8 / 187
その他
番外編 〜 雑草だと思っていたら 〜 ユニヴァ王子視点
しおりを挟むユニヴァ視点
ディバイン公爵に頼まれた“コメ”という植物はなかなか見つからない。
もしかしたら家畜が食べているかもしれないと言われ、探してみたが、結局この貧相な豆しか見つけられなかった。
“コメ”が見つかれば、ジェラルドが気に入って食べていた、カレーにも合うと聞いたから探してはいるのだが……。
「ディバイン公爵も無茶な事を言ってくれる」
収穫物が何もないのはまずいだろうと、緑色の三日月のような形をした皮の中に、四つほどの小さな豆が出来る植物を取ってきたのはいいが、見た目は雑草だ。
これではディバイン公爵に無能だと思われかねん。
「どうしたものか……」
今回は一人、グランニッシュ帝国へと足を踏み入れ、久々にディバイン公爵家へ訪問する。
秘密裏の訪問なので特に護衛もいない。
「───ユニヴァ殿下、良くお越しいただいた」
「ディバイン公爵、久しぶりだな」
予め手紙を出していた為、領都に入った段階ですぐに迎えを寄越してくれて、すんなりと会う事が出来たが、一年ぶりに来たディバイン公爵領はさらに発展しているようだった。
街は活気に溢れていた。我が国もそのようにならなければ……。
「……奥方が出産されたと聞いた。ジェラルド王と私から、出産祝いを贈らせてもらったので後程届くだろう」
リッシュグルス国も、国王が交代しバタバタしている所なので、弟が直接会いに来る事は出来ないが、どうしても女神様に祝いの品を届けて欲しいと言われ、今回はわざわざ足を運んだのだ。
「お気遣い痛みいる。ところで、例のものを頼んで一年が経つが、進捗はどうだろうか」
「あー……いや、その……探してはいるのだが、なかなか……」
ディバイン公爵は無表情のまま、じっとこちらを見据えている。
クソッ、絶対無能だと思われている……っ。
この男はカレーが殊の外好きらしいから、“コメ”も楽しみにしているのだと、先程部屋に案内してくれた執事に聞いたが……。あれか、執事まで私にプレッシャーをかけているのか?
「代わりと言ってはなんだが、興味を引くのではないかと、持ってきたものがある」
例の豆を取り出せば、「雑草か」と呟かれた。
くっ、雑草で悪かったな!
「念の為、奥様にも見ていただきましょう。奥様は植物図鑑を読む事がお好きですので、何か分かるかもしれません」
前から思っていたが、ディバイン公爵夫人は一体何者なんだ!? 様々な研究をしている著名な研究者か何かなのか!?
「そうしてくれ。虫がいないか確認して洗い、取り除いてからベルに見せてやってくれ」
きちんと洗ってきたぞ!? ちょくちょく失礼な男だな!
執事が三日月豆(勝手にこう呼んでいる)を持って行ってから暫くして、ディバイン公爵夫人と共に戻って来たので驚いた。
「ディバイン公爵夫人、久しぶりですね。出産おめでとうございます。元気そうで何よりです」
「ユニヴァ殿下、お久しぶりでございますわ」
相変わらずディバイン公爵と並んでも見劣りしない美しさだな。ウチのジェラルドには負けるが。
「ユニヴァ殿下、こちらの植物はユニヴァ殿下が持って来てくださったと伺いましたが、どちらで手に入れられたものですの!?」
「これは、我が国に隣接する国で見つけたものだが……。三日月のような形をしているので、三日月豆と呼んでいる」
夫人の迫力に身体が仰け反ってしまう。
「三日月豆……これは、素晴らしい発見ですわよ!! 旦那様、この植物、栽培してみとう存じますわ!!」
「ベルがそうしたいというなら、好きにすると良い。必要なものはウォルトに準備させる」
「ありがとう存じます! これで、大豆やお醤油、お味噌も出来ますわ!!」
「よく分からないが……ユニヴァ殿下、妻を喜ばせていただき感謝する」
私が一番理解不能なのだが?? 持って来ておいてなんだが、なぜあんな雑草で喜べるのか不思議でならない。
この雑草が、素晴らしい調味料となり、三日月豆醤油、三日月豆味噌として世界中で食されるようになるのだが、それはまた別の話……。
ちなみに私が、三日月豆を塩ゆでしたものが大好物になるのは、運命だったのかもしれない。
2,000
お気に入りに追加
8,300
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる