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番外編 〜 ノア3〜4歳 〜
番外編 〜 不死鳥の冒険1 〜 ノア4歳、イーニアス5歳
しおりを挟む不死鳥視点
わしは焔の神殿に住む神獣、不死鳥だ。
先日、氷の小僧が約束していた、わしと相性の良い人間をやっと連れて来おった。
小僧、良くやった! イーニアスというのか!! 利発そうな子ではないか!
さっそく印を付け、イーニアスを神殿の管理者にする事が出来た。すでに妖精と契約している事は気に入らんが、まぁ些細な事だ。何しろわしとイーニアスは、神獣と管理者。契約よりももっと深い仲だからのぅ!
本人は気付いておらんようだが、管理者と神獣は一心同体。イーニアスは、わしの魔力が馴染めば、わしの使える魔法は全て使えるようになるし、わしは人化が出来るようになった。
もちろん神がいれば人化も出来るが、地上に降りてくることなど滅多にないからな。
「久々の人化よのぅ」
宝物庫にある姿見の前で人化し、身だしなみを整える。
見た目は人間でいう20代前半。燃えるような真っ赤な髪色は、不死鳥姿の時と同じで美しい。瞳は赤から金のグラデーションで、顔の造形はイーニアスに似ておる。色味もイーニアスは似ておったから、やはりわしらはこうなる運命だったのだ。
「やはり管理者の姿に引っ張られるが、イーニアスは美男子じゃからな!」
今までで一番の造形よなぁ!
「さて、人化も出来たし、久々に人間の街に繰り出そうかのぅ」
屋台、というのはまだあるだろうか。随分昔に食べた、あの串に刺して焼いた肉はなかなか美味かった。硬いパンも、スープに浸して食べるのだったな。覚えておるぞ!
「そうじゃ、金がいる。これらが使えるかのぅ。ダメならイーニアスの所に行って、宝石と金を交換してもらおうぞ!」
よし、小僧の言うておった冒険とやらに、出発じゃ!!
「イーニアスはグランニッシュ帝国の帝都に居るのだったか……、まずは帝都で美味いものを食って、イーニアスに会いに行き、氷の小僧の所にも寄ってみるかの!」
わしは宝物庫に落ちておった金貨を、同じように落ちていた袋につめ、グランニッシュ帝国の帝都へと転移したのだ。
◇◇◇
おおっ、なかなかに賑わっておるではないか!
姿が見えぬよう魔法をかけ、街の上空から様子を見ていると、昔よりもたくさんの人間が蠢いておった。
「建物も、小綺麗で立派なものが建っておる。なるほど、昔とは随分趣も変わっておるようだ……ん?」
どこからともなく、美味そうな匂いがしてきたではないか!
「な、何だ!? この鼻につくような独特な香辛料の……にもかかわらず食欲をそそる強烈な匂いは!!」
匂いの元を辿ると、子供も大人も何やら茶色いパンのようなものを持って、美味そうに食っておるではないか!
すぐに地上に降りると魔法を解き、それを持っておる者に声をかけた。
「おいっ、その美味そうな匂いのものは何だ!? どこに売っておるのだ!?」
「ぅわっ、びっくりした……。何だあんた、帝都は初めてかぃ? これは『カレーパン』といって、今帝都で大人気のパンなのさ!」
「か、かれ、パン?」
初めて聞く名だ。
「この先にある、『おもちゃの宝箱』って店の二階に店があってな、そこで出されるもんはみんなうめぇが、中でもこのカレーパンは最高さ!」
「ちょいとお兄さん、何言ってんだぃ! 持ち帰り用なら、あたしはクレープが最高に美味しいと思ってるよ!」
「ちょっと待ちなよ。それならドーナツが美味しいさね!」
「いやいや、そこはおめぇ、ポテトフライが一番だろう」
どんどん人が集まってきて、何が一番美味いかの言い争いになっておる。
「なるほど、その『おもちゃの宝箱』とやらに行ってみれば、美味いものがたくさん食えるということか」
「「「「間違いねぇ!!」」」」
わしの言葉に、言い争そっていた者らが大笑いしておるわ。
人間とはよくわからぬ生き物よのぅ。
教えてもらった店に行くと、何やら店の外では店員らしき者が、板のようなものを配っておった。
「そこの者、ここが『おもちゃの宝箱』という店か」
「いらっしゃいませ。こちらがおもちゃの宝箱でございます。お客様は、おもちゃをお求めでしょうか、それともカフェをご利用されますか?」
「わしは、みなが食っておった、かれ、パンというのを食したい」
「カフェのご利用ですね。店内で召し上がられるのであれば、1時間ほどお待ちいただかないとならないのですが、お持ち帰りでしたら15分ほどでご案内出来るかと思います」
なんと、そんなに待つのか!
「待つのはどこで待てば良い」
「こちらの番号札をお持ちいただき、一階のおもちゃ屋をご覧になっていただいても大丈夫ですし、番号をお呼びしますので、その声が聞こえる所であれば、外で待っていただいてもかまいません」
「なるほど。では、持ち帰りで、おもちゃとやらを見せてもらおうか」
「かしこまりました。それではこの番号札をお持ちになって暫くお待ちください」
わしは賑わう店内へと足を踏み入れたのだ。
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