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第二部 第3章
448.狙われたイザベル2 〜 テオバルド視点/イザベル視点 〜
しおりを挟むテオバルド視点
「もう、朕はダメなのだ……」
皇帝の執務室でしか行う事ができない、国家機密の書類を扱う仕事があった為、仕方なくこの部屋で執務を行っていたのだが、先程から耳障りな声が耳に届いている。
「陛下、しっかり働いてください」
「公爵、朕はもうダメなのだ」
「口を動かせているうちは、死にはしません」
「手ではなく口で判断するのか!?」
この皇帝は、実務作業がとにかく苦手だ。そしてすぐに口が動く。これでもう何度目だ。
口ではなく手を動かせ。
「ネロ、この書類だけど……」
そこへ皇后が、さらに書類の山を抱えやって来る。その途端、
「レーテ、朕は頑張っておるのだぞ! 公爵っ、次の書類を寄越すのだ!」
「ちょっと、その次の書類って……、急ぎだったわよね。まだ手を付けてなかったの!? ネロ、あんたまたサボってたわね!」
皇后には良い風に見せたいのか、仕事をしている風に装うが、結局すぐにサボっていた事がバレる。
いつも同じ事を繰り返しているこの男が、グランニッシュ帝国の皇帝だとは、この国は大丈夫だろうか。
「……テオ様、ちょっと良いかしら」
皇后が、真面目な顔をして話しかけてくる。よく話す機会があるとはいえ、やはり妻以外の女性は吐き気をもよおす。ある程度距離を保ったまま頷けば、何の資料か、目の前の机に置いた。
「どうやらまだ、キナ臭い動きをしている者がいるようなのよ」
皇后の情報網は侮れない。特に国外の情報の正確さは、我が家の影よりも上かもしれん。
資料に目を通すと、前々から目をつけていた、他国と通じている疑いがある貴族と、他国の商人について、詳しく書かれていた。
「大規模な粛清後にも関わらず、まだ命知らずの阿呆がいたか……いや、他国が関係してくるとなると、犯罪組織である『エンプティ』の可能性も高いか……」
なかなか尻尾を出さず、どうしてくれようかと思っていたが、これで一網打尽に出来るとほくそ笑む。
「テオ様が笑っているわ! 素敵ぃ!」
「こ、怖いっ、悪魔の微笑みなのだ!」
陛下たちには、さらに働いてもらわなくてはならんな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イザベル視点
「きゃーっ」
「にゃーっ」
「ワンッ」
「ウォンッ」
「みぃっ」
きゃーきゃーと、楽しそうに庭を駆け回るノアとぺーちゃん、ウチの番犬たちと子猫に、広大な庭を手入れ中の庭師たちも、メイドたちも注目し、頬を緩めている。
「の、ノア様……、カミラは、もぅ……ゼェ、げ、限界……ハァ、です……」
若干一名死にかけているけれど、概ね平和ですわ。
「でゅーく、なりゃ、こっちよ!」
ノアが滑り台の上から二匹を呼ぶと、滑り台の階段側へ前足をかけて尻尾を振るデュークと、滑る方へ即座に移動して、下で伏せをしてお尻を高く上げ、待ち構えまえているナラに笑ってしまった。
「なりゃ、しょこ、めっ、よ。わたち、すべれないのよ」
「くぅーん……」
ノアにめっされたナラは、少し後ろに下がり、尻尾をまたぶんぶんと振る。
賢いワンちゃんですわ。
「ワンッ」
するとこっちを見ろというように、デュークが吠えて階段をぴょんと上がったではないか! デュークに先を越されたぺーちゃんは、呆然とそれを見ている。後ろではマディソンが吹き出していた。
「でゅーく、いっちょ、すべりゅ?」
「ワンッ」
ポカンとして見ていたら、デュークが伏せをして、滑り台をシューッと滑っていくではないか。ノアもその後を追って、滑っていく。
「何かしら、この可愛らしい光景……」
「左様でございますね」
わたくしに日傘を差して、柔らかな表情をしながら応えるミランダは、眩しそうに目を細めていた。と、その時、
「失礼いたします」
マディソンに耳打ちをするメイドに、急な訪問客でも来たのかしら、と首を傾げる。
メイドが下がると、ぺーちゃんを抱っこし、こちらにやってきたマディソンが、真剣な顔で言ったのだ。
「……奥様、急なお客様の訪問があったようです」
「あら、どなたかしら?」
「それが、先日手紙を寄越された、ウィニー男爵領にある商人の同業組合の組合長だそうです。まだ返事をしていないにもかかわらず、やって来たそうで、門番が対応しておりますが、奥様に会うまでは帰らないと言って、門の前から動かないようです……」
ウィニー男爵領といえば、グランニッシュの最北端にある、未開拓の地が8割というあの……、確かにそこの組合から手紙をもらいましたけど、まだお返事が出来ていなかったのよね。
「そうね……お会いしてみましょう」
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