の前にはサリー、そして後方にウォルトがいた。

「お嬢様、これからお見せするのはセレーネ様の記憶です。信じられないとお思いかもしれませんが、よくご覧ください」

その言葉の後、白い空間が、見たこともない美しい景色へと姿を変えたのだ。

ここは……花畑?

「外……?」
「旦那様、このような花は見たことがありません……」

ウォルトの言った通り、見た事のない花々の……花びらだろうか、足元から空に向かって舞い上がり、キラキラと輝いている。
そばにはギリシャのパルテノン神殿のような建物があり、どこからか水が湧き出て建物の床を濡らしていた。自然に出来た水鏡に空が映って、天国にでもいるような気分だ。

「……ここは天界ですから、ある意味間違いではないかもしれません」

わたくしの思考を読んだように話すサリーは通常運転なので今まで気にはならなかったのだが……。

「天界だと……」
「ここは記憶を映し出した幻ですので、本当に天界に来たわけではありません」

戸惑うテオ様に、またもや思考を読んだように答えるサリーに、もしかしたら本当に思考を読んでいるのかもしれないと、そう思い始めた。

「このような芸当ができるという事は、あなたも神に連なるお方なのでしょうか」
「それは、こちらを見ていただければわかります」

ウォルトの疑問には答えず、サリーは指を差す。
その先には……

オリヴァーと同じ、ホワイトミルクティーベージュの髪をなびかせ、わたくしと瓜二つの顔をした女性が立っていたのだ。

あぁ……っ、あれは……

「お母様……っ」

駆け寄ろうとして、テオ様に腕を掴まれる。

「ベル、落ち着け。この侍女の言う事が本当ならば、今見ているものは幻だ」
「テオ様……っ」

あれが幻? 本物のように見えますわ……っ

『セレーネ様、創造神様から地上に降りる許可をもらったというのは本当ですか』

お母様に、大きな黒豹が近付いていく。
黒豹は人の言葉を話し、お母様はそれを当然のような顔で聞いているのだ。

『カーラ、そうなんです! お父様が地上に降りる許可をくれるなんて初めてですから、わたくし今からドキドキしております!』

カーラ!? あの黒豹が、カーラですの!?

『では、セレーネ様お一人では心配ですから、私もご一緒いたします』
『それは心強いですが、何だか腑に落ちない言い方ですね……』

わたくしそっくりのお顔で、唇を拗ねたように尖らせるお母様の姿に、少し恥ずかしくなる。

でも、お母様のあの表情、カーラに叱られた時によくしていましたわ……。

懐かしい記憶が蘇ってきて、何だか泣きたくなった。

すると突然シーンが変わり、わたくしたちはいつの間にかシモンズ伯爵領に立っていた。

この道は……、一年前は毎日行き来していた、我が家の畑へ続く道だ。


『───人間の身体というのは、重い気がしますね』
『神は肉体のない魂のようなものですから、受肉すると重く感じるかもしれません』
『カーラ、あなた、人の姿がよく似合っていますよ』
『私は二本足で歩く事に違和感があります』

わたくしが見た事のあるカーラと、先程と姿は変わらないが、周りのキラキラしたオーラのようなものが消えた母が、笑いながら歩いているではないか。

「こうして、セレーネ様は地上に降りてこられたのです」

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