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第二部 第3章
418.夏は涼しく、冬は暖かく
しおりを挟む「奥様、その問題とは?」
「それは……」
スライム生地の問題とは、水分を含むとほんの少しひんやりするのだ。夏は良いが、冬は少しとはいえ冷えるのは、赤ちゃんには良くないのではないかと、オムツとしてどうか悩んでいる所だった。
「なるほど、冷えが問題だと……。それはどれほどに冷えるのでしょうか?」
ウォルトに質問されて答えようとした時、
「奥様、実は水分を含ませた端切れをインナーに仕込み、1日付けてみたのですが」
ミランダがいつの間にそんな実験を行っていたのか、突然の告白に開いた口が塞がらない。
「私の体感で言えば、ほとんど冷えは感じませんでした。もしかしたら、吸収時の水分の温度によって変化するのではないでしょうか」
「なるほど……それなら冷えの問題は解決しそうですが……汗で蒸れてしまう可能性がありますね」
ウォルトは難しい顔をして、スライム生地を眺めている。
「吸収時の水分の温度によって変化するのであれば、問題は解決ですわ!」
ミランダの実験のお陰で、良い方法を思い付きましたわ。
「奥様、私にはより問題が大きくなったように感じますが、解決したのですか?」
「ええ。スライム生地が出来上がったら、霧吹きで常温の水を吹きかけておきますの。そうすればその水の温度が保てますもの。そうすれば、蒸れる事も冷えすぎる事もありませんわ」
「霧、吹き、ですか……?」
そうだった。霧吹きなんてこの世界にないのでしたわ!
「えっと……霧状にした水……たとえばジョーロなんかで作って、出来上がったスライム生地にかけるのですわ。その時に水の温度を調節すれば、夏は涼しく、冬は暖かい生地が出来上がるのではないかしら」
「!?」
「問題から、より便利な商品を生み出してしまわれるなんて、さすが奥様です」
まぁ、そんなに褒められても何も出ませんわよ、ミランダ。確かパティシエが美味しいスイーツを作っておりましたわよね。それを休憩に入ったら多めに持たせてあげましょう!
「これは……色々と準備する事がありそうですね! まずは紡績に携わる職人と織物職人の確保と作業場の建設、後はスライムの表皮の確保をしなければなりません」
ワクワクした顔で考えが止まらないウォルトに、「スライムの事なのだけど」と、溝に落とされた表皮を集める事を提案する。水に還るまでには多少時間がかかるので、その間に塩が入った樽のようなものに集めて、水分を抜くのが良いだろう。
「スライムの乱獲はしてはなりませんわ。必ず脱皮した皮を使用してくださいまし」
いくら増殖スピードが早くても、乱獲すればいずれいなくなってしまうものだ。それは絶対に避けたい。
わたくしは自然との共生をテーマに公爵領、ひいては帝国を発展させたいのですわ。
前世は温暖化やエネルギー問題など、環境汚染も深刻でしたもの。ノアや子供たちには、住みよい国で平和に生活してもらいたいの。
「勿論そのようにいたします。それと、この製法についても秘匿される事をおすすめいたします。もしこれが他に漏れてしまえば、スライムは世界から消えてしまうかもしれません」
ウォルトの怖い話しに、何度も頷き、テオ様にも相談しなくては! と決意を新たにする。世界問題に発展しそうな事は国に投げた方がいいのでしょうね。
「無事スライム生地でオムツが作れそうで安心しましたわ。ミランダのお陰ですわね!」
「そのような事はございません。少しでも奥様のお役に立てればと思った次第です」
もうっ、本当に優秀な侍女ですわ。
「そうだわ! ノアとぺーちゃんと、使用人の皆にもスライム生地でインナーを作りましょう!」
これで夏も冬も快適に過ごせますわよ!
こうして、スライム生地で出来上がったインナーは、夏は涼しく、冬は暖かく着られると大ヒットするのだが、それはほんの少し未来のお話。
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