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第二部 第4章
527.公爵家自慢のカレー
しおりを挟む「アタシの部下を使うわ」
腕を組み、鼻息荒く言い切った皇后様に首を傾げる。
「皇后様、部下といいますと……?」
「実はね、変装の達人を部下にスカウトしたのよ!」
変装の達人?
すると、子供たちが楽しそうに遊んでいる砂場へ行き、イーニアス殿下に声をかけた皇后様は、一言二言話すと戻って来て、サムズアップする。
「ここに呼んでもらったから、ちょっと待ってちょうだい」
イーニアス殿下に呼んでもらったんですの?
戸惑いながら待つこと数分。やって来たのは───
「あの、お呼びでしょうか……?」
え……
「ルネさん?」
「お久しぶりです、ディバイン公爵夫人。フェリクスがお世話になっております」
ぺーちゃんの叔母で、以前に前妻様の変装をしていたルネさんであった。
「皇后様、いつの間にルネさんを雇用されたのですか!?」
「オホホッ、優秀な人材はすぐに勧誘するのがアタシのスタンスよ!」
つまり、焔神殿でどさくさに紛れて勧誘しておりましたのね……。さすが皇后様ですわ。
「ルネ、仕事をお願いしたいのだけど」
さっきまでコミカルだった皇后様が、仕事モードに切り替わり、凛々しい横顔を見せる。
「はっ! どのような仕事でしょうか」
「そこの男に変装し、ロギオン国王へ偽の情報を流してもらいたいの」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これ、かれー!」
「こうしゃくの、いちばんすきな、りょうりだな!」
ルネさんの華麗な変装で、あっという間に監視者に成りすました彼女にCG? と目を擦りながらも王女様たちとの話を一旦終えた時にはもう、日も落ちており、子供たちは疲れて眠りについていた。
そういえば、お昼寝をしていなかったのだわ。と思いながら、可愛らしい寝顔に癒された後の晩餐だ。
陛下たちもこの際だから公爵家でお食事を、と皆で食卓を囲む事になったのだ。
「どるん、かれー、おいちーのよ」
「うす……」
「ドルン、カレーは、パンにつけてもおいしいが、ナンにつけても、おいしい」
「わたち、ナンしゅき! でも、やわらかのパン、もーっとしゅき!」
「うす」
カレーの食べ方を大男に教えてあげているのは、さっきまで寝起きでぐずっていたとは思えない息子と、寝起きも普段と変わらないイーニアス殿下だ。
「かれーとは、その……シチューの事だろうか?」
「エリス、カレーは、ディバイン公爵領で生まれた料理だ。パンの中にシチューが入っていて、揚げてあるらしい。今やグランニッシュ帝都でも大人気だとか」
「そうなのか。しかしこれは……、この平べったいものに付けて食べるのではないか?」
「? おかしいな……俺の情報ではパンの中にシチューが入っていて、揚げてあると……?」
「揚げてはなさそうだが……」
王女様と侍従は戸惑いながら、目の前にあるナンをじっとみている。
「ふふっ、カレーパンの事をよくご存知のようですわね。確かにカレーパンは、領都で大人気ですわ。カレーにも色んな種類がございまして、ここに並んでおりますのは、このナンという平らのパンに付けて食べるものですのよ」
「なるほど……」
「どうぞ、召し上がってくださいませ」
恐る恐るカレーを口に運ぶ王女様と侍従に、わたくしも緊張してしまいますわ。お口に合うかしら……
「ベル、カレーは誰の口にも合う」
テオ様が絶対の自信を持って言い切りましたわ!
「こ、これは……っ、我が国のスパイスを使用しているのか……」
え!? カレーに使用しているスパイスって、ロギオン国から輸入しておりますの!?
「美味い……。薬として使用するスパイスを、料理に……」
驚愕しながらも、ゆっくり味わう王女様に対して、侍従は手が止まらないとでもいうように、ガツガツ食べている。
「あの独特のスパイスを調理すると、こんなに美味しくなるのか……っ」
その美味しそうな表情に、テオ様が満足そうに頷いていた。
「うっわぁ! 何、このふわふわパン! 美味しいね、ノアちゃん、アスちゃん」
「おいちぃ!」
「うむ。すごく、おいしい」
賑やかな声に視線をそちらにやると、うっかり娘ちゃんがふわふわパンに夢中で齧り付いていて、ノアもイーニアス殿下もニコニコしていた。
すっかり仲良しですけれど、うっかり娘ちゃんは、ノアとイーニアス殿下と同じ歳くらいに見えてきますわね。素直でいい子だからかしら。
「奥様、ぺーちゃん様とフローレンス様がお目覚めになられたようです。それと、オリヴァー様が研究室からやっと出て来られたとか……」
ミランダが耳打ちしてくれて、お疲れだったぺーちゃんとフロちゃんの、先程までの寝顔を思い出す。
可愛い天使たちの寝顔でしたわ……って、ほっこりしている場合ではありませんのよ!
「オリヴァーったら、ずっとわたくしの研究室に籠もっておりましたの!?」
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