280 / 393
第二部 第3章
428.風と水の神殿 〜 テオバルド視点 〜
しおりを挟むテオバルド視点
歩き初めて暫く後、霧が立ち込め木々すらも見えなくなった。わかるのは仄かに光っていたあの花と、頭上を飛ぶ黒い烏だけだ。
「ノア、この霧でははぐれる危険性が高い。抱き上げるぞ」
「……はい」
自分の足で歩きたかったのか、少し不満そうに返事をすると、私に手を伸ばしてくるので、抱き上げる。
少し重くなったか……?
『アオも!!』
キノコ妖精まで腕をよじ登ってくるが、重さは感じないので気にするほどでもない。飛べばいい、とは思うが。
『はぐれるなよ。加護持ち殿』
「わかっている。ところで、神殿まではまだかかりそうか?」
頭上から降ってくる声に質問を返せば、『もうすぐそこまで来ている』と言って、烏は高度を下げる。
『霧の道を抜けると目の前だ』
「霧の道……」
鬱蒼とした森と、雨の降りそうな空、そして霧に烏……。あの水の神の神殿だというだけで不安であったが……まさか、あの調子の神殿ではあるまいな?
「ちろい、もやもや、うしゅくなった!」
『きり、はれてきたー!!』
ノアとキノコ妖精の言うように、霧がはれ、目の前に広がったのは、草原と……
「青い、湖か……」
晴れた空と同じ色をした湖が、そこにあったのだ。
「しゅごーい! おとぅさま、とぉっても、きれーね」
母に見せてあげたいと、目を輝かせながら話す息子に、ベルが聞いたら歓喜しそうだ、と口の端が上がる。
「不思議な場所だ。空は曇っているというのに、湖は青空のような色をしている……」
空が水に映り込んでいるわけではないようだ。
『加護持ち殿は、焔神殿から参られたのだろう。であれば、神殿の周りに結界が張られている事はご存知ではないか?』
烏の言葉に、この神殿も結界が張られているから違和感があるのか、と納得する。
「そういう事か」
『そーゆーこと!!』
妖精はよくわかっていないのに答えていないか?
『湖の真ん中にそびえ立つ、白く美しい塔が見えるだろうか。あれが、風と水の神殿だ』
水の神の神殿だというから、おどろおどろしい神殿を想像していたが、ベルの描く絵本に出てくるような、子供が好みそうな塔だった。
「からちゅさん、あしょこ、どぅやって、いくの?」
『加護持ち殿たちが、湖に近づけば、おのずとわかる』
烏はそう言い残し、『では、私はこれで』と空の彼方へ飛び立って行ったのだ。
「からちゅさーん、ばいばーぃ」
『バイバーイ!!』
あのわざとらしいほどの青い湖に、近付けばいいのか。
「ノア、アオ、湖に飛び込もうとは考えるなよ」
「はい!」
『えー、ダメ?』
キノコ妖精の言葉を無視し、ノアが落ちないように両手で抱き、湖へと近付くと……、
ゴゴゴ……
湖の中から何かが出てきた。
塔と同じように白い石で出来た道が、足元に浮き上がってきたのだ。
「からちゅさん、いってた、とーりね! みち、でてきたのよ」
『テオ、はやくわたるー!!』
はやく、はやくと逸る気持ちを抑えきれない様子で、ノアもキノコも腕の中で騒ぎ出す。仕方なく、白い道を渡りだすと、ノアは「わぁ~!」と嬉しそうに声を上げ、はしゃいでいるのだ。
強くなる為に、神殿に行きたいと言っていたが、これではただの観光だな。
ノアが管理者になって、いつでもここへ転移出来るようになったら、ベルを連れて来てもいいかもしれん。
湖の道を渡り、塔のある陸へと辿り着く。
「……入口どころか、窓すらないようだ」
そびえ立つ塔には、入口がどこにも無かったのだ。
6,384
お気に入りに追加
34,133
あなたにおすすめの小説
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。