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第二部 第4章
513.二つの特異魔法
しおりを挟むノアが、この邸が自分のおうちだと言った時、わたくしはディバイン公爵家に嫁いできたばかりの頃を思い出した。
以前、ノアとお出かけをした際の事だ。帰り道の馬車の中で、どこにいくのと聞かれた時に、「ノアのおウチに帰りましょうね」と言った事があったのだけど、きょとんとした顔をしたノアは、「ノアのおうち? ちあうの。おとぅしゃまの、おうち」と答えたのだ。
あの時は、本当にテオ様を殴ってやりたくなりましたのよね。思い出しただけでも胸が痛くなりますわ。……だけど今は、ノアのおうちになりましたのね……。
「ノア、そうですわね。このおうちは、ノアとわたくしと、テオ様と、そして使用人たち皆のおうちですものね」
「しょうよ。だからね、まもりゅの!」
ノアが守りたい、と思えるようになった事が、わたくしはとても嬉しい。
「では、あの人たちを、追い出しましょうか」
「おかぁさま、ちがうの」
ノアはわたくしを見上げて、首を横に振る。
違いますの?
「ちゅかまえないと、おとぅさま、たいへんよ」
「え?」
「おとぅさま、おくに、まもりゅちと。わたち、おてちゅだいするの」
ノアが、お父様のお手伝いをしたいと、そう言っておりますの?
「ノア……お父様のお仕事のこと、いつ知りましたの?」
「いちゅ? いちゅだったかちら? 」
「うーん、いちゅ?」と首を傾げて唸っている息子にキュンとした。
か、可愛い! 天使すぎますわ!!
「……あっ、おかぁさま、あくま、さりゃわれたとき!」
「まぁっ、あの時に?」
「しょう。おとぅさま、おはなち、ちてくれた」
テオ様が、ノアに自分の仕事のことを話して聞かせたの……。そう、あの時に……ちゃんとお父様しておりましたのね。
「そうでしたのね。ノアは、お父様をお手伝いしてあげたいのね」
「はい!」
元気よくお返事して、「おとぅさま、おおよろこびね!」と嬉しそうに笑うのだ。反対など、出来るはずもない。
「本当は、反対したいのだけれど」
呟き、目線を下げる。王女たちの方へ向き直るノアは、幼いながらに真剣な表情で、その背中が少しだけ大きく成長しているような気がした。
「イザベル様、アタシも子供たちに危険な事をさせるのは反対よ。だけど、泣きながら必死で救ってくれたイーニアスや、フロちゃん、ノアちゃんたちを見ていると、ね……」
皇后様がそう呟いて、わたくしと同じようにイーニアス殿下の背中を見ている。
「子供の成長は、あっという間ですのね」
「そうね。早いわよね……。そんなに急いで大きくならなくてもいいのに、って思っちゃうわ」
フフッと笑って、はぁっと息を吐くと、「計画が大きく変わってしまうわね」と小さな声で呟くではないか。
「皇后様? 計画って……」
聞き返そうとしたその時、
「───まさか皇后だけでなく、その息子にも受け継がれていたか……」
正解のような違うような、微妙な言葉に顔を上げる。
いけない。今度はイーニアス殿下が狙われてしまう……っ
「エリス、第ニ皇子は火の攻撃魔法を受け継いでいるはずだ。転移までとなると、二つの特異魔法持ちになる。そんな話は聞いたことがない」
王女の侍従であるだろう男が、あり得ないと否定している。
そのまま否定してくれればいいのだろうが、王女はイーニアス殿下を観察するように見た後、ノアを見て言ったのだ。
「ディバイン公爵家には二つの神の加護がある。つまり、風と水、二つの特異魔法が使えるという事だ」
特異魔法の二つ持ちなど、この世にいないと思われていたが、確かに王女の言う通り、ディバイン公爵家は風と水の神の加護を授かった特殊な家なのかもしれない。
とはいえ、その跡取りであるノアは、妖精と神獣に気に入られ、契約してしまったのだから、驚きも薄くなるというものなのだが。
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