216 / 377
第二部 第2章
365.伝説の存在 〜 テオバルド視点/イザベル視点 〜
しおりを挟むテオバルド視点
「何だこれは……」
妖精の卵に案内され、ドニーズがいるという場所へやって来たのだが、倉庫の奥に隠し部屋があり、開け放たれていたそこを進むと、冷気が放出されている部屋に、ドニーズと大司教が呆然と立っていた。二人の前には氷で出来た棺があり、中には女性の遺体が横たわっているではないか。
「か、閣下!」
私に気付いたドニーズが、片膝をついて頭を下げるので、礼はいいから説明しろ、と話を促す。
「それが、私にも何がなんだか……。寄付の為訪れた教会で、突然暗殺者に命を狙われ、クレオ大司教に助けられて逃げ込んだ先が、この隠し部屋で……」
どうやら隠し部屋は、偶々発見したようだ。
「閣下はどうしてこちらに……?」
「オリヴァー殿から、お前が教会に行ったきり、足取りが途絶えたと報せが入ったのでな。様子を見に来たのだが、まさか教会で隠し部屋を見つけるとは……」
オリヴァー殿の機転のお陰で、今こうしてドニーズの無事な姿を見ることができるのだから、彼には頭が下がる。さすがベルの弟だけある。
「オリヴァー様が……っ、あ! 閣下、フローレンスは無事でしょうか!? 私には、暗殺者を差し向けられる心当たりは、フローレンスしかありません! 娘が狙われているのではないかと、気が気ではなく……」
ドニーズの悪い予感は残念ながら当たっている。しかし、それを言えば娘を追って行くだろう。自身を危険にさらすだろう事を許すわけにはいかない。
「閣下……?」
「いや……、お前の娘はシモンズ伯爵家にいるのだろう。早く帰ってやった方がいい」
「は、はい!」
ドニーズの顔色が多少マシになったが、娘に早く会いたいと思っている事は明らかで、さて、どうすべきか……と心の中で溜め息を吐いた。
ベルもフローレンスを娘のように可愛がっている。急がねば、妻も暴走しかねない。
「ディバイン公爵、氷の棺を見て下され」
クレオ大司教が険しい表情で私を呼ぶのでそばに行くと、棺が溶け始めているではないか。
「……これは、亡くなっているのですか?」
「そのようですな。少なくとも、息はしていないようですぞ」
「……枢機卿とこの女性に何らかの繋がりがあるとしたら、奴が焦っていた事と関係があるのか……」
「枢機卿は、焦っておったのですか?」
「そのようです。今は教会の地下にある迷宮へ潜ってしまい、追跡していますが、おそらく目的地は焔の聖獣の神殿ではないかと考えています」
教会の地下に迷宮がある事も、聖獣のいる神殿が存在する事も知らない大司教は、いつも飄々としているが、目を丸くし、私を信じられないというように見たのだ。
そういえば、ベルを妻にもらってから、不可思議な事が起こり過ぎて麻痺していたが、聖獣や妖精などというものは、伝説の存在であったな……。
「とにかく、礼拝堂に移動しましょう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イザベル視点
「かぁちゃ、ぺぇちゃ、ぅ~」
「ぺーちゃん、どうしましたの?」
ぺーちゃんがわたくしに手を伸ばし、「ぅ~」と唸っているのだけれど、どうしたのかしら?
「おかぁさま、ぺーちゃん、おなか、くぅちてる」
ノアが自分のお腹を押さえながら、わたくしに教えてくれる。
もしかしてノアも、お腹が空いている……?
「あら、ぺーちゃんお腹が空いてしまいましたの? それは大変っ、シスターに赤ちゃんが食べられるものがあるか聞いてみましょう」
「ぁーい」
可愛いお返事ですわね。
「赤ん坊が、お姉様の事をお母さんって呼んでる!? お姉様、いつこの赤ん坊を産んだんですか!?」
「おじさま、おかぁさま、おなか、あかちゃんいるのよ」
「そうだよね!?」
ノアがオリヴァーに、ぺーちゃんの事を教えてあげていますわ。ふふっ、ノアったらちょっと自慢気ですわ。
「あのね、ぺーちゃんよ」
「へ……? ぺーちゃん……ノア、あの赤ちゃんはぺーちゃんって名前なのかな?」
「しょうよ。わたち、おにぃさまよ!」
「ええ!? やっぱりお姉様が産んだ……!?」
オリヴァー、大混乱ですわね。
6,474
お気に入りに追加
32,202
あなたにおすすめの小説
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
第二夫人に価値はないと言われました
hana
恋愛
男爵令嬢シーラに舞い込んだ公爵家からの縁談。
しかしそれは第二夫人になれというものだった。
シーラは縁談を受け入れるが、縁談相手のアイクは第二夫人に価値はないと言い放ち……
夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】子供が出来たから出て行けと言われましたが出ていくのは貴方の方です。
珊瑚
恋愛
夫であるクリス・バートリー伯爵から突如、浮気相手に子供が出来たから離婚すると言われたシェイラ。一週間の猶予の後に追い出されることになったのだが……
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。