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第二部 第2章
354.フライング
しおりを挟む「ノア、決めたって……一体なにを?」
眉を凛々しく上げて、ぷすっと鼻から息を吐くノアに、恐る恐る聞くと……
「あのね、わたちたち、きょーかい、いく!」
「エェ!?」
うちの息子は、とんでもない事を言い出した。
「ノア、お父様も言っていたでしょう。アオの転移は、ノアしか移動出来ないのよ。だから、ノアがフロちゃんやドニーズさんを助ける事は……」
ハッ! ダメですわ。こんな頭ごなしに出来ないなどと言っては、やる気になっているノアが、自信を無くしてしまうかも……。
「おかぁさま、だいじょぶよ」
「え?」
ノアが、アス殿下とぺーちゃんのいる所まで、わたくしの手を引いてくれる。
「あのね、アスでんか、あかいとりさんと、けーやく、ちたでしょ」
「ええ、そうですわね……?」
「あかいとりさん、みーんな、てんい、できるのよ」
何ですって!?
「イザベルふじん、フロちゃんをたすけて、ここにもどってきたら、よいのだろう?」
皇后様似の端正な顔に爽やかな笑みを浮かべて、イーニアス殿下が簡単な事だと胸を張る。そんな殿下に追随するようにノアが頷き、ぺーちゃんが「にゃっ」と、小さくてぷくぷくした手を上げた。
三人とも可愛いのだけれど、これはどうやって止めたらいいの!?
「ちょ、ちょっと落ち着きましょう!?」
「おかぁさま、わたち、おちゅちゅ……おちちゅいてる」
ノアは少しほっぺを膨らませ、上目遣いにわたくしを見る。
なんですの。その可愛い仕草!
「ぅ、ちゅっちゅ!」
「おおっ、ぺーちゃん、じょうずに、いえているぞ」
「にゃ!」
本当、ぺーちゃんは「落ち着いて」って上手に言えましたわねぇ……って、違いますわよ!
「三人とも、テオ様がフロちゃんたちを助けに行きましたから、とりあえず今は様子を見……」
『まったく、何度も何度も呼び出しおって! 尊い存在であるわしを、こうも頻繁に呼び出すとは、イーニアスだから許すのだぞ!』
子供たちを止めようと、必死に宥めていた時、わたくしの話を遮るようにあの珍獣の声が響いたのだ。
カミラにもマディソンにも聞こえているようで、特にカミラが目を見開き、キョロキョロしている。挙動不審である。
『では、転移させるぞ!』
「え!?」
その刹那、周りが炎に包まれ、カミラとマディソンのわたくしとノアを呼ぶ声が耳に残ったまま、気付けば炎は消え、皇宮の離れではない、別の場所にいたのだ。
「お、奥様……っ」
「ヒェェッ」
マディソンとカミラがすぐにわたくしのそばへ駆け寄る。
ひんやりとした空気と、広い空間、そして目の前には創造神の像。
ここは……礼拝堂ですわ……っ
「マディソン、カミラ、あなたたちも転移させられましたのね!?」
「奥様、ご無事ですか!?」
「ぉ、奥様ぁ~、ここはどこでしょうか!?」
わたくしたちの声が礼拝堂に響く。
「ここは教会のようですけれど……ノア!? ノアはどこですの!? ぺーちゃんにイーニアス殿下も!!」
礼拝堂の方向にはカミラとマディソンだけだ。わたくしは子供たちの姿を探して、後ろの内陣へと目を向ける。
「ぅにゃ!?」
「ここ、きょーかい?」
「うむ。しゅくふくのぎで、きたところと、おんなじだ」
子供たち三人は揃って、内陣の椅子に腰掛け天井を見上げていた。
「ノア! ぺーちゃんもイーニアス殿下も!」
慌てて駆け寄ると、ノアは「おかぁさま!」と、いつもの笑顔を向ける。
「良かった……っ」
「おかぁさま、ここ、きょーかい!」
「ぅっ、きゃぃ!?」
「イザベルふじん、あかいとりさんが、ふらいんぐ、してしまったようだ……」
ノアは教会だと確信して嬉しそうに、ぺーちゃんはびっくりしていて、イーニアス殿下はすまなそうに眉を下げ、それぞれ違う反応で忙しい。
「ぺーちゃん、お母様が抱っこしましょうね」
「にゃ! かぁちゃ」
ぺーちゃんを抱っこし、わたくしもとりあえず椅子へ腰掛けると、隣の子供たちと、そばに待機しているカミラとマディソンを見る。
「……テオ様はまだ着いていないでしょうし……、とりあえず、到着するまでここで待ちましょうか」
「そうですね……。奥様、教会の関係者に見つかってはいけませんので、あちらの柱の影に移動しましょう。それと、ぺーちゃん様は私がお預かりします」
マディソンの言うように、内陣後方の太い柱の影へと移動した時だ。
「───急ぎましょう」
誰かが、礼拝堂に入ってきたのだ。
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