継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
205 / 385
第二部 第2章

354.フライング

しおりを挟む


「ノア、決めたって……一体なにを?」

眉を凛々しく上げて、ぷすっと鼻から息を吐くノアに、恐る恐る聞くと……

「あのね、わたちたち、きょーかい、いく!」
「エェ!?」

うちの息子は、とんでもない事を言い出した。

「ノア、お父様も言っていたでしょう。アオの転移は、ノアしか移動出来ないのよ。だから、ノアがフロちゃんやドニーズさんを助ける事は……」

ハッ! ダメですわ。こんな頭ごなしに出来ないなどと言っては、やる気になっているノアが、自信を無くしてしまうかも……。

「おかぁさま、だいじょぶよ」
「え?」

ノアが、アス殿下とぺーちゃんのいる所まで、わたくしの手を引いてくれる。

「あのね、アスでんか、あかいとりさんと、けーやく、ちたでしょ」
「ええ、そうですわね……?」
「あかいとりさん、みーんな、てんい、できるのよ」

何ですって!?

「イザベルふじん、フロちゃんをたすけて、ここにもどってきたら、よいのだろう?」

皇后様似の端正な顔に爽やかな笑みを浮かべて、イーニアス殿下が簡単な事だと胸を張る。そんな殿下に追随するようにノアが頷き、ぺーちゃんが「にゃっ」と、小さくてぷくぷくした手を上げた。

三人とも可愛いのだけれど、これはどうやって止めたらいいの!?

「ちょ、ちょっと落ち着きましょう!?」
「おかぁさま、わたち、おちゅちゅ……おちちゅいてる」

ノアは少しほっぺを膨らませ、上目遣いにわたくしを見る。

なんですの。その可愛い仕草!

「ぅ、ちゅっちゅ!」
「おおっ、ぺーちゃん、じょうずに、いえているぞ」
「にゃ!」

本当、ぺーちゃんは「落ち着いて」って上手に言えましたわねぇ……って、違いますわよ!

「三人とも、テオ様がフロちゃんたちを助けに行きましたから、とりあえず今は様子を見……」
『まったく、何度も何度も呼び出しおって! 尊い存在であるわしを、こうも頻繁に呼び出すとは、イーニアスだから許すのだぞ!』

子供たちを止めようと、必死に宥めていた時、わたくしの話を遮るようにあの珍獣の声が響いたのだ。
カミラにもマディソンにも聞こえているようで、特にカミラが目を見開き、キョロキョロしている。挙動不審である。

『では、転移させるぞ!』
「え!?」

その刹那、周りが炎に包まれ、カミラとマディソンのわたくしとノアを呼ぶ声が耳に残ったまま、気付けば炎は消え、皇宮の離れではない、別の場所にいたのだ。

「お、奥様……っ」
「ヒェェッ」

マディソンとカミラがすぐにわたくしのそばへ駆け寄る。
ひんやりとした空気と、広い空間、そして目の前には創造神の像。

ここは……礼拝堂ですわ……っ

「マディソン、カミラ、あなたたちも転移させられましたのね!?」
「奥様、ご無事ですか!?」
「ぉ、奥様ぁ~、ここはどこでしょうか!?」

わたくしたちの声が礼拝堂に響く。

「ここは教会のようですけれど……ノア!? ノアはどこですの!? ぺーちゃんにイーニアス殿下も!!」

礼拝堂の方向にはカミラとマディソンだけだ。わたくしは子供たちの姿を探して、後ろの内陣へと目を向ける。

「ぅにゃ!?」
「ここ、きょーかい?」
「うむ。しゅくふくのぎで、きたところと、おんなじだ」

子供たち三人は揃って、内陣の椅子に腰掛け天井を見上げていた。

「ノア! ぺーちゃんもイーニアス殿下も!」

慌てて駆け寄ると、ノアは「おかぁさま!」と、いつもの笑顔を向ける。

「良かった……っ」
「おかぁさま、ここ、きょーかい!」
「ぅっ、きゃぃ!?」
「イザベルふじん、あかいとりさんが、ふらいんぐ、してしまったようだ……」

ノアは教会だと確信して嬉しそうに、ぺーちゃんはびっくりしていて、イーニアス殿下はすまなそうに眉を下げ、それぞれ違う反応で忙しい。

「ぺーちゃん、お母様が抱っこしましょうね」
「にゃ! かぁちゃ」

ぺーちゃんを抱っこし、わたくしもとりあえず椅子へ腰掛けると、隣の子供たちと、そばに待機しているカミラとマディソンを見る。

「……テオ様はまだ着いていないでしょうし……、とりあえず、到着するまでここで待ちましょうか」
「そうですね……。奥様、教会の関係者に見つかってはいけませんので、あちらの柱の影に移動しましょう。それと、ぺーちゃん様は私がお預かりします」

マディソンの言うように、内陣後方の太い柱の影へと移動した時だ。

「───急ぎましょう」

誰かが、礼拝堂に入ってきたのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

意地を張っていたら6年もたってしまいました

Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」 「そうか?」 婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか! 「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」 その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。