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第二部 第2章
385.ナイトレイ子爵 〜枢機卿視点〜
しおりを挟むウィーヌス・ウラヌ・ディオネ枢機卿視点
「───そうか……、子供の性別について知ってしまったのか」
ポレットの父親で、私の父の親友でもあったナイトレイ子爵は、子供の時から私を本当の息子のように可愛がってくれていた、優しい人だ。
そんな子爵は、記憶にあるよりも年を取っていて、目元や口元の皺も深くなっていた。ただ、覇気はなく、だからこそなのか、より老け込んで見えるのだろう。
「やはり、私の子供は娘ではなく、息子だったのですね……」
「……」
ナイトレイ子爵は瞬きよりも少しだけ長く目を閉じ、ゆっくり開く。
「……子爵は、私に会ってくださらないかと思っていました」
ディバイン公爵夫人に、父がなぜ子供を養子に出すような行動をとったのか調べるべきだ、とアドバイスされてからすぐ、ナイトレイ子爵に連絡を取り、こうして会いに来たが、私はこの人の大事な娘を奪い、挙げ句病気で死なせてしまった愚かな男だ。子供……この人にとって孫は未だ行方知れずで、ルネまでも教会へ来てしまった。
だからこそ、面会は叶わないかもしれないと半ば諦めていた。
「……そうだな。君はポレットだけでなく、ルネまでも私から奪っていった男だ」
「申し訳ありません……」
椅子に座って深い溜め息を吐く子爵から、目をそらす。
「お父さん、私がウィーヌス様に無理を行って付いて行ったの! 姉さんだってそうよっ、ウィーヌス様は何も悪くないわ」
ルネの言葉にもう一度溜め息を吐いた子爵は、ゴホッと咳をして、深呼吸すると、私たちに向き直った。
「わかっている。ずっと……、そんな事は最初からわかっていた」
「なら……っ」
「だがな、私はポレットとお前の父親だ。恨めしいと思う気持ちも、わかってほしい」
それはそうだ。私だとて、もし子供が私のような者を追いかけて行ってしまえば、当然恨むだろう。
「だがな……、だが、ウィーヌス、本当は君を息子として迎えたかったのも事実だ」
「ナイトレイ子爵……?」
「ポレットが魔栓症でなければ、問題はなかったのに……っ」
深い皺が刻まれた手をぐっと握り、何かに耐えるように唇を噛むその姿に、心が痛んだ。
「君の父親であるディオネ辺境伯に、ポレットと君の子供を養子に出すよう頼んだのは、この私だ」
「!? なぜ、そのような事を……っ」
「魔栓症は遺伝性の病気だ。それを心よく思わないディオネの一族から、恐ろしい事に、子供を殺せと声が上がった……っ」
一族が……!?
「もちろんディオネ辺境伯は拒んだが、長男を失い、古傷のせいで体力も失いつつあったアイツでは、抑えられなくなっていたんだ」
父は、一族の暴走を懸命に抑えようとしてくれていたのか。
「……ディオネ辺境伯は、君とポレットの仲を認めなかっただろう。あれも、私がそうするよう言ったからだ……」
「どうして……っ」
ナイトレイ子爵の告白に、驚きが隠せない。
「君は、ディオネ家の次期当主である兄の婚約候補と、何の報告もなく駆け落ち同然に家を出ただろう」
ポレットが勝手に付いてきた事が、大事になってしまっていたのだ。
「ディオネ辺境伯は、我が家の名誉を気にしてくれていた。そして、頭を下げ、ポレットの婚約者を君に変更したいとまで言っていたんだ」
「父が……!?」
そんな事は、全て初耳だった。
私は、父を誤解していたようだ……。
「だが、君のお兄さんの手前、すぐに鞍替えするような事は避けるべきだ、と……君やポレットがアカデミーを卒業するまで待つ事にした。だが、娘は魔栓症を発症してしまった」
子爵は、ディオネ家の為に結婚を反対したのだ。そして私たちの子供の命を救う為に、養子に出す決意をしたのだ。
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