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第二部 第2章
369.証
しおりを挟む「はいそうです、とでも言うと思いましたか」
枢機卿猊下は、冷めた目でこちらを見て、フロちゃんに言ったのだ。
「さぁ、聖女フローレンス、あの建物の中に入るのです」
「ぅ?」
「お腹が空いたのでしょう? あの建物の中の食堂で、あなたの好きなものを召し上がるのはどうでしょうか」
「ふりょ、ちゅき?」
ちょっと!? まさかフロちゃんを食べ物で釣る気ですの!?
「フロちゃん、神殿の中はとても危ないのよ!」
「あ~、よーてーたん」
わたくしを見つけたフロちゃんは、こちらへ駆けて来ようとしたが、当然枢機卿猊下に止められ、またしても抱きかかえられたのだ。
「らっこ、や! とぅた、にぃに、よーてーたん!」
少し乱暴な抱っこに、さすがのフロちゃんも抵抗しだすが、枢機卿猊下は物ともせず、そのままわたくしたちから距離を取りつつ、フロちゃんを人質に神殿へと近付いていく。
「すうききょう、しんでんには、わながあるのだ!」
「かごないと、あぶないのよ!」
子供たちが、フロちゃんを連れて行かれないよう叫ぶ。優しい子供たちの事だ。もしかしたら、枢機卿猊下たちの事も心配しているのかもしれない。
「加護ならば、聖女フローレンスにあります」
「ちがうっ、フローレンスのかごは、ひのかみの、かごではない!」
『そうさ! フローレンスは光の子。光の神の加護だから、焔神じゃないよ!』
イーニアス殿下が声を張り上げ、正妖精が、枢機卿猊下の後ろから、加護が違うと訴えるが、枢機卿猊下の足は止まらない。
「めっ! ちんじゃうの!」
今度はノアが大きな声を上げた。
「イーニアス殿下、私には、どの神の加護かは関係なく、加護さえあれば罠は発動しないのですよ」
「どういう、ことだろうか?」
枢機卿猊下の話に、イーニアス殿下だけでなく、わたくしも首を傾げる。
今の話だと、まるで自分だけはどの神の加護も関係なく、加護を持つ者がそばにいれば、罠は発動しないと言っているように聞こえる。
「ウィーヌス、なぜその確信があるのか、聞いてもよいかな」
「にゃ……」
「クレオ大司教……それと、教皇か」
まぁっ、可哀想に、ぺーちゃんが枢機卿猊下に睨まれて、大司教の腕の中で震えておりますわ。
「はぁ……、私は神殿に入る為の『証』を持っているのですよ」
仕方がないと、枢機卿猊下は大司教には頭が上がらないかのように渋々説明しだす。
この二人、一体どういう関係なのかしら……?
「ベル、大司教と枢機卿とは、師弟のような関係にあったらしい」
「え!?」
「二年前、枢機卿の地位に就いた事で立場が変わったようだが、それまでは直属の部下だったようだ」
「二年前……?」
枢機卿に就任して、たった二年ですの?
「───証は、加護に反応して結界を作るのです。つまり、私の同行者の一人が加護持ちであれば、安全に神殿に入れるのですよ」
「おぬしがなぜ、『証』とやらを持っている」
「私の先祖は、この神殿に出入り出来る立場の者だったのです」
「なんじゃと!?」
さすがの大司教も、枢機卿猊下の話には驚いておりますわね。わたくしももちろん驚きましたが……、この神殿、すでにわたくしの息子とアス殿下、皇后様が攻略しておりますから、神殿に入る為の『証』が必要だったと今更言われましてもね……。
「邪魔をしないでもらえますか。聖女フローレンスを傷つけられたくないのならね」
「おぬし……幼子を盾に取るとは、そこまで腐ってしまったのか!」
「腐った……ね」
大司教の言葉で、枢機卿猊下の雰囲気が、少し変わった気がした。
「彼女と『娘』の為ならば、私は何でも出来ますよ」
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本日、4/16(火)より【継母の心得】コミカライズの連載がスタートいたします。
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