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第二部 第3章
478.裏切り
しおりを挟む支援センターの内装は、使わない場所は手つかずなようだが、どうにか開設出来る状態にしてくれた支援センターとおもちゃの宝箱のスタッフ、そして帝都の皆様には感謝しかない。
外観も掃除だけはして、古いものは修理し、ペンキを塗り替え、なんとかその日のうちに、お化け屋敷から、少し古びた屋敷にまで回復した。
わたくしも手伝おうとしたけれど、皆から止められてしまいましたわ……。
帰りの馬車では、たくさんの子供たちと遊び疲れたのか、すっかり眠ってしまった、小さな天使二人の寝顔を見ながら、スタッフが話していた『横槍』の事について考えていた。
「ベル商会がディバイン公爵家と関わりがある事は、有名ですわよね?」
向かいに座るミランダに目を向けると、
「奥様、有名どころか、誰もが知っております」
至極当たり前のように口にされ、それに追随する形で、カミラまで「今やベル商会の代表が奥様という事も、帝都民だけでなく、帝国中が知っていますよ」などと言うではないか。
「隣国である、リッシュグルス国の国王が、奥様のファンだと耳にしております」
「マディソンまで……、いえ、リッシュグルス王はわたくしのファンではなく、おもちゃや絵本がお好きなだけですのよ」
マディソンの話に、あのお餅のように白くもちもち、ふわふわなほっぺたを思い出す。
ジェラルド王太子……いえ、ジェラルド王とユニヴァ王子はお元気かしら。お国に戻られてすぐ、王位に就かれたから、きっとお忙しいのでしょうね。来年にはご婚約者と結婚式を挙げられるようですし、なかなかハードですわね。
ユニヴァ王子はブラコンでしたから、結婚式では泣いてしまうのではないかしら。
「と……、話が逸れてしまいましたわ。ベル商会とディバイン公爵家との関係がそれほど有名であるなら、今回の事で横槍を入れてきた、という方は相当、怖いもの知らずですわよね」
グランニッシュ帝国の皇族に次ぐ権力者に、喧嘩を売るという事ですものね。
「奥様、横槍を入れてきた者が何者なのかもそうですが、今回の事が何故、今日まで奥様のお耳に入らなかったのかも気になります。故意に、奥様のお耳に入らないようにしなければ、このようなタイミングで支援センターに行く事もありませんでした」
マディソンの言う通りだ。
わたくしもそこは気になって、支援センターのスタッフに聞いたのだけど、スタッフたちは報告を上げていた。
「考えたくはないのだけれど……」
「はい、奥様。おそらく『ベル商会』の中に、奥様への報告を止めた者がいるのでしょう」
ミランダがわたくしの目を見て、はっきりと言ったのだ。
「そ、それって、ベル商会に裏切り者がいるって事ですか!?」
「カミラ、裏切り者かはまだわかりませんわ。心配かけまいと報告を止めただけかもしれませんもの」
カミラの率直な意見を軽く窘めはしものの、ここにいる、天使たちを除いた全員が、考えた事だろう。
「ベル商会の幹部とは、月に一度会合がありますけれど、怪しい方は居ないと思うの」
チロやアオも反応した事がないし、幹部ではなく、幹部に近い誰かではないだろうか。
……そう思っていた翌日、ベル商会で一人、姿を消した者がいる、という報告を受けたのだ。
姿を消した者は、あの、デルベ伯爵家からの紹介状を持っていたのだという。
「まさか、『エンプティ』に関連しているんじゃ……」
わたくしの心に、一抹の不安が過った───
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