78 / 187
番外編 〜 ノア3〜4歳 〜
番外編 〜 狙われたイザベル3 〜 ノア4歳、イーニアス5歳
しおりを挟むミランダには止められたが、お返事していないとはいえ、手紙をくださった上でお越しになっているのですもの。
そう考え、カミラと護衛にはノアをお願いし、お客様をお迎えしたのだけど……、
「お願いいたします!!」
わたくしの目の前で、二人の男性の土下座が繰り広げられているこの状況、一体どうしたら良いのかしら……。
話は少し前に遡るのだけど、お客様を客用の応接室にお通しするよう指示をして、わたくしもそちらへ向かったのよ。
部屋に入ると男性が二人、立ち上がって頭を下げ、挨拶を交わすと、
「ディバイン公爵夫人、私はウィニー男爵領で商人の同業組合の組合長を任されております、ケヴィンと申します。本日は不躾に突然の訪問をいたしました事、お詫び申し上げます」
と謝罪をいただいたのよね。
もう一人の男性は、ケヴィンさんの部下らしいのだけど、二人ともとても腰が低い方でしたわ。
「こちらこそ、お手紙をいただいたのに、すぐにお返事が出来ず申し訳ありませんわ」
「いえ、とんでもございません! ディバイン公爵夫人がお忙しいのは重々承知しております」
「そうですか……あの、それで、本日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょう?」
「っ実は……」
用件を話してくださるのだと思っていたその時、どういう訳かケヴィンさんとその部下は土下座をしたのだ。
そして今、わたくしの目の前で、その土下座は続いているというわけだ。
「ちょ、お二人ともどうされたのです!? お立ちになって!」
「ディバイン公爵夫人、お願いいたします! どうか……っ、どうか我々に、奇跡と言われるその知恵を、お貸しいただけないでしょうか!」
「お願いいたします!」
えぇ!?
ミランダと護衛がわたくしの前に立ち、警戒しているが、二人は土下座をし、額を地につけたまま懇願していた。
「……お二人とも、何か理由がございますのね。その理由をわたくしに教えていただけないかしら?」
「公爵夫人……っ」
その後、メイドが二人を支えソファに座らせると、再度向き直ってから話を聞いたのだ。
「───実は……」
ケヴィンさんはウィニー男爵領の現状を話してくれた。
「ウィニー男爵領地は、この国の最北端に位置し、火の季節(夏)であっても防寒着を着なければ過ごせない、8割が未開拓の大地と言われる、人が住むには大変困難な土地なのです」
「ええ。文献からの知識ではありますが、存じ上げておりますわ」
「な、なんとっ、あの不毛な領地をご存知でしたか!」
わたくし、趣味が貴族名鑑と歴史書と地図を照らし合わせて読むことですの。この国の貴族家の成り立ちは大体把握しておりましてよ。
「そんな領地で唯一、人が住める場所に小さな町を作り、細々とですがやってまいりました。確かに過酷な場所ですが、人々は逞しく、ウィニー男爵も代々民の事を考えてくださるお人柄で、貧乏領地ですが、平和に暮らしていたのです」
少し前のシモンズ伯爵領と似ておりますのね……。他人事とは思えませんわ。
「しかし昨年、ウィニー男爵が雪崩に巻き込まれ、帰らぬ人となり、一人息子のニール様が、たった15歳の若さで男爵を継ぎ、一年頑張ってこられたのですが……、昨年の、男爵様のお命を奪った雪崩が……っ、我々の糧である山への入口を塞いでしまい……っ」
涙を流しながら、危機的状況の領地の話をしている二人に、胸が痛んだ。
「奥様、少しよろしいでしょうか」
その時、ミランダが珍しく話を遮ったのだ。
「どうしたの? ミランダ」
「そのお話で少し疑問に思ったのですが……、現ウィニー男爵でも、補佐でもなく、商人組合の組合長がこちらに来られたのはどういう事なのでしょうか」
確かに、商人が領地に関して、しかもわたくしのような素人に嘆願してくるのは、変よね。
「ニール様は、現在帝都へ、皇帝陛下に人員の派遣を嘆願しに向かっております。そしてニール様の補佐を務めておりますのが、私です! なにぶん貧乏な領地ですので、商人と兼業しております」
なるほど。現ウィニー男爵の補佐もされていましたのね。
「昨年雪崩が起きたと仰っておりましたが、なぜ今、陛下に嘆願をするのです?」
「その、今までの皇帝陛下は……あまり評判がいいとはいえず……」
しどろもどろになるケヴィンさんに、ああ、そういえば皇帝陛下は、洗脳されて悪辣非道と言われておりましたわよね……、と思い出し、納得してしまった。
「わかりましたわ。ですが、陛下への嘆願に行かれたのであれば、わたくしのような素人ではなく、陛下がお知恵と人手を貸してくださいますわ。どうしてわたくしなのです??」
「それは……あなた様が、奇跡を起こす女神様だからです!!」
1,014
お気に入りに追加
8,499
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

妻の死で思い知らされました。
あとさん♪
恋愛
外交先で妻の突然の訃報を聞いたジュリアン・カレイジャス公爵。
急ぎ帰国した彼が目にしたのは、淡々と葬儀の支度をし弔問客たちの対応をする子どもらの姿だった。
「おまえたちは母親の死を悲しいとは思わないのか⁈」
ジュリアンは知らなかった。
愛妻クリスティアナと子どもたちがどのように生活していたのか。
多忙のジュリアンは気がついていなかったし、見ようともしなかったのだ……。
そしてクリスティアナの本心は——。
※全十二話。
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください
※時代考証とか野暮は言わないお約束
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第三弾。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる