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第二部 第4章
493.サリーという存在
しおりを挟む「サリー、どうしましたの?」
サリーが前に出てくる事は珍しいのだが、全くないかと言えばそうではない。以前父が詐欺に遭いそうになった時、サリーがこうして進言してくれたお陰で、被害を免れた事があった。
「お嬢様の話では、エリス王女が公爵家へやってきた時に、妖精様から悲鳴があがったとか」
「ええ。あれには驚きましたわ」
だけど、わたくしサリーにそんな話をしたかしら?
「妖精様はなぜ、悲鳴を上げられたのでしょうか?」
「王女様のお怪我があまりにも酷かったから、妖精たちがショックを受けたみたいですの」
あれは本当に酷い怪我でしたわ……。
「妖精様が、そのように仰っておられたのですか?」
そういえば、思い出させてまたパニックになったら可哀想だと思って、妖精たちから詳しく話を聞いておりませんでしたわ。サリーにそう伝えれば、「では、一度妖精様に話を聞いてみられてはいかがでしょうか。いつも盗み食いをし、イタズラするような者たちが、そのように繊細な心を持っているとはとても思えませんので」と助言してくれるではないか。
確かに。チロはともかく、アオは繊細とは程遠い性格ですものね!
「そうですわね。妖精たちに話を聞いてみる事にしますわ。ミランダ、あなたにはロギオン王国と王族について、そして王女様についても調査をお願いしてもいいかしら?」
「承知いたしました」
サリーを見れば、何事もなかったかのように後退し、元の場所で無表情のまま佇んでいる。
サリーには、小さな頃から何かと助けてもらっていたっけ。あの無表情で、淡々と助けてくれますのよね。
わたくしにとって姉のような存在の彼女は、誰よりも信頼できる人物の一人なのだ。
「サリー、ありがとう」
「いえ。差し出がましい事を申し上げました」
「何を言っておりますの。サリーがいてくれるから、シモンズ伯爵家は存在していますのよ」
わたくしの言葉に、弟のオリヴァーも力強く頷く。
「恐れ入ります」
やはり無表情、無感情に返事をするサリーは、これが通常運転なのだ。
「おかぁさま、ちゅぎ、ぺーちゃんがしゅべりだい、ちたいって」
「ちゅべぃあー!」
ノアがそばまでやってきて、すべり台の所へ行こうと手を取られた。
「あらあら、ブランコはもういいのかしら?」
「ふりょちゃんも、ぺーちゃんも、しゅべりだいよ」
フロちゃんもブランコには飽きたから、すべり台に行くのだと教えてくれる息子の頭を撫で、「じゃあ、すべり台に行きましょう」と手をつなぐ。すると、よちよちとぺーちゃんもやてきて、ノアと手を繋いだ。
「にょあ、ぺぇちゃ、ちゅべぃあー」
「しょうね。いっちょ、しゅべりだいちましょ」
「ぁーい」
「にょあ、ふりょも」
「ふりょちゃんも、いっちょよ」
「いっちょ!」
あらあら、仲が良いですわね。やっぱり将来はフロちゃんがノアのお嫁さんかしら。
そんな事を考えていたら、お腹の中の赤ちゃんが、ポコンと元気に蹴った気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「───あいつは、いつまで部屋に籠もっている気だ!」
中央諸国首脳会議が始まって、半分の予定が過ぎた頃だ。突然思い出したようにロギオン王が、皇城の妹王女にあてがわれた客室の前で、王女の侍従を怒鳴りつけていた。
「数日では、顔の腫れは治りません。このままエリス王女が表に出れば、あらぬ噂が広まってしまうでしょう」
「チッ、肝心な時に役立たずが!」
「……」
「妹の傷が治ったら、私に謝罪に来るよう伝えておけ!」
傍若無人を絵に描いたようなその人格に、皇城で働く使用人は顔をしかめたが、それに気付く事なく、ロギオン王は自身にあてがわれた部屋へと戻っていった。
会議終了の四日前の出来事である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつも【継母の心得】をお読みいただき、ありがとうございます。
コメントをくださる皆様や、お話を楽しんでくださっている皆様がいてくださるからこそ、今があります。
皆様の応援に支えられ、ここまで続けられて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
●10月の更新ですが、土日祝を仕事にあてさせていただきたく思っております。
平日は更新し、土日祝は更新をお休みする予定です。
10/28(月)~10/31(木)まではお休みさせていただく予定ですので、10/26(土)、27(日)は更新いたします。
申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
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