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第二部 第4章
505.無茶な作戦
しおりを挟む『おかぁさま、ぺーちゃん、だいじょぶよ』
ウォルトの話に大変だ、と焦っていると、ノアがすかさず言うではないか。
『あのね、わたちたち、いま、ちんでんよ』
沈殿……? あっ、神殿! 風と水の神殿にいますの!?
『までぃしょん、ちんでんで、おかぁさまたしゅけりゅ、さくせん、かんがえまちょって』
『マディソンが神殿に移動する事を提案してくれたのね。さすがマディソンですわ!』
きっとウォルトのように、子供たちが危ないと気付いて、安全な場所に逃がしてくれたのだわ。
『奥様、ぺーちゃん様が屋敷に居ないとわかれば、王女に動きがあるかもしれません。お気をつけください』
ウォルトの言葉に気が引き締まる。
というか、ウォルトの警戒心が上がっている気がするのだけど……もしかして魔法が弱まっていますの?
「随分静かだな……」
王女がこちらをじっと見ながら呟く。ドキリとしたが、ここで念話をしているなどとバレるわけにはいかない。
「ああ……、もう効果が弱まったか」
「え?」
やっぱり、魔法が弱まっているのかも。
『やはり魔力量が足りないのかもしれません。これだけ複数の者に効果のあるものです。相当量は必要でしょう』
『ここから逃げるチャンスですわね』
だけど身体は動かないままですわ……
『おかぁさま、わたちのおはなち、きいてほちいの』
『ノア?』
『わたち、おかぁさまのところ、いくのよ』
急に何を言い出すのかと思えば、ノアは一番危険な事をしようとしているのだ。
『ダメですわ! 絶対にダメ。ノアはそのまま神殿にいて、お父様が迎えに来るのを待っていてちょうだい。お母様は、もう二度と……ノアを危険な目に遭わせたくはありませんわ』
ノアが馬車で遠ざかっていく、あの光景を思い出し、背筋が凍る。
『おかぁさま、わたち、ちゅよいの』
『ふりょ、ちゅおーい!』
『ぺぇちゃ、みょ!』
ノア……っ、フロちゃんと、ぺーちゃんまで……
『奥様、私の声が聞こえますでしょうか?』
突然のマディソンの声に、ウォルトの肩が少し跳ねたような気がするのだけど、気の所為かしら。
『マディソン、聞こえていますわ。子供たちを安全な場所へ連れて行ってくれてありがとう。本当に、あなたは頼りになりますわ』
『お褒めのお言葉を賜り、ありがとうございます』
マディソンは柔らかな声で話を続けた。
『奥様、ノア様はディバインの氷の攻撃魔法を使用出来るだけでなく、転移や念話も使用できます』
『……そうですわね』
『奥様がノア様を危険な目にあわせたくない事はよくわかりますが、子供を信じる事も大切だと存じます』
『マディソン……ですが……』
マディソンの話もわかるが、それでもまだ幼い我が子を危険にさらしたくはないのだ。
『王女の他に特異魔法の使用出来る者が侵入しているとなれば、おそらくは二人ほどでしょう。一人は王女のそばに、もう一人はぺーちゃん様を狙っているはずです』
そうね。少数精鋭で入り込んでいるはずよ。さすがに警戒心をなくしているとはいえ、大人数だと気づかれやすいですもの。それに、王女の魔法の効果は短そうだ。
『王女のそばにいるものは束縛系の魔法を使用しているのでしょう。そして、ぺーちゃん様を狙っているであろう侵入者の能力は、隠匿、移動などが考えられます』
『わたち、まほー、きょーちゅけりゅ!』
ノアは、侵入者の魔法に気をつけると言って、助けに来る気満々で興奮した調子なのだ。
『先ほどウォルトが言っていたように、複数に効果のある魔法は効果が切れるのも早いと思われます。ですから、奥様の身体が動けるようになった時を狙って、ノア様が転移をし、皆を移動させます』
マディソン!? いつも冷静沈着なあなたが、何を言っておりますの!?
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