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第二部 第4章
501.目的 〜 テオバルド視点 〜
しおりを挟むテオバルド視点
王女付きの侍従は廊下の端に寄ると頭を下げ、私が通り過ぎるのを静かに待っている。
この様子は、偶然通りかかったのだろうか……
「……まさか、ロギオン王国の王女がエンプティの手の者だとはな」
確証はない。が、危険を犯してまでディバイン公爵家に潜入するとなると、十中八九エンプティの関係者だろう。
侍従の前を通り過ぎる際、カマをかけてみる。
「……失礼ですが、何を仰っているのかわかりかねます」
「公爵家に踏み入る者は全て、調査している」
「……それは、何者かわかった上で迎え入れた、と仰りたいのでしょうか?」
引っ掛かったか。
「さすがは噂に名高い、ディバイン公爵家の影、か」
ロギオン王国の侍従の雰囲気が変わる。口元に薄っすらと笑みを浮かべ、しかしその目は笑っていない。
「貴様はどうやら、私と似た特異魔法の使い手のようだが」
「フッ……似た、か」
侍従はバカにしたように鼻で嗤うと、「そこまでわかっているとは、恐れ入る」などと軽口を叩く。
余裕があるように見せてはいるが……
「目的はイザベルか」
言った次の瞬間だ。男はニタリと嗤った。
「まさか……っ、イザベルの他にも目的があるのか!」
『もしかして、ノア!?』
アカの言うように、ノアは一度エンプティに誘拐されている。先の目的はノアの特異魔法のようだったが、この男が似たような能力を持っているのであれば、ノアの能力目当てに危険を犯してまでも、公爵家に潜入するとは思えない。となると、考えられるのは、我が家に滞在中のシモンズ伯爵、オリヴァー殿、フローレンス……ぺーのいずれかだろうが……
「御明察通り。我が主は、ディバイン公爵夫人をご所望ではあるが、もちろん他にも目的はある」
「……イザベルを狙うという事は、新素材を手に入れる為か」
「ディバイン公爵夫人の功績は、主にとって魅力的な事だ」
もし仮に、新素材が目的だとすれば、狙われるのは製造方法を知るシモンズ伯爵か、素材の研究をしているオリヴァー殿だが、エンプティはベルの情報を掴んでいるようだ。ならば、シモンズ伯爵家の面々は目的ではないだろう。ベルさえ手に入れれば、事足りるからな。
消去法でいけば、残りは聖女か、教皇という事になる。
教会を拠点として根を張る奴らだ。聖女や教皇の情報も掴んでいるのかもしれない。ただ、フローレンスに関してはまだクレオ枢機卿が気付いている程度だ。ウィーヌスは焔神殿にいるからな。情報が漏れるのは考えにくい。となると残りは……
ぺーか。
「……貴様らの本当の目的は、教皇の目か」
「本当に……ディバインの影の情報は侮れない」
ぺーがノアと共に誘拐された理由は、特殊な能力を持っている子供を、外国に人身売買する為だったと聞く。
ウォルトの調査では、『外国』というのがロギオン王国。……ロギオン王国がエンプティの正体ならばどうだ。
ぺーの能力は『鑑定眼』だ。エンプティがそれを知っていたとするなら、『鑑定眼』を使って何かをするつもりでいた……?
まさか、エンプティの目的は……っ
「特異魔法の使い手を、集めるつもりか」
特異魔法の使い手は、その能力を利用されぬよう、使い手だという事を隠し生活ている事が多い。副帝もその一人だ。
しかしぺーの『鑑定眼』ならば、隠れた特異魔法の使い手を効率良く探し出す事が可能だろう。
「さすが、と言えばいいのかな。だが、目的を知られた所で問題はない」
「何だと……?」
「今頃ディバイン公爵家は、影すら使い物にならなくなっているだろうよ───」
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