継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
92 / 187
番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 ノアと祝福の儀2 〜 ノア5歳

しおりを挟む


「皇帝陛下、本日は我が息子のためにこのような場まで赴いていただき、誠にありがとうございます」
「うむ! ノアのためだ。盛大に祝うのだ!」
「皇后陛下、イーニアス殿下も、わざわざお越しいただき、感謝いたします」
「テオ様の正装を見る……ゲフンッ、可愛いノアちゃんの祝福の儀だもの。楽しみだわ!」
「うむ! ノアは、べっしつに、いるのだな」

キョロキョロと探し、ノアがいない事に気付いたイーニアス殿下は、自分も経験があるのですぐにノアが別室へ待機している事を理解していた。

「はい。息子は別室で清めの儀式を受けております。殿下も一年前に受けられたとは思いますが、それが終わりましたらこちらで祝福の儀が始まります」
「おぼえている。あたまに、せいすいを、ふられたのだ」

テオ様と一年前の祝福の儀について盛り上がっているイーニアス殿下の横で、皇后様が、わたくしのお腹を見て、「イザベル様、出産予定日まで後ふた月だったわよね。体調はどうなの」と話しかけてくる。

「はい。まだ臨月ではないですが、やっぱりお腹が大きくなると、歩くのもままなりませんわね。でも、元気はありますわ」
「あら。イザベル様、臨月になるともっと大きくなって、下に落ちてくるわよ」
「今でもお腹が張り裂けそうなのに、本当にこれ以上大きくなるのでしょうか……」
「なるわよ。人体は不思議なんだから! 多分今も腰は痛いし、足も浮腫んでいるかもしれないけど、これからが踏ん張りどころよ!」

さすが出産経験者。よくご存知だわ。

「でもそうやって、日々大切さやかわいさが増していくのよね。毎日触って、毎日話しかけて……」

イーニアス殿下がお腹にいた時のことを思い出しているのだろう。皇后様はイーニアス殿下を見てから、自分のお腹をそっと撫でていた。

「朕も……イーニアスがレーテのお腹にいる時、たくさん話しかけたかったのだ……」

皇帝陛下は洗脳されていましたものね……。

少し寂しそうなお二人に、

「わたしは、ちちうえとははうえが、いま、わたしにはなしかけてくれるほうが、もっとうれしいのです!」

とイーニアス殿下が言った時、少しうるっとしてしまいましたわ。



「───……これより、ノア・キンバリー・ディバインの、祝福の儀を執り行ないます」

教会の祭壇には、創造神、と焔、水、風、土、光、闇の六神の像が並び、そこに白い礼服を上から羽織ったノアが跪いている。

まるで神々の前で天使がお祈りしているみたい……。

ノアの周りでは、ふわふわとキノコを光らせるアオと妖精の卵たちが踊っている。アカはイーニアス殿下に抱っこされ、キノコを揺らしながら光っていた。正妖精は、フロちゃんのそばでニコニコとそれを見ている。

するとフワリと風がふき、キラキラと妖精の卵たちが風にのって舞い始めた。

『風の神だね』

イーニアス殿下の時の虹の光はなかったけれど(すでに祝福されているから)、正妖精が呟いた瞬間、キラキラの妖精の卵が混ざった風が、ノアの前に集まっていき、人の形を作っていく。

そして、淡いグリーンの長い髪をなびかせた美しい女性が現れたのだ。

「きらきらのかぜから、ひとができたのだ……」
『アス、あれかぜのめがみ! ひとちがう!』

アカ曰く、風の女神様らしい。
テオ様を見ると、表情がピクリとも動いていないので、予想していたのだろうかと感心する。

『風の神、すっごく嬉しそう。ノアに直接会えたからかな。テンション上がってるね! 頭まで撫でてるよ』

何だか推しに会えて悶えている人に見えてくるわ……。

すると、女神様はこちらをニコニコと見て、その後わたくしの後方を見てからギョッとした顔をして、慌ててかき消えたのだ。

何かしら?

わたくしも後ろを見るが、お父様とオリヴァー、サリーにドニーズさんとフロちゃん、正妖精そのさらに後ろにウォルト、ミランダ、カミラと、いつものメンバーしかいないのだけど??
横にはムーア医師にマディソンだし……。

「水の神はいないようだな……」

テオ様が呟くが、わたくしふと思ったのですわ。

「水がないと来られないのではないでしょうか??」
「焔の神は火柱が上がって現れただろう」
「でも、その前に蝋燭の火が収束していくような感じもありましたわ」
「……それならばあの聖水が、」

テオ様が喋っている最中だった。
突然、祭壇に置かれていた、聖水が入っていたアンティークな水差しの容器が倒れ、中身が溢れ出てしまったのだ。

『コワイ! アス、アカコワイ!』
「アカ、どうしたのだ?」

アカがイーニアス殿下に抱きついて震えだす。
アオも愉快なダンスを止め、ノアに抱きついていた。

「な、何かしら……」

ぴちゃん……、ぴちゃん……、と祭壇の上に拡がった水が、床へと落ちる。

そして───……

「何だ、あれは……っ」

テオ様が息を飲み、水溜りを見ているので、何かしら? と注目すると、

ぬっと手が出てきたではないか!!

「ヒェッ!」

手は、そこにあるものを確かめるように動き、その後ズボッと勢いよく肩まで出すと、ぬっと頭が出てきたのだ。

こ、これ……、これはまさか……っ、井戸の中から出てくる呪いの……っ

ぶはぁ! とびっちょびちょの長い髪をしたたらせ、顔も髪で隠れてしまっているが、水溜りからはい出てきた男性は、祭壇をはって下ってき、ゆらりと立ち上がった。

『アオコワイ!! ノア、みずのかみ、コワイ!!』

やっぱりあの呪いのビデオから出てくる系の人、水の神なんだわ!!

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...