継母の心得

トール

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第二部 第3章

464.天を指すノア

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巨大な水晶……というか、巨大すぎて、祭壇後ろの壁の小窓のような所から、一部しか見えない、水晶かどうかもわからないものの前に、ノアとイーニアス殿下は堂々たる面持ちで立つ。

本来、創造神様の加護を除いた、五家いなければならない加護持ちだが、現在、表向きは光、闇、土の加護持ちが存在せず、皇族とディバイン公爵家の二家のみとなっている。さらに、加護持ちはどちらも子供を代表に出したとなれば、教会も批判してくるのではないか、と、わたくしは身構えながら、二人の後ろ姿を見つめていた。

先程の作戦会議通りに、変な(子供たちには格好いい)ポーズを取りながら、魔力を込めたりすれば、巫山戯ていると責められたりしないだろうか……。わたくしなら可愛すぎて心臓がもたないが、色んな意味でかなり心配だ。

「ベル、大丈夫だ」

テオ様が、ハラハラしているわたくしに、優しく声をかけてくれた。

「テオ様……。わたくし、ノアもイーニアス殿下も、賢く、可愛く、素晴らしい子たちだと思っておりますのよ」
「ああ」
「ですが、心配でたまりませんの」

だって、まだたった4歳と5歳ですのよ。ノアなんて祝福の儀も済ませておりませんのに。なのに、大勢の知らない大人たちの前で、魔力を込めるだなんて……

「───では、イーニアス殿下から、お願いいたします」

クレオ枢機卿が促し、イーニアス殿下が一歩前に出ると、イーニアス殿下は両手を天に掲げ、前に押し出すように、小窓のような所から水晶に触れる。おそらくこれは、作戦会議でやっていた、格好いいポーズだ。

「……あの行動は、一体なんだ?」
「ホホッ、可愛らしいですわね」

テオ様が不可解な顔をしている中で、わたくしはほっこりとその様子を眺める。周りも、心配していたような非難めいた反応はなく、それどころか、孫の初めての発表会を、応援しているような、そんな優しさを感じた。

「イーニアスったら、ノアちゃんに良いところを見せようと頑張っているのかしら」
「うむ。朕のイーニアスはなんと愛らしい事か」

前の席では皇后様と皇帝陛下が、ほのぼの会話をしており、段々参観日に来ている気分になってきた時だ。イーニアス殿下が触れた水晶が、火の鳥のような形の炎を映し出し、真っ赤に染まったではないか。小窓の中が燃えているような、しかし幻想的で美しい光景に、誰からともなくため息を漏らす。

「五年前の、ネロウディアス帝の時には、なにも反応がなかっただろう?」
「あの時は魔力は流していない。形だけだったではないか」
「やはり、焔神の加護を持つ者はこうも違うものなのですね」
「ダスキール公爵の時にもこのような事はなかったよな……」
「ディバイン公爵の時は、かなり光ったのを覚えているが、まさかこのような美しい……」

ヒソヒソと話す声に、皇帝陛下を見る。あまりいい気はしない話に、落ち込んでいるのでは、と思ったが、まったく気にしていないどころか、息子を誇らしそうに見つめている姿に、心を打たれた。

陛下は、本当にイーニアス殿下の事を可愛がっていらっしゃるのだわ。

「テオ様、鳥の形をした炎が……」
「おそらくは、あれが管理者となったイーニアス殿下の、魔力が可視化されたものなのだろう」
「鳥……あの珍獣と、繋がりを持ったから、魔力もあのように変化したのでしょうか?」
「そうだろう。あの珍獣が言う、純粋な魔力というのがあの炎なのかもしれん」

さすがは次期皇帝だ。と皆が感心する中、次はいよいよノアの番だ。

はぁ……、何だかわたくしがドキドキしますわ。

当の本人は全く緊張していないように、堂々と水晶に向かっている。
皆が、固唾をのんで見守る中、ノアは片手を掲げ、人差し指で天を差したのだ。

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