継母の心得

トール

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第二部 第2章

370.格好悪い子

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娘? 今、娘って言いましたわよね?

「……彼女とは、書庫の隠し部屋にいた女性の事かな?」
「!? あの部屋に入ったのですか!? 一体どうやって……っ」

大司教の言葉に、枢機卿猊下の顔色が明らかに変わった。

隠し部屋って、何の事ですの?

「部屋にあった氷の棺は溶けかけていた。おぬしがやろうとしている事は、それと関係があるのではないか?」
「っ……」

氷の棺が何かはわかりませんが、枢機卿猊下が形振りかまっていられない状況なのは、その隠し部屋にいる女性と関係があるようですわね。

「……時間がないのです。邪魔をしないでいただきましょう」
「そうか……、娘とは、おぬしの娘御かな」
「っ……うるさいですよ。あなたには関係ありません」

枢機卿はフロちゃんを盾に神殿内部へとジリジリ移動している。

もし、神殿内部に入られてしまえば、わたくしたちは追っていけませんわ……っ

「もし……、もし、あなたに娘さんがいらっしゃるのなら、幼い子供を人質にしている今のあなたの行動を、どう思うのかしら」

一か八か、良心に訴えるしかないですわ!

そう思ったのだけど、わたくしの一言に枢機卿猊下は苦しげな表情で呟いたのだ。

「……会うためです。その娘に会うために、私は……っ」
「え……」

枢機卿猊下は、自分の娘に会うために、神殿に入ろうとしていますの? では、隠し部屋にいた女性が娘さん? でも、大司教や枢機卿猊下の言い方ですと、大人の女性のように聞こえましたけれど。

「あの、どういう事かイマイチわからないのですが、枢機卿猊下は娘さんにとは現在会えていない状況で、会うためには神殿内部にある何かが必要という事で間違いありませんの?」
「ベル、枢機卿は隠し部屋の氷の棺が溶けかけている事に対し、時間がないと言っていた。氷の棺の中には子供ではなく、成人女性の遺体があった事から、それでは矛盾が発生する」

枢機卿は嘘を言っているとテオ様は言って、前に出ると「私はいつでも貴殿の足を凍らせ、砕く事が出来る」と恐ろしい事を無表情で言い放つではないか。

「っ……化け物め」

何ですって!? テオ様を化け物だなんて、そんな酷い言葉を投げつけてどういうつもりですの!?

「貴殿に何を言われようが、何ら問題はない。今すぐフローレンスを解放し、本当の目的を吐け」

テオ様は本当に何とも思っていなさそうに、淡々と話した後だ。足元から冷やっと空気が上がってきたので下を向けば、そこにはなんと、霜柱が出来ているではないか!

霜柱って、地表の水分が凍って、氷柱みたいになって、表土を持ち上げますのよね……。わたくしたちの足元は霜柱ですけれど、枢機卿の足元は……凍土ではないかしら。

「ぷちゅんっ」

小さなくしゃみが耳に届き、ハッとする。

「テオ様! お待ち下さいっ。枢機卿猊下の腕の中には、フロちゃんがおりますのよ!? 」
「ずび……、ちゅめたい……」

大変っ、フロちゃんが寒がっておりますわ!

「ベル、コントロールはしている。フローレンスは多少寒がるかもしれないが、怪我をするわけではない」
「テオ様!」
「おとぅさま、おかぁさま、めっ、ちてる」
「な……っ」

わたくしがテオ様の名前を強く言えば、ノアが怒っていると思ったのだろう。それを聞いたテオ様が、わたくしを見て、この世の終わりのような顔をするではないか。

「ちょ、テオ様?」
「ベル……私は何かいけない事をしただろうか……?」

えー……

「おとぅさま、フロちゃん、ちゅめたいって。しょれ、めっ」
「な……、多少寒いだけだろう?」
「おかぜ、ひいちゃうのよ。おねちゅ、でる!」

ノアの言う通りですわね。

「……だが、」
「いいわけ、しゅるの、かっこわるいこよ!」
「何だと!?」

テオ様はショックを受けたように固まったのだ。

『魔王にも、勝てないものはあるんだね』

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