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第二部 第5章
閑話 ミルクのおヒゲ
しおりを挟む「ちゅめたーい!」
「ちゅめっ、ちゃーぃ!」
リビングからデッキに出る事ができる、硝子張りの(に見せかけた新素材でできた)扉を僅かに開けたまま、もこもこのコートにマフラー、帽子という完全防備で、デッキに積もった雪を触るノアとぺーちゃん。その後ろには寒くないだろうかと、心配そうなカミラとマディソンの姿があった。
「ノア様、寒くありませんか?」
「だいじょぶ。わたち、かぜのこよ!」
「それは、奥様が言っていた言葉ですね!」
以前、ノアが積み木やパズルに夢中になっていた時、外に連れ出す為にわたくしが、「子供は風の子、元気にお外で遊びましょうね」とよく言っていた事を覚えていたらしい。
なにも雪の日に思い出さなくてもいいのに、と苦笑しつつ子供たちを見守る。
フロちゃんは暖炉のそばでオリヴァーに絵本を読んでもらっているというのに、男の子たちは雪に夢中だ。
「かぜのこ、ちゅよいの!」
「にょあ、ちゅおーぃ」
秋から冬に変わる頃とはいえ、豪雪地帯のディバイン公爵領は、すでに雪が薄っすら積もりだしていた。
ノアは雪を見るのは初めてではないのに、ぺーちゃんが初めて雪に触れるからか、雪がどんなものかを教えてあげているのだろう。
「ぺーちゃん、このしろいの、ゆきよ」
「ぅきっ」
「うふふ、ぺーちゃん、にゃんこから、おサルさんね」
「にゃ?」
可愛らしい声で笑うノアにつられ、周りにいる使用人たちも優しい目を向け笑顔をたたえている。
「っくち!」
誰かのくしゃみが聞こえ、出どころを探すと、フロちゃんが鼻をすすっているではないか。火の魔石が灯された暖炉のそばにいるとはいえ、扉が開けっ放しではさすがに寒かったのだろう。すかさずサリーが子供用毛布をかけてあげている。
「ノア、フロちゃんが寒そうですわ。あなたたちも身体が冷えすぎてはいけませんから、もう入っていらっしゃい」
キャッキャと嬉しそうにはしゃぐノアたちを呼べば、素直に返事をして入ってくる二人に、わたくしの顔が蕩けそうになる。
だって可愛すぎますわ! 鼻の頭とほっぺたを真っ赤にして、笑顔でこちらへ駆けてきましたのよ。
「あらあら、ほっぺもお鼻も、冷えっ冷えですわね」
ノアのほっぺを両手で挟むと、冷たさが伝わってきて、わたくしまで寒くなりますわ。
「ちゅべたかったの。おかぁさま、おててあったかね」
「ちゅえ、たーぃ!」
二人の小さな手も冷えていて、温めるために手を握り込む。
「こんなに冷えて⋯⋯って、ぺーちゃん雪を握っていますの!?」
「ぁーい」
「霜焼けになってしまいますわよ」
ほぼ水になった雪をハンカチで拭うと、「ぅき⋯⋯」と残念そうに自分の手を見るぺーちゃん。
「冬になったら、いくらでも雪遊びできますわ。もっとたくさん、雪が積もりますのよ」
「ゆきだるま、ちゅくりましょうね!」
「にゃ!」
ノアが冬になったら、雪だるまを作ろうと約束していると、メイドが、マディソンの指示でホットミルクの入ったマグカップを持って来てくれたではないか。
さすが、気が利きますわね。
「おかぁさま、ミルク!」
「みぃーちゅ!」
「フフッ、温かいうちに飲みましょうね」
「はーい」
「ぁーい」
「ふりょ、みりゅく!」
あらあら、フロちゃんも一緒にミルク飲みましょうね。
三人の子供たちが美味しそうにミルクを飲んでいるのを、オリヴァーと「可愛いですわね」なんて言いながら眺める。
「少し前まで、あなたもノアたちのように愛らしくミルクを飲んでおりましたわね」
「少し前!? だいぶ昔の間違いですよ!?」
僕はもうすぐ成人(十五歳)ですからね! とプンプンしている弟も可愛いらしいですわね。
「おかぁさま、おいちぃの」
「美味しいわね⋯⋯まぁっ、フフッ」
「おかぁさま?」
わたくしが急に笑い出したものだから、ノアがきょとんと見ておりますわ。
「ノア、お口の周りに、白いおヒゲが付いておりますわよ」
「おヒゲ?」
「ぷぁ!」
その時、ぺーちゃんがカップから顔をあげる。
「あー、ぺーちゃん、ちろいおヒゲ!」
「にゃ?」
「フロちゃんも、おヒゲ!」
「おひげ?」
三人ともミルクのおヒゲを付けて、互いを見て大笑いしておりますのよ。
本格的に冬が到来すれば、これから毎日、こんな可愛い光景が見れますわね。
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