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その他
番外編 〜 ある妊婦さんの話 〜
しおりを挟む私の住んでいる場所は、グランニッシュ帝国でも最高の領地と言われる中心地にある領都だ。
何がどう最高かって、美しい街並みも、整備された道も、女性が一人歩きしても大丈夫な程の治安の良さも勿論なのだけど、一番はやっぱり、子供用品と“マタニティグッズ”が充実している事と、育児支援が最先端をいっている所だろう。
私は今、妊娠5ヶ月なのだけど、今日は“マタニティグッズ”を買いに、“ショッピングモール”へ行こうと思っている。
家のすぐ近くにある駅のベンチで、ショッピングモール行きのレール馬車を待つ私の目の前を、ベビーカーを押す女性が通り過ぎていく。
私ももうすぐ、ベビーカーを押しながらお出掛けするんだわ。
そんな事を思っていると、レール馬車がやって来た。
うわぁ、今日は混雑していて座れそうにないかも……。
「お姉さん、良かったらここに座りな」
おばさまが声を掛けてくれて、席を譲ってくれる。
「アタシは次の駅で降りるからね!」
「ありがとうございます」
周りを見ると、さっき私の前を通り過ぎていった女性も席を譲ってもらっている。
私はこの街のこういう優しい所が大好きだ。
「次は、ショッピングモール前駅~」
暫くレール馬車に揺られ、春の陽気にうつらうつらしていた所で、運転手さんの声が車内に響いた。
降りなきゃ。
駅から見える大きな建物。大手建設会社の社長さんでもあり、一級建築士でもあるイフさんと言う方が設計し建てられたもので、もう築10年になる。
この中には、国中で知らない人はいない、“おもちゃの宝箱”というおもちゃ屋さんや、子供用品専門店、マタニティグッズ専門店、介護用品、模型ショップなど、有名店が入っている。それだけでなく、病院や保育施設、子育て支援センターもあり、食料品も売っているし、カフェやレストランなどもある。
ここに来れば何でも揃うと言われるお店だ。
「えっと、今日は妊婦帯と、インナーと、パジャマも欲しいのよね!」
来たついでだし、子育て支援センターにも寄って行こうかな。
「───聞いたか! 女神様が視察に来てるらしいぞ!」
「嘘っ! 女神様が来てるの!?」
先に買い物しようとショップに向かっていると、周りからそんな声が聞こえてきて、嘘でしょ!? とついキョロキョロと女神様を探してしまった。
皆がおもちゃの宝箱がある方へ向かっているので、私も急ぎそちらへ向かう。
子供の頃から憧れていた女神様に、会えるかもしれない!
「キャーッ! 女神様こっち向いてくださーい!!」
「握手してぇ!!」
「イヤァ! 美しすぎるー!!」
この世のものとは思えない美しい女性が、人集りの中心をこれまたこの世のものとは思えない麗しい中年の男性と一緒に歩いているではないか!!
「はぁ~っ、何て美しいの……っ」
4年前よりもさらにお美しくなられているわ……っ
女神様は領主様の奥方様だ。隣の男性はもちろん領主様で、お二人は大変仲が良いと評判の夫婦だ。
領主様のお邸で4年に一度、メイドの採用試験が行われているのだが、ものすごい倍率で引くくらい人が殺到する、この街の名物とも言っていい試験なのだ。
ちょうど4年前、私も他の皆と同じように女神様のメイドになりたくて、ディバイン公爵家の使用人試験を受けたのよね……。二次までは合格したんだけど、最後の、女神様やお子様たちを見て、すぐ正気に戻らないといけない試験で不合格になったのよ……。
あんな麗しい御一家を見てすぐ、正気に戻れるわけないじゃない!!
私の友達も全滅だったわ。
今年はその採用試験の年で、ついひと月前に行われたのだが、やはりものすごい倍率だったそうだ。
私も妊娠してなければ再挑戦したいと思っていたので、また4年後、改めて挑戦したいと思う。
「はぁ……素敵だったぁ~!!」
ショッピングモールのスタッフルー厶へと入って行った女神様を遠目で見ながら、今日の幸運に感謝する。
帰ったら旦那に自慢しちゃお!
ルンルン気分で今日の目的地に向かっていたら、こちらへ向かって来る人影に気付き、あまりの衝撃に動けなくなった。
「アベル、そんなに慌てなくてもおもちゃは逃げないよ」
「でも限定版なんだよ!」
「ノアお兄様、ちょっと待って! わたくしテディ、どこかに落としちゃったみたい!」
「ええ!?」
小さな女神様と、麗しの天使たちーーー!!?
暫く放心していた私は、4年後の試験も無理かもしれないと、幸せなのか、絶望なのか分からない感情に悩まされたのだった。
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