継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
267 / 387
第二部 第3章

416.家族で散歩

しおりを挟む


正妖精の思わぬ助言で、スライムに活路を見出したわたくしは、張り切って企画書を書きますわよ! と、ペンと紙を手に取ったのだけど、

「ベル、散歩の時間だ。今日はここまでにしろ」

テオ様に止められてしまいましたの。

「そうですわね。ノアとぺーちゃんが待ってますもの!」
「ああ。ノアもぺーも散歩の時間を楽しみにしているからな」
「テオ様、お散歩の時間になると、いつもわたくしを迎えに来て下さってありがとう存じますわ」
「私が、ベルと子供たちと、家族の時間を過ごしたいんだ。礼を言う必要はない」
「テオ様……っ」

子供たちと家族の時間を過ごしたいだなんて、成長しましたのね!

本来は5歳から始まる公爵家の後継者教育を、少しだけ早く始めたノアは、最近とても多忙で、朝、昼、晩の食事前の散歩で家族のコミュニケーションを取っている。だから遅れるわけにはいかないのだ。

「おかぁさま!」
「かぁちゃ!」

リビングを出たところでノアとぺーちゃんがカミラ、マディソンと共にやって来る。
少し前までは駆け寄って来ていたけど、今は歩いてやって来るのは、マナー講師の教育の賜物かもしれない。ぺーちゃんに歩幅を合わせているのもあるだろうけれど。

屈んで、やって来た子供たちと目を合わせ、頭を撫でる。

「ノア、午前中のお勉強は終わりましたのね」
「たくさん、おべんきょおち……し、たのよ」
「まぁ、お庭をお散歩しながら、お母様に何をお勉強したのか教えてくれるかしら?」
「はい! ……おかぁさま、あかちゃん、おげんき?」
「ぁーちゃ、ぅっ、ち?」

二人共お腹を触りたいのだろう。わたくしを見上げ、もじもじと聞いてくるノアと、抱っこしてというように両手を出してくるぺーちゃんに微笑み、「とってもお元気よ」と答えれば、嬉しそうに頷くのだ。ぺーちゃんを抱き上げようとすれば、さっとテオ様が抱っこするので、わたくしはノアと手を繋ぐ。

「おげんきね。はやく、うまれてね」

わたくしのお腹に話しかけているノアは、なんて優しいのかしら。優しい所はテオ様そっくりですわね。

「ノア、ありがとう」
「わたし、あかちゃんと、おもちゃであそぶのよ」
「ノアのおもちゃを貸してあげるの?」
「そおよ!」
「ぺぇちゃ、みょ!」

フフッ、ぺーちゃんも、ノアの真似をして、おもちゃを貸してあげるのですって。

散歩中、子供たちとわたくしがお喋りをして、テオ様が静かにそれを聞いているのだけど、必ず一度はテオ様からノアに話しかけるようにしているのは気付いていた。

テオ様なりに色々考えているようで、また少し、お父さんになったのだわ。と嬉しくなる。

「───それでね、もじ、かけるのよ!」
「すごいわ。文字が書けるようになったのね! じゃあ、お父様にお手紙を書いてみたらどうかしら」
「ベル?」

何を言い出すんだという顔をするテオ様をスルーし、ノアに提案する。

「おとぅさまに?」

ノアはテオ様をじっと見ると、「おとぅさまに、おてがみ、かくの!」とわたくしの目を見て頷いたのだ。

その後、30分程庭園を散歩して、昼食後はテオ様からノアに魔法の訓練をすると聞いたので、その様子をぺーちゃんと見ながら、スライム生地を使用したオムツや女性用のサニタリー用品についての企画書をまとめた。

後は、哺乳瓶を作ったものの、その中身の粉ミルクが問題なのよね……。

粉ミルクって、主に牛の生乳をろ過して、脱脂、加熱殺菌をした後、油分と水分が混ざる為の乳化剤や安定剤を混ぜたり、糖質やその他の栄養素を加えたりの成分調整後、濃縮して噴霧乾燥されて出来るってネットで見た記憶があるわ。

「加熱殺菌までは何とかなるけど……乳化剤や安定剤なんて無いし……それの代わりになりそうなものは、卵とか……? でもアレルギー体質の子には……。あーもうっ、分からないものはいくら考えても分からないわ! とりあえず今は、前世にあったベビー用品を書き出すべきね」

・抱っこ紐
・歩行器
・おしりふき
・鼻吸い器
・爪切り……

「と、さっき考えていたものも合わせて、とりあえずこんなものかしら!」

結構色々出て来たけど、この中のどれだけが実現出来るのか。

「あなたが生まれてくるまでには、頑張らないといけませんわね」

お腹を撫でる。まだ全然膨らんではいないのだけれど、話しかけて撫でると良いのだと聞いたことがある。

こうして、結構な数の企画書をまとめ、そのほとんどを職人さんたちが泣きながら形にしてくれる事になるのだが、わたくしがそれを知るのは、サンプルが出来上がってからだった。

しおりを挟む
感想 11,225

あなたにおすすめの小説

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

素直になるのが遅すぎた

gacchi
恋愛
王女はいらだっていた。幼馴染の公爵令息シャルルに。婚約者の子爵令嬢ローズマリーを侮辱し続けておきながら、実は大好きだとぬかす大馬鹿に。いい加減にしないと後悔するわよ、そう何度言っただろう。その忠告を聞かなかったことで、シャルルは後悔し続けることになる。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。