継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 オリヴァーと女神信者の邂逅2 〜

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オリヴァー視点


「あなたのお噂はかねがね聞き及んでおりますよ。シモンズ伯爵子息。改めまして、エリオット・コーデン・イートンと申します」

肩甲骨のあたりまで伸ばした髪を後ろにまとめ、端正な容姿をしているにもかかわらず、眉間にシワを寄せ、神経質そうにメガネを上げる仕草で印象が台無しになっているこの青年は、そう言って手を差し出した。

「オリヴァー・ルーカス・シモンズです」

姉様と同じくらいの年齢だろうか。
なんというか……気難しそうな人だ。機嫌が悪そうだし……。

「君とは前から話をしてみたかったんです」
「そ、そうなんですか?」

それにしては不機嫌そうなんですが。

「せっかくですから、ミュージカルをご一緒に鑑賞しませんか? 良いですよね。姉上」

え……。

「もちろんよ」

何でこんな事に───!?


隣に座って、難しい顔をしながらメガネを上げるイートン侯爵に、メガネを新調した方がいいんじゃないかな。と思いながら、ピクリとも笑わない様子に話しかけることもできず、緊張がピークに達して胃が痛くなってきた。

お義兄様だって無表情だけど、目は優しいのに。イートン侯爵の目は、獲物を前にしてギラギラしている目というか……。

「……あの、」
「少し黙っていてくれませんか。今、ミュージカルの上演前に精神統一をしている所ですから」
「…………はい?」

今、この人なんて言った?

「アカ、とんではだめなのだ。みなに、めいわくをかけてしまう。わたしのとなりに、すわるといい。うむ! アカのための、せきなのだぞ」

前の席では、イーニアス殿下が独り言を話し、隣の空席を見てにこにこしている。
異様な光景だが、イーニアス殿下については妖精と契約していると聞いていたから、きっと妖精と話しているのだろう。と、そっと目をそらす。

「……どんぐり森の妖精……。女神イザベル様の第五弾の絵本をミュージカル化するとは、素晴らしいですね……」

もう、僕は何も聞こえない。

ミュージカル鑑賞をご一緒しませんかと言ってきたのはイートン侯爵なのに、そのミュージカルが終わるまでこちらに一切見向きもしなかったので、何の為に一緒に観ているのかわからなくなったよ。

初対面の人と話しながらミュージカルっていうのも、正直気まずいんだけどね。


「───ふぅ……。やはりイザベル様のお選びになった劇団だけあり、素晴らしい完成度でしたね」
「……」
「オリヴァー君、良ければこの後、おもちゃの宝箱(カフェ)でお茶でもしながら話をしませんか?」

さっきまでシモンズ伯爵子息って呼んでたのに、急に距離をつめてきた!?

「あ、いや……その、」
「あら、いつの間にか仲良くなったのね。オリヴァーもこの後アカデミーの授業ないんだから、二人で楽しんできたら」

何故か僕のスケジュールを把握している皇后陛下が話に加わり、強制的に男二人でカフェに行く事になったのだ。


紅茶に砂糖を入れた後、音をほとんどたてる事なくティースプーンで混ぜるイートン侯爵は、きちんとしたマナー教育を施されているのか、上品で高位貴族特有の雰囲気がある。

お義兄様もノアも、こんな上品で高貴な雰囲気を漂わせている。

「……オリヴァー君は、アカデミーで何を専攻しているのですか?」

またお姉様の事を聞かれると思っていたが、意外にも聞いてくるのは僕の事で……。

「え、僕ですか? 僕は……経営学と、動植物に関する研究や、農業の発展など、領地経営に役立つ事を専攻しています」
「私もアカデミーに在籍中は、経営学や農学を専攻していました。勉強熱心なオリヴァー君に、地誌学も取り入れる事をおすすめします。より多角的に物事を見る事が出来るようになりますよ」
「地誌学……実は前々から気になっていたんです」
「授業では、特定地域の地域構造や地域性の解明を目的に進められていきますが、なかなか面白いものですよ」

いつの間にか、変人だと思っていた人と、アカデミーの授業内容で話が弾み、あっと言う間に時間が過ぎていたのだ。

「───今日はとても有意義な時間を過ごせました。ありがとうございます」
「いえ。僕も楽しかったです……実は、姉の事を聞かれるのかと思っていたので……」
「? 私はオリヴァー君と話をしてみたいと言ったはずですが。オリヴァー君からイザベル様の話を聞きたいのではなく、君自身の話を聞きたいからお誘いしたのです」
「そ……ぅなんですか?」
「そうなんですよ? もちろん、イザベル様はご尊敬申し上げておりますが、それとこれとは話が別です」

そう言ってイートン侯爵はメガネをクイッと上げると、「それではまた」と言って去って行ったのだ。

変わった人だったけど、何か……、ほんのちょっと、嬉しい気もするな。


この、よくわからない関係は、死ぬまで続いて行く事になるのだけど、この時の僕は知る由もなかったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


『アス! アカ、みゅーじかる、たのしみ!』
「うむ! わたしも、たのしみだ! よーせーが、でてくるのだぞ。アカのような、かわいいよーせーだろうか」
『アスすきー! アカ、かわいい!』
「わたしも、アカがすきだ」
『アス、だいすきー!』
「アカが、だいすきなのだ」

「朕の子、可愛すぎる!!」




「姉上、イーニアスの独り言、酷くないですか。医者に診せた方が良いのではないでしょうか」
「え? 何言ってんのよ。あんたの独り言の方がよっぽど酷いわよ」
「私のは、推しへの愛が溢れてしまっただけです」
「わかるけども」


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