継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 カミラ気付く 〜 ノア4歳

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「いいですか、カミラ。あなたはノア様付きの侍女なのですよ。もう少し落ち着きを持って───」

私は今、大失敗をして、侍女長のマディソン様に説教されているのです。

大失敗とは何かというと、ノア様といつものように玩具で遊んでいたのですが、立ち上がった時に足がもつれて転んでしまい、足を捻って全治一週間の怪我をしてしまったのです。

「とにかく、あなたの怪我が大したことはないようなので良かったですけれど、奥様からは、一週間は有給休暇を取るようにと厳命されていますから、しっかり休みなさい」
「は、へぇ!? 有給休暇!? 自分の過失で怪我をしてしまったのに、有給休暇を使用しても良いんですか!?」
「もちろんです。それと、仕事中の怪我ですから、治療費もディバイン公爵家が負担してくれますよ」
「お医者様を呼んでいただいただけでなく、治療費まで!?」

お、奥様っ、女神様ですか!?

「あなたは何の心配もせず、怪我を治すことだけ考えなさい」
「マディソン様……っ、あ、ありがとうございますぅ……ぐすっ」
「奥様とノア様に感謝するのですよ」
「それはもちろんです??」

奥様とノア様にはいつも感謝していますが、マディソン様は私の言動に、ふぅっと息を吐きました。

な、何でしょうか!? 私、また何かしましたか!?

「本来でしたら、一歩間違えればノア様を巻き込んでしまうような事をしでかす侍女を、ノア様付きにしておくわけにはいきません」
「!?」

そうです。ノア様の方へ転ばなかったから良かったものの、もし、ノア様にお怪我をさせるような事があれば……死は免れません!

しかも、今回の事で私はクビになるかも……

「ノア様と奥様が、坊ちゃま……旦那様に、カミラは必要なのだ、と掛け合ってくださったのですよ」
「え!? お二人が……っ」
「ノア様は、あなたがいないと嫌だと泣いて、奥様も、あなたは信頼できる数少ない使用人なのだと直談判してくださって……」

奥様……っ、ノア様……!!

「本来、ディバイン公爵家の次期当主であるノア様の侍女に、新人のあなたを付ける事はありえません」
「はい」

私も、配属された時はびっくりしました!

「どういうわけか、バカ息子はあなたにノア様を任せ、さらに奥様はあなたを信用しています」

マディソン様、お顔が怖いです!!

「あなたは、今や奥様と次期当主であるノア様の信頼を勝ち取った、将来有望な侍女というわけです」
「わ、私が、将来有望な侍女!?」

ミランダさんならわかりますが、私が!?

「気付いていないようなので、はっきり言いますが、後20年もすれば、ノア様は当主に。そしてあなたは、ノア様の乳母のように、おそばでお支えした侍女です。つまりは、次期侍女長候補という事を覚えておきなさい」
「エェーーー!?」

無理です! 無理ですぅ!! 私には侍女長なんて無理です~!!

「ミランダさんならわかりますが、私なんてとんでもない!!」
「はぁ……もちろん今の未熟なあなたには難しいでしょうが、これから私が鍛え上げていきますから、覚悟しなさい」
「ヒィィッ」
「怪我が治ったら、ビシバシ扱きますからね!」

怪我が、治らない方が良いかもしれないと、生まれて初めて思った瞬間でした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



有給休暇をいただいてから1日目、すでに何もする事がなくて暇だなぁ、と天井を見つめていた時です。
コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた気がして、「はい、どうぞ」と反射的に返事をすると、少し扉が開き、ぴょこんと、ノア様が顔を覗かせたではありませんか!

「カミラ、だいじょぶ? あち、いたた?」
「ひぇっ、ノア様!? ど、どうして使用人の部屋に!?」
「わたち、カミラちんぱぃ……めっ?」
「ぃえ、あの、で、ですが、ノア様が使用人の部屋に来るなど、あってはならない事ではないかと……!?」

こんな事が旦那様やマディソン様にバレたら、私は殺されてしまいます~!

「どちて? わたち、おかぁさまときたこと、ありゅのよ?」

ロフトベッドが導入された時ですね!?

「あの時は奥様がいらっしゃいましたので……」
「おかぁさま、いればいい?」

ノア様はそう言って、部屋から出ていったのです。
奥様が部屋に入れてくださったベッドになるソファの上でポカンとしていると、暫くして───

「カミラ、お休みの所ごめんなさいね」
「カミラ、おかぁさまよ。だいじょぶね!」

美しい微笑みを湛えた女神を連れて、天使のように笑うノア様が、再度襲来したのです。

だいじょばないです。ノア様!!

こうして、女神と天使にお見舞いをさせてしまった私は、ある恐ろしい事実に気付いてしまったのです。


こんなに居心地の良い職場にいたら、結婚出来ないのではないでしょうか……と。



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