継母の心得

トール

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第二部 第2章

345.仮契約

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『せーよーせー、かりけーやくちゅー!!』

などと、不動産売買のような事を言っているアオに疑問が出てくる。

「仮契約って……、フロちゃんはわたくしに治癒魔法をかけてくださいましたわ」
『セーヨーセーは、ヨーセーオー。かりけーやくでも、すこし、つかえるよーになる!!』
「では、正妖精が転移でフロちゃんを連れ帰る事もできるのではなくて?」
『ムリー!!』
「何でですの!?」
『かんぜんに、つながってナイ、キケン!!』
「では、すぐに助けるのは難しいのですのね……」

なんてことですの……っ

「おかぁさま……」
「かぁちゃ……」

ノアもぺーちゃんも、申し訳なさそうな顔をしてわたくしを見ている。

子供たちにこのような顔をさせてしまうなんて、いけませんわ!

「ノア、ぺーちゃん、大丈夫よ。フロちゃんは必ず無事に助け出してみせます!」
「ベル、君は子供らとここにいてくれ」

よしっ、教会へ乗り込みますわよ! と気合いを入れていたわたくしを、テオ様が止めたのだ。

「君は妊娠中だという事を忘れないでほしい」
「そ、そうですわね……」
「大丈夫だ。私を信じろ」

力強くそう言ったテオ様と、先程の決意をした凛々しいノアが重なって、親子の血を濃く感じましたわ。

「無事に、皆で戻って来てくださいまし」
「ああ。では行ってくる」

テオ様はウォルトから差し出されたマントを羽織ると、颯爽と行ってしまった。「お前たちは母を守るんだ」と子供たちに言い残して……。

「奥様、旦那様はグランニッシュ帝国最強の、氷の大公という二つ名があるほどの方ですから、あっという間に片付けて戻って参ります」

マディソンが優しく微笑んでくれて、少し安心する。

テオ様の乳母でもあるマディソンが、大丈夫だと言ってくれているのですもの。きっと大丈夫よ。それに、正妖精もフロちゃんのそばにいますもの。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『フローレンス、ボクが来たからもう心配ないよ!』
「あ~、よーてーたん!」
『コノヤロー! ボクの可愛いフローレンスを誘拐するなんて、許さないからな!』
「ぅ?」

フローレンスが何もない場所を見て愛らしく笑っている事に、女性は薄気味悪さを感じていた。

「フローレンスちゃん、そこには何もいないでしょ?」
「ぅ~、よーてーたん!」
「よ? 何言ってるの……」

指を差して、誰かがいるように笑うのだ。背筋がゾクッとして、鳥肌が立つ。
もしかしてこの幼女は、幽霊などという非現実的なものを視ているのだろうか……? 

女は両手で自身の身体を抱きしめると、「勘弁してよ……」と呟いた。

「本当に、こんな得体の知れない子が、あの方の望みを叶えてくれるのかしら……」
『可愛いフローレンスに、得体が知れないってどういう事さ!』

正妖精がムキーッと女性に向かって怒っている間も、土砂降りの中、泥水を跳ね上げながら、馬車は進む。

もうすぐ教会に到着する。早く着け、とはやる気持ちを押さえ、雨で濡れた窓を見つめる女性は、妖精王が同乗している事など、知る由もない。

「ぅ~? らっこぉ」

抱っこの大好きな聖女と、妖精王、そして謎の女性を乗せて、スピードを上げた馬車は暫く後、教会の裏口に停まった。

「あの恐ろしい怪物が来る前に、あの方へこの子を引き渡さないと」
『ああっ、フローレンスを離せ! このっ、このっ』

フローレンスを抱き上げた女性は馬車から飛び降りると、正妖精が首に巻き付いて引っ張っているのにも気付かず、教会内部へと駆けていったのだ。

当たり前である。妖精は、無機物と、生物であれば相手が認識している者でないと触れられないのだから。

『誰か、フローレンスを助けて……っ』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あら? そういえば、チロはどこに行ったのかしら?」

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