継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
93 / 187
番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 ノアと祝福の儀3 〜 ノア5歳

しおりを挟む


水色の長い髪や白い古代ギリシャ風の服から水がボタタっと滴る男性は、ゾンビのようによたよたと歩きながらノアへと近づく。

「て、テオ様」

恐怖で悲鳴を上げそうな自分を必死で抑えながら、隣のテオ様にしがみつくと、テオ様はわたくしを抱きしめてくださって、落ち着いた声でこう言ったのだ。

「あれが水の神なら大丈夫だ。私も自身の祝福の儀で、聖水が倒れた。つまりそういう事だったのだろう」

えー……。

ノアもアオも、ちょっと引いていますわよ。

『───……』

ノアに何かを言っているようだけど、こちらまでは聞こえてこない。

顔も髪に隠れて見えないし、あれが水の神だとしたら何がしたいのかしら……。
わたくし、ホラーは本当に苦手ですのに……っ

ノアは怖がるアオを抱きしめたまま、じっと貞男……ゴホンッ、水の神を見ている。そして、頭を撫でられ……、え?

突然、水の神が立ちブリッジをしたと思ったら、方向を変えこちらへと顔を向けたではないか!

怖いっ、怖いですわ!!

「て、テオ様……っ、わたくしたちを見ておりますわ……」
「ベル、大丈夫だ。頭のおかしな神なのだろう」

案の定、あの有名なホラー作品のように動き出した水の神は、こちらへブリッジで向かってくるではないか!!

「ヒィッ!」
『コワイ! アス、アカコワイよー!』
「アカはわたしがまもる!」

テオ様のお隣に座っているイーニアス殿下が、キッと水の神を睨む。

ペタペタと音をさせながら近付いて来た神が、わたくしの前でピタッと止まる。
テオ様はわたくしを抱きしめ、ブリッジしたままの水の神を睨んでいた。

わたくしはといえば、恐怖とこのわけのわからない状況に、テオ様の腕の中でパニックだ。

『───…私は、ホラーが好きだ……ホラーはよい』

水の神の声に、見えている者たち皆が固まった。

『ホラーの絵本を、作るがよい』

そう言って、ブリッジしながら祭壇方向に向かっている途中で、スーッと消えてしまったのだ。


…………ムリぃ!! 

何言ってますの!? あの神何を言ってますのォ!? わたくしの愛息子の祝福の儀に、何をしに来たんですの!?

「神託か……?」

テオ様、絶対違いますわよ!

「無視しましょう。わたくし、怖い事は苦手ですわ!!」
「君がそう言うのなら、そうしよう」

ディバイン公爵家から、水の神の像を無くそうかしら……と思った瞬間でしたわ。


すでに祝福と神の加護をもらっていたノアだから、祝福の儀では何も起こらないと思っていたけれど、風と水の神から頭を撫でられ、何故かいつもよりも輝いていた。

「これは……っ、水の神が加護をお与えになられたのか……っ、親子でこのような奇跡が起こるとは、さすがディバイン公爵家」

聖水の入った容器が倒れたからか、司教はそう言ってありがたがってお祈りしていたが、見える者には恐怖と困惑を与えた儀式であった。



「───ねぇ、ノア。あの貞男……水の神は、儀式中ノアに何て話しかけていましたの?」

儀式を終えた後の馬車の中で、先程の事をノアに聞くと、

「あのね、こども、こおいうえんしゅつ、すきだろう。っていってたのよ」
『アオ、いや!! あれコワイ!! みずのかみ、いつもアレやる!! コワイ!!』

もしかして水の神は、子供が喜ぶと思ってやってる!?

「アオ、だいじょおぶよ。もういないの」
『ノア、だいすきー!!』

アオったら、日に日にノアにベッタリになっていきますわね……。

「おかぁさま、みずのかみさま、アオに、『ひかりのこ、ノアをまもるために、みずのちからも、あたえてやろう』っていってたの」
「え!?」

ノアの話に驚きテオ様を見れば、テオ様はアオを胡散くさそうに見ていた。

そういえば、キノコ帽子の青みが深まったような……あら? アオの瞳も、黄色から緑になっていますわ……。

『ベル、このあと、ごちそうまってる?』
「え、ええ。邸に帰ったら、ノアの5歳のお祝いパーティーですわよ! 教会にも来ていた家門の方々も来られるから、大人しくしておりますのよ」
『おかし、たくさんある?』

話を聞いておりませんわね。

「まったく……。たくさんありますわよ」
『おかし、たくさーん!!』
「ベル、君は、パーティーは欠席しないか」
「テオ様、大丈夫ですわ。椅子に座っておきますし、ノアのお祝いなのですもの。絶対出席したいのですわ!」
「無理だけはしてくれるなよ」
「はい」

心配性な旦那様ですわね。

こうしてノアの祝福の儀は、たくさんの方にお祝いしてもらい、少しの困惑とたくさんの幸福を残して終わったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


「しょれ、ふりょのごはん!」
「え……これ、ぼくのエビフライ……」
「めっ、ふりょの!」
「さいごのいっこだったのに……」

さいごのいっこのエビフライを、おさらにいれてたべようとしていたら、すっごくかわいいおんなのこが、ぼくにはなしかけてきた。

うれしくて、どうしたの? っておへんじしたら、エビフライをとられちゃったんだ……。

「あら、エビフライがもう無くなっちゃったのね。大丈夫よ。すぐに作ってもらいましょうね」

そのとき、すっごくキレーなめがみさまがあらわれて、やまもりのエビフライをくれたんだよ!

「しょれも、ふりょの!」

すぐにうばわれちゃったけどさ……。

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...