継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
376 / 406
第二部 第4章

493.サリーという存在

しおりを挟む


「サリー、どうしましたの?」

サリーが前に出てくる事は珍しいのだが、全くないかと言えばそうではない。以前父が詐欺に遭いそうになった時、サリーがこうして進言してくれたお陰で、被害を免れた事があった。

「お嬢様の話では、エリス王女が公爵家へやってきた時に、妖精様から悲鳴があがったとか」
「ええ。あれには驚きましたわ」

だけど、わたくしサリーにそんな話をしたかしら?

「妖精様はなぜ、悲鳴を上げられたのでしょうか?」
「王女様のお怪我があまりにも酷かったから、妖精たちがショックを受けたみたいですの」

あれは本当に酷い怪我でしたわ……。

「妖精様が、そのように仰っておられたのですか?」

そういえば、思い出させてまたパニックになったら可哀想だと思って、妖精たちから詳しく話を聞いておりませんでしたわ。サリーにそう伝えれば、「では、一度妖精様に話を聞いてみられてはいかがでしょうか。いつも盗み食いをし、イタズラするような者たちが、そのように繊細な心を持っているとはとても思えませんので」と助言してくれるではないか。

確かに。チロはともかく、アオは繊細とは程遠い性格ですものね!

「そうですわね。妖精たちに話を聞いてみる事にしますわ。ミランダ、あなたにはロギオン王国と王族について、そして王女様についても調査をお願いしてもいいかしら?」
「承知いたしました」

サリーを見れば、何事もなかったかのように後退し、元の場所で無表情のまま佇んでいる。

サリーには、小さな頃から何かと助けてもらっていたっけ。あの無表情で、淡々と助けてくれますのよね。

わたくしにとって姉のような存在の彼女は、誰よりも信頼できる人物の一人なのだ。

「サリー、ありがとう」
「いえ。差し出がましい事を申し上げました」
「何を言っておりますの。サリーがいてくれるから、シモンズ伯爵家は存在していますのよ」

わたくしの言葉に、弟のオリヴァーも力強く頷く。

「恐れ入ります」

やはり無表情、無感情に返事をするサリーは、これが通常運転なのだ。

「おかぁさま、ちゅぎ、ぺーちゃんがしゅべりだい、ちたいって」
「ちゅべぃあー!」

ノアがそばまでやってきて、すべり台の所へ行こうと手を取られた。

「あらあら、ブランコはもういいのかしら?」
「ふりょちゃんも、ぺーちゃんも、しゅべりだいよ」

フロちゃんもブランコには飽きたから、すべり台に行くのだと教えてくれる息子の頭を撫で、「じゃあ、すべり台に行きましょう」と手をつなぐ。すると、よちよちとぺーちゃんもやてきて、ノアと手を繋いだ。

「にょあ、ぺぇちゃ、ちゅべぃあー」
「しょうね。いっちょ、しゅべりだいちましょ」
「ぁーい」
「にょあ、ふりょも」
「ふりょちゃんも、いっちょよ」
「いっちょ!」

あらあら、仲が良いですわね。やっぱり将来はフロちゃんがノアのお嫁さんかしら。

そんな事を考えていたら、お腹の中の赤ちゃんが、ポコンと元気に蹴った気がした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「───あいつは、いつまで部屋に籠もっている気だ!」

中央諸国首脳会議が始まって、半分の予定が過ぎた頃だ。突然思い出したようにロギオン王が、皇城の妹王女にあてがわれた客室の前で、王女の侍従を怒鳴りつけていた。

「数日では、顔の腫れは治りません。このままエリス王女が表に出れば、あらぬ噂が広まってしまうでしょう」
「チッ、肝心な時に役立たずが!」
「……」
「妹の傷が治ったら、私に謝罪に来るよう伝えておけ!」

傍若無人を絵に描いたようなその人格に、皇城で働く使用人は顔をしかめたが、それに気付く事なく、ロギオン王は自身にあてがわれた部屋へと戻っていった。

会議終了の四日前の出来事である。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



いつも【継母の心得】をお読みいただき、ありがとうございます。

コメントをくださる皆様や、お話を楽しんでくださっている皆様がいてくださるからこそ、今があります。
皆様の応援に支えられ、ここまで続けられて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

●10月の更新ですが、土日祝を仕事にあてさせていただきたく思っております。

平日は更新し、土日祝は更新をお休みする予定です。
10/28(月)~10/31(木)まではお休みさせていただく予定ですので、10/26(土)、27(日)は更新いたします。

申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。