396 / 406
第二部 第4章
513.二つの特異魔法
しおりを挟むノアが、この邸が自分のおうちだと言った時、わたくしはディバイン公爵家に嫁いできたばかりの頃を思い出した。
以前、ノアとお出かけをした際の事だ。帰り道の馬車の中で、どこにいくのと聞かれた時に、「ノアのおウチに帰りましょうね」と言った事があったのだけど、きょとんとした顔をしたノアは、「ノアのおうち? ちあうの。おとぅしゃまの、おうち」と答えたのだ。
あの時は、本当にテオ様を殴ってやりたくなりましたのよね。思い出しただけでも胸が痛くなりますわ。……だけど今は、ノアのおうちになりましたのね……。
「ノア、そうですわね。このおうちは、ノアとわたくしと、テオ様と、そして使用人たち皆のおうちですものね」
「しょうよ。だからね、まもりゅの!」
ノアが守りたい、と思えるようになった事が、わたくしはとても嬉しい。
「では、あの人たちを、追い出しましょうか」
「おかぁさま、ちがうの」
ノアはわたくしを見上げて、首を横に振る。
違いますの?
「ちゅかまえないと、おとぅさま、たいへんよ」
「え?」
「おとぅさま、おくに、まもりゅちと。わたち、おてちゅだいするの」
ノアが、お父様のお手伝いをしたいと、そう言っておりますの?
「ノア……お父様のお仕事のこと、いつ知りましたの?」
「いちゅ? いちゅだったかちら? 」
「うーん、いちゅ?」と首を傾げて唸っている息子にキュンとした。
か、可愛い! 天使すぎますわ!!
「……あっ、おかぁさま、あくま、さりゃわれたとき!」
「まぁっ、あの時に?」
「しょう。おとぅさま、おはなち、ちてくれた」
テオ様が、ノアに自分の仕事のことを話して聞かせたの……。そう、あの時に……ちゃんとお父様しておりましたのね。
「そうでしたのね。ノアは、お父様をお手伝いしてあげたいのね」
「はい!」
元気よくお返事して、「おとぅさま、おおよろこびね!」と嬉しそうに笑うのだ。反対など、出来るはずもない。
「本当は、反対したいのだけれど」
呟き、目線を下げる。王女たちの方へ向き直るノアは、幼いながらに真剣な表情で、その背中が少しだけ大きく成長しているような気がした。
「イザベル様、アタシも子供たちに危険な事をさせるのは反対よ。だけど、泣きながら必死で救ってくれたイーニアスや、フロちゃん、ノアちゃんたちを見ていると、ね……」
皇后様がそう呟いて、わたくしと同じようにイーニアス殿下の背中を見ている。
「子供の成長は、あっという間ですのね」
「そうね。早いわよね……。そんなに急いで大きくならなくてもいいのに、って思っちゃうわ」
フフッと笑って、はぁっと息を吐くと、「計画が大きく変わってしまうわね」と小さな声で呟くではないか。
「皇后様? 計画って……」
聞き返そうとしたその時、
「───まさか皇后だけでなく、その息子にも受け継がれていたか……」
正解のような違うような、微妙な言葉に顔を上げる。
いけない。今度はイーニアス殿下が狙われてしまう……っ
「エリス、第ニ皇子は火の攻撃魔法を受け継いでいるはずだ。転移までとなると、二つの特異魔法持ちになる。そんな話は聞いたことがない」
王女の侍従であるだろう男が、あり得ないと否定している。
そのまま否定してくれればいいのだろうが、王女はイーニアス殿下を観察するように見た後、ノアを見て言ったのだ。
「ディバイン公爵家には二つの神の加護がある。つまり、風と水、二つの特異魔法が使えるという事だ」
特異魔法の二つ持ちなど、この世にいないと思われていたが、確かに王女の言う通り、ディバイン公爵家は風と水の神の加護を授かった特殊な家なのかもしれない。
とはいえ、その跡取りであるノアは、妖精と神獣に気に入られ、契約してしまったのだから、驚きも薄くなるというものなのだが。
4,409
お気に入りに追加
32,019
あなたにおすすめの小説
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。
クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」
パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。
夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる……
誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。