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その他
番外編 〜 お願い、氷の大公様 〜 イザベル妊娠発覚前
しおりを挟むわたくしの夫は、“氷の大公”と呼ばれ、見たものを凍らすとまで言われた怜悧冷徹な公爵閣下である。
パーティーに出席すれば、その美しさ見たさに人混みが2つに割れ、レッドカーペットでも歩いているようにスター街道が出来るのだ。
若い女性どころか、男女も年齢も関係なく、誰もが見惚れる超絶美形。それがテオ様である。
ほら、今日も群がる御婦人の瞳はとろけ、夫の瞳はどんどん温度を失い冷え冷えとしていく。
今日のようなパーティーは、テオ様もあまり参加なさらないのだけれど、ビスマルク侯爵の招待では仕方ありませんわね。
「テオ様、辛いようであれば、バルコニーで休憩いたしましょう」
「……ああ」
「大丈夫ですわ。わたくしが女性を近づけさせませんから」
「ククッ、随分頼もしい妻だな」
「もちろんですわ。夫を守るのは妻の務めですもの」
「私の妻は世界一素敵な女性だ」
「まぁ……、恥ずかしいですわよ」
本当は、周りの御婦人を守る為でもあるのですが、それは言わないでおきますわ。
「ディバイン公爵!」
するとそこへ、溌剌としたご老人が声をかけて来たのだ。
「ビスマルク侯爵。本日は招待いただきありがとうございます」
「ディバイン公爵にお越しいただけ、光栄です」
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「ディバイン公爵夫人も、増々お美しくなられましたね」
好々爺である侯爵は、とてもお口の上手い方で、会えばこのように褒めてくださるジェントルですのよ。
「まぁ、ビスマルク侯爵はお口が上手でいらっしゃいますわ」
「私は正直なのです。本当の事を言っているだけですよ」
とおどけたようにウィンクして冗談を言うそのノリが、海外っぽいわ、とつい日本人感覚になってしまう。
「しかし、ディバイン公爵は変わられましたね。昔はパーティーに参加をしても、周りを睨み付け、寄せ付けず、すぐに帰ってしまわれていましたが……」
テオ様、あなたビスマルク侯爵のパーティーでもそんな調子でしたの!?
それは……よく社交界でやっていけましたわね。
バツが悪いのか、黙ってしまったテオ様を見て。ますます笑みを深める侯爵に、わたくしもフフッと笑いが漏れてしまいましたわ。
「ディバイン公爵夫人、あなたが閣下に嫁いでくださって良かった。……閣下がお小さい時から心配しておりましたから」
と、子供を見るような目をテオ様に向けられる侯爵は、きっとテオ様にとってはお父様のような、おじい様のような、そんな方だったのね。
「ビスマルク侯爵……、夫の事はもう心配いりませんわ。これからは、わたくしがそばでお支えいたしますもの」
「ベル……っ」
テオ様が感動したようにわたくしを見つめ、ビスマルク侯爵はそんな私たちに頷いたのだ。
「ではお二人とも、パーティーを楽しんでいってください」
暫くお話をした後、そう言って他の方への挨拶の為に行ってしまった侯爵を見送ると、テオ様はわたくしの腰を抱き寄せ、バルコニーへと向かったのだ。
その間、ブリザードのような視線を周りに向けていたのには苦笑いしか出なかったけれど、それをいつもの事だといった様子の御婦人方の神経もなかなか図太いと感心してしまった。
ブリザードの視線も含めて、テオ様の魅了なのだと、いつか語ってくれた皇后様の顔が思い浮かびましたわ。
「氷の大公様は、相変わらずおモテになりますのね」
バルコニーに出てそう言うと、テオ様は何を思ったのか「? ベル、まさかヤキモチか……」などと仰るので瞳をパチパチと開閉してしまいましたわ。
「御婦人の、テオ様への反応でヤキモチをやいていたら、わたくし毎日ヤキモチをやいていないといけなくなりますわ」
「そうか……」
ちょっと残念がっているのは、ヤキモチをやいてほしいって事かしら。
「ほんの少しは、やいているかもしれませんわね」
「ベル……」
まぁ、嬉しそうですわ。
「氷の大公様は、わたくしの前では、氷もどこかへいってしまいますのね」
クスクス笑いながら頭を撫でてしまったのは、その表情がノアにそっくりだったからだ。
「愛する妻の前だぞ。その他と同じなわけがないだろう」
テオ様の美貌は、間近で見ると心臓に悪い。
怜悧冷徹はどこにいったのか、蕩けたアイスブルーの瞳は、宝石のように煌めいている。
「テオ様、この先も、長生きしてくださいましね」
ビスマルク侯爵のように、元気に長生きしていたたきたいわ。
「……私はまだ年寄りではないぞ」
「もちろんですわよ。ただ、あなたとノアと、出来るだけ長く一緒にいたいと思いましたのよ」
「……そうだな。明日からはトレーニングメニューを増やすか……」
「やり過ぎると逆効果ですのよ」
「なんだと……!?」
こんなとりとめのない会話も、楽しいものだわ。
どうかこの幸せが続きますように。神様にではなく、わたくしの氷の大公様に願う事にいたしましょう。
お願いしますわね! テオ様。
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