360 / 416
第二部 第4章
507.つれていかないで 〜 テオバルド視点/イザベル視点 〜
しおりを挟むテオバルド視点
「アカ、ほのおは、ダメだ! ははうえに、あたってしまう……っ」
『だけど、レーテつれていかれる!』
「ははぅえ……っ」
アカの言葉に魔法を躊躇うイーニアス殿下の判断は、間違ってはいない。
しかし、躊躇っている間に皇后が侍従と共に、穴の中へと姿を消してしまった。
「ははうえ!!」
懸命に走るが、子供の短い足では到底追い付く事はできない。悔しいのだろう。涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、皇后を必死で呼ぶ殿下に、アカまで泣きそうな顔をしていた。
「ぅう……っ、ははうえを、つれで、いがないで……!」
足が絡まったのか、穴のすぐそばで転げてしまう。すぐさま風の魔法で支えたので怪我はないようだ。
「イーニアス殿下」
「! こう゛……っ、ごぅしゃぐ……、ははうえ、ははうえが……っ」
涙を流しながら、起き上がって私に駆け寄って来るイーニアス殿下に、私は告げた。
「予定通りです、殿下。何の心配もいりません」
「こぅしゃく……?」
そう、皇后が拐われるのは予定通りだ。
「アカ、卵たちは皇后……副帝に付けたな」
『たまご、レーテのそば、いる! アカ、テオのいうとおり、した!』
「私の言う通りだと? お前は勝手に殿下の所へ転移しただろう」
『アカ、あせった……アス、いちばんだいじ!』
ごめんなさい。と謝る赤いキノコにため息を吐き、驚きで涙が止まったイーニアス殿下を再度見る。
「殿下、状況判断がきちんとできておりましたね」
「じょうきょう、はんだん……?」
「あなた様の魔法は、コントロールをしても威力が強すぎる。あの時敵に炎をぶつけていれば、副帝も怪我をしていただろう」
『アス、えらーい!』
この赤いキノコには、人質を取られた時、殿下に魔法を撃つようけしかける役割を与えていた。その際、イーニアス殿下がきちんと状況を把握出来るかを見るのが目的だ。
「どういう……ことなのだろうか……?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イザベル視点
念話をすると、そちらに集中してしまい、周りの声が聞こえなくなるのはわたくしだけだろうか。
偶に口も動きそうになりますのよね。
手や首は動くようなので、口元を押さえながら、小さく溜め息を吐く。
「……上手くやったようだな」
足が動かないので、こちらへ来ると言って聞かないノアの気をそらす為に、わざと明るい話題を出して話していたのだが、ノアは誤魔化されてはくれなかった。
わたくしは納得できないまま、現実逃避にとりとめない事を考えていた時だ。王女が呟いて顔を上げた。
「さて、ディバイン公爵夫人、我々に付いてきてもらうぞ」
ベッドの上に座ったままだった王女が立ち上がり、窓の外を見た。
緊迫した空気が場を支配し、ミランダは必死で動こうとして、顔を真っ赤にしているし、ウォルトは冷たい目を王女に向けている。
この拘束は、いつ解けるのかしら……
「言っておくが、私の魔法が切れかけとはいえ、拘束魔法はまだ解けないぞ。かけたばかりだからな」
わたくしの思考を読んだかのように答えるものだから、つい顔を両手で覆ってしまいましたわ。
「ディバイン公爵夫人は顔に出やすいようだ。そこの侍女も、影だというのに、まだ青い」
ミランダはあまり表情には出しませんわよ?
「主の危機に、必死になっている姿は何と滑稽か」
何ですって……
「滑稽……? わたくしの侍女は、わたくしを大切に思ってくれておりますのよ。強い忠誠心を持ってくれている、誰より信頼出来る人間ですわ」
ミランダを馬鹿にされて、黙っているわけにはいきませんでしょう。
5,106
お気に入りに追加
37,702
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗愛人が離婚しろと乗り込んで来たのですが、私達はもう離婚していますよ?
藍川みいな
恋愛
「ライナス様と離婚して、とっととこの邸から出て行ってよっ!」
愛人が乗り込んで来たのは、これで何人目でしょう?
私はもう離婚していますし、この邸はお父様のものですから、決してライナス様のものにはなりません。
離婚の理由は、ライナス様が私を一度も抱くことがなかったからなのですが、不能だと思っていたライナス様は愛人を何人も作っていました。
そして親友だと思っていたマリーまで、ライナス様の愛人でした。
愛人を何人も作っていたくせに、やり直したいとか……頭がおかしいのですか?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。