継母の心得

トール

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第二部 第3章

462.作戦会議

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七神の像の前で祝詞を奏上するクレオ枢機卿は、内容を全て覚えているのか、この30分間、完全暗唱している。

クレオ枢機卿もまた、天才と言われる部類の方でしたのね……。

それはそうか。凡人であれば、庶民から大司教を経て、枢機卿になどなれるはずもない。

「にょあ、ぺぇちゃ、じゅーちゅ」
「ぺーちゃん、じゅーしゅ、のみたいの? のど、カラカラ?」
「にゃ。ぺぇちゃ、かにゃ、かにゃ」

厳かな儀式の中、可愛らしい声が耳に届く。どうやら静かにしなければならないと、なんとなくわかっているのか、コソコソと話している子供たちが、なんとも健気ではないか。

あらあら、ぺーちゃんはのどが渇いたみたいですわ。タンブラーを持ってきていてよかった。

席のすぐ近くに待機していたマディソンに視線を移し、ぺーちゃんに飲み物をあげるよう目で訴えかけると、さすが侍女長。すでにタンブラーを手に、ぺーちゃんに駆け寄っていた。

「みゃじぃ、ぁーちょ」

んく、んくと一生懸命飲み物を飲んで、満足した後、マディソンにお礼を言っているのか、ペコッとお辞儀をするぺーちゃんに、わたくしだけでなく、周りも身悶えているのが伝わってきて、つい、口の端が上がってしまいましたわ。

「ノアは大丈夫ですの?」
「わたち、だいじょぶよ。おにぃさまよ」

これは、我慢しておりますわね……。

「ははうえ、のみものをのんでも、よいでしょうか?」

その時、前の席に座っていたイーニアス殿下が、皇后様に確認して、ノアとお揃いのタンブラーに口をつけたのだ。それを見て、

「おかぁさま、わたち、のど、カラカラなのよ」

と、恥ずかしそうに言い直したので、イーニアス殿下はノアの行動を見越した上で、わざと飲み物を口にしてくれたのかもしれない。

なんてスマートな紳士なの。

「フフッ、のどがカラカラでしたのね。慌てずゆっくり飲みましょうね」
「はい」
「にょあ、ぺぇちゃ、っちょ、ぃっちょ」

あらあら、ぺーちゃんと一緒だって言われて、「わたち、あかちゃんちがうのよ」って、お兄さんぶっておりますわね。

「ノア、ぺー、静かに」

そこへテオ様が注意したものだから、二人に緊張が走りましたわ。二人とも注意された事にショックを受けて、わたくしにくっついてしまいましたの。テオ様ったら、けっして怒ってはいないのだけど、声に迫力があるから……。

二人の頭を撫でて宥めながら、なんとか祝詞の時間を乗り切った。休憩を挟んでからは、いよいよノアたちが巨大水晶に魔力を込める儀式がやってくる。

ドキドキしますわ。

休憩時間という事もあり、先程からひっきりなしに、「ディバイン公爵夫人、本日は公子様もお連れなのですね」などと声をかけられる。それを失礼のないよう捌きつつ、緊張する気持ちを落ち着けようと深呼吸をしていれば、ノアとイーニアス殿下、ぺーちゃんが円陣を組み、内緒話をしているのが目に入った。

「あれは……何をしているのかしら?」
「装置に魔力を込める、作戦会議中なのですって」
「え……、皇后様っ」

どこからともなく姿を現した皇后様に驚いた。

先程までテオ様を影から見守っていたはずでしたのに、いつの間にこちらへ!?

「作戦会議って、ただ魔力を込めるだけなのではありませんの?」
「あの子たちも、子供だと軽く見られないように、どうするか色々考えているみたいよ」

皇后様は子供たちを慈愛のこもった温かな眼差しで眺めながら、美しく微笑んだのだ。

それにしても、作戦会議だなんて……。大人のような事をしますのね。もしかして、お父様を真似ているのかしら。

微笑ましいその姿に、わたくしは目を細めたのだ。

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