継母の心得

トール

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第二部 第2章

365.伝説の存在 〜 テオバルド視点/イザベル視点 〜

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テオバルド視点


「何だこれは……」

妖精の卵に案内され、ドニーズがいるという場所へやって来たのだが、倉庫の奥に隠し部屋があり、開け放たれていたそこを進むと、冷気が放出されている部屋に、ドニーズと大司教が呆然と立っていた。二人の前には氷で出来た棺があり、中には女性の遺体が横たわっているではないか。

「か、閣下!」

私に気付いたドニーズが、片膝をついて頭を下げるので、礼はいいから説明しろ、と話を促す。

「それが、私にも何がなんだか……。寄付の為訪れた教会で、突然暗殺者に命を狙われ、クレオ大司教に助けられて逃げ込んだ先が、この隠し部屋で……」

どうやら隠し部屋は、偶々発見したようだ。

「閣下はどうしてこちらに……?」
「オリヴァー殿から、お前が教会に行ったきり、足取りが途絶えたと報せが入ったのでな。様子を見に来たのだが、まさか教会で隠し部屋を見つけるとは……」

オリヴァー殿の機転のお陰で、今こうしてドニーズの無事な姿を見ることができるのだから、彼には頭が下がる。さすがベルの弟だけある。

「オリヴァー様が……っ、あ! 閣下、フローレンスは無事でしょうか!? 私には、暗殺者を差し向けられる心当たりは、フローレンスしかありません! 娘が狙われているのではないかと、気が気ではなく……」

ドニーズの悪い予感は残念ながら当たっている。しかし、それを言えば娘を追って行くだろう。自身を危険にさらすだろう事を許すわけにはいかない。

「閣下……?」
「いや……、お前の娘はシモンズ伯爵家にいるのだろう。早く帰ってやった方がいい」
「は、はい!」

ドニーズの顔色が多少マシになったが、娘に早く会いたいと思っている事は明らかで、さて、どうすべきか……と心の中で溜め息を吐いた。

ベルもフローレンスを娘のように可愛がっている。急がねば、妻も暴走しかねない。

「ディバイン公爵、氷の棺を見て下され」

クレオ大司教が険しい表情で私を呼ぶのでそばに行くと、棺が溶け始めているではないか。

「……これは、亡くなっているのですか?」
「そのようですな。少なくとも、息はしていないようですぞ」
「……枢機卿とこの女性に何らかの繋がりがあるとしたら、奴が焦っていた事と関係があるのか……」
「枢機卿は、焦っておったのですか?」
「そのようです。今は教会の地下にある迷宮へ潜ってしまい、追跡していますが、おそらく目的地は焔の聖獣の神殿ではないかと考えています」

教会の地下に迷宮がある事も、聖獣のいる神殿が存在する事も知らない大司教は、いつも飄々としているが、目を丸くし、私を信じられないというように見たのだ。

そういえば、ベルを妻にもらってから、不可思議な事が起こり過ぎて麻痺していたが、聖獣や妖精などというものは、伝説の存在であったな……。

「とにかく、礼拝堂に移動しましょう」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「かぁちゃ、ぺぇちゃ、ぅ~」
「ぺーちゃん、どうしましたの?」

ぺーちゃんがわたくしに手を伸ばし、「ぅ~」と唸っているのだけれど、どうしたのかしら?

「おかぁさま、ぺーちゃん、おなか、くぅちてる」

ノアが自分のお腹を押さえながら、わたくしに教えてくれる。

もしかしてノアも、お腹が空いている……?

「あら、ぺーちゃんお腹が空いてしまいましたの? それは大変っ、シスターに赤ちゃんが食べられるものがあるか聞いてみましょう」
「ぁーい」

可愛いお返事ですわね。

「赤ん坊が、お姉様の事をお母さんって呼んでる!? お姉様、いつこの赤ん坊を産んだんですか!?」
「おじさま、おかぁさま、おなか、あかちゃんいるのよ」
「そうだよね!?」

ノアがオリヴァーに、ぺーちゃんの事を教えてあげていますわ。ふふっ、ノアったらちょっと自慢気ですわ。

「あのね、ぺーちゃんよ」
「へ……? ぺーちゃん……ノア、あの赤ちゃんはぺーちゃんって名前なのかな?」
「しょうよ。わたち、おにぃさまよ!」
「ええ!? やっぱりお姉様が産んだ……!?」

オリヴァー、大混乱ですわね。

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