継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 オリヴァーの婚約者選び1 〜

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悪魔が滅びてからすぐの事だ。
実家のシモンズ伯爵家から、何故かわたくしではなくテオ様宛に手紙が届いたらしい。

その手紙を見たテオ様が、わたくしを執務室に呼び、お話を伺っているのだけれど……。

「え、オリヴァーの婚約者選び?」
「そうだ。そろそろオリヴァーの婚約者を選定したいから、パーティーを開きたいと、義父上から連絡がきたのだが……」

だが、何ですの?

「どの家の令嬢を招待すればいいのか分からないらしい」

お父様……!

まぁ我が家は貧乏だったから、社交なんてほとんどしておりませんでしたし、仕方ない事かもしれませんが……。
だからテオ様にご相談されたのね。でもテオ様は、重度の女嫌い。ご令嬢なんて見るのも嫌な方だから、そんな情報持っておりませんものね。

それで、わたくしが執務室に呼ばれましたのね。

「なるほど……、確かにわたくしは、一応公爵夫人ですし、令嬢に関しての情報網もございます」

皇后様という最強の情報網が。

「一応ではない。私の妻は、ベル、君だけだ」

執務室のソファに隣あって座っているテオ様が、わたくしの頬に触れる。

「テオ様……」
「ゴホンッ、ゴホンッ」

わざとらしい咳に、そういえばウォルトも居たのだわと、慌ててテオ様から距離をとれば、「ウォルト、邪魔をするな」などと言うものだから、顔が火照ってしまいますわ。

ウォルトは構わず話を続けておりますが。

あっ、テオ様、人前で抱き寄せたりなさらないで。恥ずかしいですもの。

「ゴホンッ。奥様が選ばれたご令嬢をシモンズ伯爵家のタウンハウスにご招待し、オリヴァー様と接点を持たせるというのが今回の主な目的であり、すぐに婚約を結ばせるという事ではございません。ですので、奥様もお気を楽に考えていただければ大丈夫です」
「そうですの。ですが、オリヴァーに想い人がいた場合は……」
「こちらでお調べした限りでは、そのようなお方は居られないようです」

まぁ! すでに調べておりますのね。さすがウォルトですわ。

「分かりました。それであれば弟の為に、わたくしが素敵な令嬢方を抜選いたしますわ!」
「奥様、シモンズ伯爵家は今や新素材で多くの財を築き、発言力も増してございます。そしてディバイン公爵夫人であるあなた様のご実家でもあるのです。つまり、オリヴァー様は優良物件。虎視眈々とご令嬢方が狙っておりますので、ご考慮くださいますよう」

ウォルトの言葉に、オリヴァーがライオンの群れに狙われる草食動物のように思えてきましたわ。

「今考えておりますのは、ディバイン公爵家門のご令嬢方、それと、皇后様のご親戚のご令嬢なのですが、テオ様とウォルトはどう思いまして?」
「新素材の製造方法はシモンズ伯爵家で秘匿とされている。製造方法が盗まれる可能性も考慮し、下手な家門の者よりは、公爵家の家門の者を選ぶ事が無難ではあるか……」
「いっそのこと、魔法契約を結ぶ事を婚姻の条件にした方がよろしいかもしれませんね」

仕方のない事とはいえ、男性陣は随分とドライな考え方ですわ。

「皇女を降嫁させる事も考えた方がいいかもしれないな」

突然の夫からの提案に度肝を抜かれる。

「皇女様をですか!?」

昔からの血筋とはいえ、しがない伯爵家に皇女様が降嫁!? 皇帝陛下がお許しにならないのではなくて!?

「ベル、驚く事ではない。シモンズ伯爵家はディバイン公爵家の親類。そして十分な財も権力もある。オリヴァーも優秀な跡取りだ。皇女が降嫁する事に反対する者などいない。むしろ、喜んで差し出すだろう」

差し出すって……。

「そうですの……。承知しましたわ。明日にでも皇后様に相談してみます。あの方なら、オリヴァーにも、シモンズにもより良き方を紹介して下さるでしょうし」


◇◇◇


翌日───

昨夜、妖精通信で皇后様にアポを取ったわたくしは、ノアを連れ皇宮を訪れていた。

「それで、今日はどうしたの?」

手土産のプリンをそれは美味しそうに食べながら、わたくしを見る皇后様に、実は……と弟の話をする。皇后様の後ろでは、すでにプリンを食べ終えたノアとイーニアス殿下が、楽しそうに遊んでいる姿が目に入った。

「あら、そういう話なら、アタシは是非ウチの娘を候補に上げて欲しいわ!」
「皇女様ですわよ!?」

皇后様まで旦那様と同じ事を仰るなんて……。

「勿論無理にとは言わないけど、正直な話、シモンズ伯爵家とは縁を結んでおきたいのよね。ほら、新素材って国を揺るがす大発見でしょう。それなのに、“ゴム”とか、“ビニール”とか次々発明しちゃって。皇室からしてみると、もう脅威よ」

とぶっちゃけすぎた話を、プリン片手にする皇后様。

「それに、ディバイン公爵家に権力を集中させるのもあまり良くないのよ。だからアタシとしては、ウチの娘か、アタシの親戚筋の娘がベストなのよね」
「そうですの……」
「まぁ、今回は顔合わせのパーティーなんだし、こちらからも候補を上げておくから、テオ様と相談して招待してちょうだい」
「ありがとう存じますわ」


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