継母の心得

トール

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第二部 第3章

450.狙われたイザベル4 〜 イザベル視点/テオバルド視点 〜

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奇跡を起こす女神!?

「とんでもないっ、わたくし、奇跡なども起こせませんし、女神でもございませんわよ!?」

おかしな噂が広まっていますわ! もしかして、庶民街の女神像が原因ですの!?

「しかし、新素材や新型馬車、あのおもちゃの宝箱も、全てあなた様が考案なさったのですよね!?」

どうしてそれを!?

ミランダと護衛を見れば、首を横に振られた。
わかりません、という意味ではなく、そんなもの、派手に動いているからバレバレですよ。という呆れた意味のものだった。

「新素材は弟が開発したものですわ!」

偶々わたくしが木の板を見つけて、オリヴァーが色々実験をしてくれていますもの。そこは譲れませんわ。

「それに、新型馬車は技術者の方々が考えて、試作を繰り返し出来たものですし、おもちゃの宝箱は現場のスタッフや開発チームが頑張ってくれておりますわ」
「ですが、お知恵を出されたのはディバイン公爵夫人ではありませんか」

確かに提案はいたしましたが、それも前世の知識ですもの!

「雪崩などをどうにかしろと言われましても、わたくしどうにもできませんし……」
「いえ、ディバイン公爵夫人に雪崩をどうにかしてほしいなど、そのような無理難題は申しません!」

え?

「では……?」
「恥ずかしながら、ウィニー男爵領には薪や食料の蓄えがなく、このままいけばこの氷の季節(冬)に大量の凍死者、餓死者が出るでしょう」

凍死に、餓死……っ

「ですが、ニール様が皇帝陛下に現状を伝えているはずです。韜晦トウカイ皇帝と名高い、ネロウディアス皇帝であれば、お助けいただけるのではないかと思っております」
「そうですわよね」

だから、わたくしに助けを求めるというのが、よくわかりませんわ。

「しかし、ウィニー男爵領は一年のほとんどが雪と氷に包まれた不毛な大地です。また同じような災害も起きるでしょう。その都度、国にお世話にというのは、たとえ韜晦トウカイ皇帝であろうと、予算を割くことが難しくなると思うのです」

災害時の臨時予算は、レーテ様でしたら蓄えているでしょうけれど……ウィニー男爵領だけではありませんものね。現にディバイン公爵領でも、他領よりは少ないとはいえ、雨季に土砂災害や川の氾濫もありますもの。

「もちろん、我々も何とか、食料や燃料の確保をする為に、他領との交易を盛んにしようと考えましたが、我が領地にお金にできる物も、それに代わる物もなく……っ、そもそも植物は育ちにくく、育ったとしても、特産品として外部に出す余裕もありません。狩猟もまた同様で、とにかく民に余裕がないのです……」

これは、深刻ですわ……っ

「つまり、わたくしはウィニー男爵領の町興しをしたらよろしいのですね」
「お、お知恵を、お貸しいただけるのですか!?」
「死者が出るような危機的状況ですもの。わたくしも何かできるのであれば、と思っておりますわ」

わたくしに何が出来るかはわかりませんが……。そう言えば、二人はおいおいと泣き出し、「ありがとうございます」と何度もお礼を言われたのだ。


テオ様に、何て報告すればいいのかしら……。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



テオバルド視点


『テオっ、大変、大変だー!! ベルを訪ねて、怪しい男が二人やって来たんだよ!!』
「何だと!?」

皇帝を皇后にまかせ、自身の執務室に戻った途端、突然現れた正妖精の言葉に席を立つ。ウォルトの肩が大きく揺れたが、そんな事に構っていられない今の私は、冷静さを失っていたのだろう。

「皇后はまだ皇帝の執務室にいるか!?」
「旦那様!? どうなさったのですか!?」

皇后の元へ行かねばならないと、執務室を飛び出すと、ウォルトは慌てて私を止める。

「離せ! ベルが……っ、すぐに領地に戻らねば!」
「落ち着いてくださいっ、奥様に何があったのですか!?」
「怪しい男が二人、ベルを訪ねて来ているんだ!!」
「奥様が、その男たちに拉致されたのですか!?」
『されてないよ! 何か応接室で、ミランダと護衛の騎士と一緒に話を聞いてるってチロが言ってる!』

話をしているだと……?

「応接室で話をしているらしい……」
「それは、お客様がいらっしゃったという事でしょうか……」
『そう! でも、ベルは手紙の返事をしていないのに勝手に押しかけて来て、ベルに土下座してるって! 怪しいよねっ』

ウォルトの言葉と正妖精の話に、徐々に冷静になっていく。

「正妖精……、その男たちは、どんな用件でベルに会いに来たのかわかるだろうか」
『うん! 何か、自分の所の領地が危機的状況で、奇跡を起こす女神様だって噂の、ベルを訪ねて来たって』

つまり、相談……。てっきり例の馬鹿貴族が動いたのかと思ったが、早とちりか。

「旦那様、奥様はどういった状況なのでしょうか?」

心配するウォルトに、溜め息と共に出た言葉は、自分でも驚くほどマヌケだった。

「……客の相談を受けているらしい……」
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