継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
360 / 397
第二部 第3章

478.裏切り

しおりを挟む


支援センターの内装は、使わない場所は手つかずなようだが、どうにか開設出来る状態にしてくれた支援センターとおもちゃの宝箱のスタッフ、そして帝都の皆様には感謝しかない。
外観も掃除だけはして、古いものは修理し、ペンキを塗り替え、なんとかその日のうちに、お化け屋敷から、少し古びた屋敷にまで回復した。

わたくしも手伝おうとしたけれど、皆から止められてしまいましたわ……。

帰りの馬車では、たくさんの子供たちと遊び疲れたのか、すっかり眠ってしまった、小さな天使二人の寝顔を見ながら、スタッフが話していた『横槍』の事について考えていた。

「ベル商会がディバイン公爵家と関わりがある事は、有名ですわよね?」

向かいに座るミランダに目を向けると、

「奥様、有名どころか、誰もが知っております」

至極当たり前のように口にされ、それに追随する形で、カミラまで「今やベル商会の代表が奥様という事も、帝都民だけでなく、帝国中が知っていますよ」などと言うではないか。

「隣国である、リッシュグルス国の国王が、奥様のファンだと耳にしております」
「マディソンまで……、いえ、リッシュグルス王はわたくしのファンではなく、おもちゃや絵本がお好きなだけですのよ」

マディソンの話に、あのお餅のように白くもちもち、ふわふわなほっぺたを思い出す。

ジェラルド王太子……いえ、ジェラルド王とユニヴァ王子はお元気かしら。お国に戻られてすぐ、王位に就かれたから、きっとお忙しいのでしょうね。来年にはご婚約者と結婚式を挙げられるようですし、なかなかハードですわね。
ユニヴァ王子はブラコンでしたから、結婚式では泣いてしまうのではないかしら。

「と……、話が逸れてしまいましたわ。ベル商会とディバイン公爵家との関係がそれほど有名であるなら、今回の事で横槍を入れてきた、という方は相当、怖いもの知らずですわよね」

グランニッシュ帝国の皇族に次ぐ権力者に、喧嘩を売るという事ですものね。

「奥様、横槍を入れてきた者が何者なのかもそうですが、今回の事が何故、今日まで奥様のお耳に入らなかったのかも気になります。故意に、奥様のお耳に入らないようにしなければ、このようなタイミングで支援センターに行く事もありませんでした」

マディソンの言う通りだ。

わたくしもそこは気になって、支援センターのスタッフに聞いたのだけど、スタッフたちは報告を上げていた。

「考えたくはないのだけれど……」
「はい、奥様。おそらく『ベル商会』の中に、奥様への報告を止めた者がいるのでしょう」

ミランダがわたくしの目を見て、はっきりと言ったのだ。

「そ、それって、ベル商会に裏切り者がいるって事ですか!?」
「カミラ、裏切り者かはまだわかりませんわ。心配かけまいと報告を止めただけかもしれませんもの」

カミラの率直な意見を軽く窘めはしものの、ここにいる、天使たちを除いた全員が、考えた事だろう。

「ベル商会の幹部とは、月に一度会合がありますけれど、怪しい方は居ないと思うの」

チロやアオも反応した事がないし、幹部ではなく、幹部に近い誰かではないだろうか。


……そう思っていた翌日、ベル商会で一人、姿を消した者がいる、という報告を受けたのだ。

姿を消した者は、あの、デルベ伯爵家からの紹介状を持っていたのだという。

「まさか、『エンプティ』に関連しているんじゃ……」

わたくしの心に、一抹の不安が過った───

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ4/16より連載開始】

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

離婚したらどうなるのか理解していない夫に、笑顔で離婚を告げました。

Mayoi
恋愛
実家の財政事情が悪化したことでマティルダは夫のクレイグに相談を持ち掛けた。 ところがクレイグは過剰に反応し、利用価値がなくなったからと離婚すると言い出した。 なぜ財政事情が悪化していたのか、マティルダの実家を失うことが何を意味するのか、クレイグは何も知らなかった。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。