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第二部 第2章
348.落とし物 〜 ドニーズ視点 〜
しおりを挟む「枢機卿猊下!」
シスターたちが慌てて頭を下げる姿と口にした敬称に、オリヴァーはぎょっとした。
「枢機卿……猊下?」
「こんにちは、オリヴァー様」
美しい笑みを湛え、オリヴァーに挨拶をするのは確か、劇場で声をかけてきた人ではないか。それが枢機卿とは、聞き間違いではないのか。もう一度周りを見るが、シスターたちは彼に頭を下げたままだ。
という事は、自分は枢機卿に知らぬ事とはいえ、無礼を働いた事になる。
オリヴァーは蒼白になり、慌ててシスターたちと同じように頭を下げた。
「枢機卿猊下とも知らず、先日は大変な御無礼をいたしました」
「ああ、構いません。あれはお忍びでしたので、わからなくても当然です。気にしておりませんよ」
声は穏やかだが、高貴な人というのは感情を表には出さないものだ。もしかしたらかなり怒っているかもしれないと、拳を握る。
「頭をお上げください。今をときめくシモンズ伯爵家の若様に、頭を下げさせたと噂にでもなれば、教会は民にそっぽを向かれてしまうでしょう」
戯けた調子で気を遣わせまいとする枢機卿の配慮に、オリヴァーは胸を撫で下ろした。
「お許しいただき、感謝いたします」
「フフッ、そんな事よりも、本日はどうなさったのですか?」
容姿が整っているからだろうか。上品に微笑みかけてくるのだが、オリヴァーはその笑みがどうにも恐ろしく感じた。
お姉様の結婚式で初めて顔を合わせた時の、お義兄様の目によく似ている。冷たい瞳だ。
「……実は、その、我が家の使用人が、行方不明なのです」
「それは……、大変ではありませんか!」
大袈裟に驚いているが、どうにもわざとらしく感じるのは、オリヴァーが枢機卿を怪しんでいるからだろうか。
「ですが、どうして教会にいらっしゃったのでしょう?」
「それは、行方がわからなくなったのが、教会に向かった後からだったのです」
「……つまり、教会がそちらの使用人の失踪に関与している、と?」
枢機卿から笑みが消え、二人の間に緊張が走る。もちろん教会側は、疑われるのは良い気分ではないだろう。しかし、教会に行った後の足取りが途絶えたのは事実だ。
「誤解しないでいただきたいのですが、教会の関係者が我が家の使用人失踪事件に関わっているとは思っていません。ただ、今は何らかの理由で教会にいる可能性もあると思い、探しに来ただけなのです」
「そういう事でしたか。それであればどうぞ、ご自身の目でくまなく探してください。君たちも、オリヴァー様のお力になって差し上げなさい」
一瞬消えた笑みが戻り、シスターたちにも協力するよう言った枢機卿は、「私の部屋も調べますか?」と本気なのか冗談なのかわからない事を言って笑っていた。
「ご協力感謝いたします。では、遠慮なく確認させていただきます」
枢機卿の言動は怪しいが、今は構っていられないと切り替えたオリヴァーは、お礼を言った。
枢機卿は元々礼拝堂に用事があったのか、その後はすぐ礼拝堂へと入って行ったのだ。枢機卿の後ろ姿を眺めて、シスターたちに案内されるがままに、その場を後にしようとしたのだが、礼拝堂の扉辺りに何かが落ちている事に気付き、手を伸ばした。
「これは……」
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ドニーズ視点
「クレオ大司教、私たちはいつになったらここから出られるのでしょうか?」
この部屋にやって来てからどのくらいが経っただろうか。
窓も時計もない部屋なので、時間の経過は体感に頼るしかない。恐らく、四時間以上経過しているのではないだろうか……。
「うーん……味方が来るまでは、ここに居るしかないでしょうな」
「そんな……っ」
「ここにはお手洗いや風呂場、寝られる場所もありますからな、一泊程度なら問題はないでしょう。しかし、困った事に食料が全くない」
全然困っているように見えないんだけど。
「味方はいつ来るのでしょうか!? もしかして僕たちは、このままここで餓死なんて事になりませんよね!?」
「ホホッ、それはどうですかなぁ」
大司教はなぜこんなに落ち着いていられるのだろう。もしかして、その味方という人たちと、すでに連絡を取っているとか?
「お茶が飲みたいですなぁ」
……オリヴァー様、どうか僕が帰らない事に気付いて、ディバイン公爵閣下に連絡を取ってください! そして早く助けてください!
礼拝堂で祈りを捧げるように、僕はオリヴァー様に祈ったのだ。
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