継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
360 / 387
第二部 第4章

507.つれていかないで 〜 テオバルド視点/イザベル視点 〜

しおりを挟む


テオバルド視点


「アカ、ほのおは、ダメだ! ははうえに、あたってしまう……っ」
『だけど、レーテつれていかれる!』
「ははぅえ……っ」

アカの言葉に魔法を躊躇うイーニアス殿下の判断は、間違ってはいない。
しかし、躊躇っている間に皇后が侍従と共に、穴の中へと姿を消してしまった。

「ははうえ!!」

懸命に走るが、子供の短い足では到底追い付く事はできない。悔しいのだろう。涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、皇后を必死で呼ぶ殿下に、アカまで泣きそうな顔をしていた。

「ぅう……っ、ははうえを、つれで、いがないで……!」

足が絡まったのか、穴のすぐそばで転げてしまう。すぐさま風の魔法で支えたので怪我はないようだ。

「イーニアス殿下」
「! こう゛……っ、ごぅしゃぐ……、ははうえ、ははうえが……っ」

涙を流しながら、起き上がって私に駆け寄って来るイーニアス殿下に、私は告げた。

「予定通りです、殿下。何の心配もいりません」
「こぅしゃく……?」

そう、皇后が拐われるのは予定通りだ。

「アカ、卵たちは皇后……副帝に付けたな」
『たまご、レーテのそば、いる! アカ、テオのいうとおり、した!』
「私の言う通りだと? お前は勝手に殿下の所へ転移しただろう」
『アカ、あせった……アス、いちばんだいじ!』

ごめんなさい。と謝る赤いキノコにため息を吐き、驚きで涙が止まったイーニアス殿下を再度見る。

「殿下、状況判断がきちんとできておりましたね」
「じょうきょう、はんだん……?」
「あなた様の魔法は、コントロールをしても威力が強すぎる。あの時敵に炎をぶつけていれば、副帝も怪我をしていただろう」
『アス、えらーい!』

この赤いキノコには、人質を取られた時、殿下に魔法を撃つようけしかける役割を与えていた。その際、イーニアス殿下がきちんと状況を把握出来るかを見るのが目的だ。

「どういう……ことなのだろうか……?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


念話をすると、そちらに集中してしまい、周りの声が聞こえなくなるのはわたくしだけだろうか。

偶に口も動きそうになりますのよね。

手や首は動くようなので、口元を押さえながら、小さく溜め息を吐く。

「……上手くやったようだな」

足が動かないので、こちらへ来ると言って聞かないノアの気をそらす為に、わざと明るい話題を出して話していたのだが、ノアは誤魔化されてはくれなかった。
わたくしは納得できないまま、現実逃避にとりとめない事を考えていた時だ。王女が呟いて顔を上げた。

「さて、ディバイン公爵夫人、我々に付いてきてもらうぞ」

ベッドの上に座ったままだった王女が立ち上がり、窓の外を見た。

緊迫した空気が場を支配し、ミランダは必死で動こうとして、顔を真っ赤にしているし、ウォルトは冷たい目を王女に向けている。

この拘束は、いつ解けるのかしら……

「言っておくが、私の魔法が切れかけとはいえ、拘束魔法はまだ解けないぞ。かけたばかりだからな」

わたくしの思考を読んだかのように答えるものだから、つい顔を両手で覆ってしまいましたわ。

「ディバイン公爵夫人は顔に出やすいようだ。そこの侍女も、影だというのに、まだ青い」

ミランダはあまり表情には出しませんわよ?

「主の危機に、必死になっている姿は何と滑稽か」

何ですって……

「滑稽……? わたくしの侍女は、わたくしを大切に思ってくれておりますのよ。強い忠誠心を持ってくれている、誰より信頼出来る人間ですわ」

ミランダを馬鹿にされて、黙っているわけにはいきませんでしょう。

しおりを挟む
感想 11,225

あなたにおすすめの小説

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。