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第二部 第2章
366.またですの!?
しおりを挟むオリヴァーがノアに、ぺーちゃんの事を説明してもらっている間に、カミラがシスターに食事を頼んでいたらしく、礼拝堂にいた全員が別室へと案内された。
外はもう夜で、真っ暗な中、激しく降る雨の音と雷鳴だけが聞こえてくる。
『ベル~! チロ、モドッタノ~』
「まぁっ、チロ。あなたが突然居なくなったから、心配しておりましたのよ。他の妖精にあなたがオリヴァーのそばに行ったと聞いて、居場所を知ったからいいものの、離れる時はきちんとお話ししてちょうだいね」
『ゴメンナサイ、ナノ~』
「んもうっ、可愛いのだから!」
チロを叱るなんて出来ませんわね。
「あっ、チロ、しゅがたみえない、とーっても、ちんぱいちたのよ! めっ、よ」
『ノア~、ゴメンササイ、ナノ。チロ、オリヴァートイッショ、イタノ~』
わたくしの代わりに、ノアがチロを叱ってくれていますわ。なんて可愛いの! ぺーちゃんの前だから、お兄ちゃんぶっていますのね。オリヴァーにもさっき、お兄ちゃんになったって自慢しておりましたものね。
チロはノアのマシュマロほっぺにぴとっとくっつくと、ごめんなさいと素直に謝っている。反対側のほっぺの影から、アオがその様子を伺っているが、チロは赤ちゃん妖精なのでヤキモチもやけず、文句も言えず、複雑な表情なのだ。
何だか面白いですわ。
フロちゃんも、今頃お腹空がいているんじゃないかしら……。神殿までは半日は歩き通しだろう、と皇后様は仰っていたし、正妖精からは、フロちゃんは抱きかかえられて移動していると報告が入っているから、身体に負担はあまりないようだけど、心配ですわ。テオ様はこのまま動くなと仰るし……
『ベル~、テオニ、ミンナココニイル、ツタエタノ~』
「ありがとうチロ。さすがですわね」
チロったら戻ってきて早々、働き者で感心しますわ。
『チロ、エライ~?』
「ええ。チロは偉いですわよ。とっても優秀で、賢い妖精さんですわ」
『チロ、エライノ~』
チロはノアの周りをたんぽぽのわたげのように、ふわりふわりと飛んでいる。アオはそれをちょっと悔しそうに、ノアにくっついて見ている。
「おかぁさま、チロね、かちこいと、かわいーの」
『!? ノア、アオも!! アオも、かしこくて、カワイー!!』
「チロもノアも、もちろんアオも、とっても賢くて可愛いですわよ」
『ベルすきー!!』
「ぶふぁっ」
アオがわたくしの顔面にぶつかってきた。
痛くはないけれど、かなり驚きましたわよ。
「───イーニアス殿下、鳥に私だけ神殿の前へ転移するよう伝えてもらえますか」
「こうしゃくだけを、しんでんに? しかし、しんでんには、たくさんわながある……」
「神殿に入るわけではありませんので、心配は無用です」
ドニーズさんとクレオ大司教を連れて戻ってきたテオ様は、早速イーニアス殿下に珍獣とコンタクトを取るよう言っている。
テオ様だけ神殿に転移するなんて、危険ですわよ。相手は二人おりますのよ。しかもフロちゃんを人質に……。
ドニーズさんはわたくしたちを見て、驚きを隠せない様子で挙動不審になっているし、クレオ大司教はぺーちゃんを見つけて顔をほころばせ、孫バカじぃじ全開だ。
「テオ様……」
「ベル、君は子供たちとドニーズと共に、皇后陛下と皇宮へ戻るんだ」
「ですが、テオ様お一人では危険ですわ……っ」
などとやり取りしていると……
『またか! イーニアス、何度わしを呼べば気が済むのだ!』
珍獣の声が頭の中に響いたのだ。
また、はこちらのセリフだ、と思ったけれど、言葉に出せば話が長くなりそうなので口を噤ぐ。
『神殿に転移させればいいのだな! よしっ、ゆくぞ!』
「あかいとりさん、すこしまってほし……」
イーニアス殿下が止めるのも聞かず、珍獣はまた、その場にいた全員を、神殿前に転移させたのだった。
本当、人の話を聞かない珍獣ですわね!
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