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第二部 第2章
334.ハードディスクと濾過装置
しおりを挟む皇后様が一番気にしているのは、イーニアス殿下が管理者になった事で起こるデメリットだろう。
もし、命の危険があるとか、これからの成長に何らかの悪影響を及ぼすなんて事になれば、このオウムを殺しそうだ。
「だから、管理者になった事でイーニアスにどう影響を及ぼすのか教えなさい!」
『神殿の管理者とは、悪影響を及ぼすものではないわ! むしろ、魔力量が増えたり、神殿まで好きな時に転移できたり、わしの加護もあったりするのだぞっ。良い事ずくめだというに、何が不服か!』
「わけのわからないものに、ウチの息子が巻き込まれた事が不服なのよ!」
『そ、それは……すまんと思っておるが……。しかし、本当に悪い事はないのだぞ。昔は神殿の管理者になれると聞いたら国をあげての大騒ぎで、皆が喜んだものだ』
「昔、皆って、そのフワッとした話が益々信用出来ないのよね」
確かに。皆が~って言ってたから。と言われたら、皆って誰!? と言いたくなる気持ち、わかりますわ。
あらあら、ノアは飽きてアス殿下を誘って、ぺーちゃんと遊んでいますわ。トランプで遊んでいますのね。神経衰弱好きですわね。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
オウムの話に疑問が出てきたので、ヒートアップしている皇后様を止める為にも割って入る。
『今度は何だ!?』
「お話中申し訳ありませんわ。わたくし、ノアの母でイザベル・ドーラ・ディバインと申します」
『小僧の母親か!』
「ええ。少しお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
『構わん』
質問するお許しをいただけたので、この際色々聞いてみようと思う。
「先程、あなたはイーニアス殿下に悪影響はないと仰っておりましたが、魔力量が増えるという事は、それだけ身体に負担がかかるのではありませんの? ただでさえ、イーニアス殿下はまだ5歳ですのに」
『そう思うのも無理はない。普通は魔力量もその器も変えられぬからな』
そう。この世界は、産まれた時から一生、魔力量は変わらない。わたくしの提案した魔力コントロール法も、その量を変えるわけではなく、効率よく魔法を使えるようになるというだけのものだ。
『イーニアスは、神殿の管理者となったと同時に、わしと繋がったのだ。おぬしらがわかりやすく言うと、妖精との契約と同じようなものか』
それは、オウムと契約したという事かしら? だけどこの言い方だと契約とは少し違うような……。
『だからわしの魔力量イコール、イーニアスの魔力量となり、わしが魔力の器となる事で、イーニアスに負担がかかる事はない』
「イーニアス殿下は、外部に魔力が入った器を持った、という事でしょうか?」
『その通りよ! おぬし、なかなか理解力があるではないか!』
外付けのハードディスクのようなものかしらね。
「では、魔力暴走などもしないと?」
『イーニアスの中に常に大量の魔力があるわけではない。イーニアスが望む分だけわしが力を貸す。と思ってもらうのが一番近いか。もちろん危険があった時には守る事もできる』
「では、イーニアス殿下はとても強い魔法の使える護衛を手に入れたようなものですわね」
『その通りよ!!』
オウムはわたくしの言葉に、上機嫌に笑っている。
「イーニアス殿下の魔力を神殿にある水晶に注ぐ、と伺ったのですが、それほどの魔力をお持ちでしたら、あなたが水晶に魔力を注げば良いのではありませんの?」
『それがな、わしの力は正確には魔力でなく神力なのだ。この水晶めが、神力では消化不良を起こしおるのよ。そこで人間の管理者が、魔力を注がねばならぬ』
「つまり、その水晶は好き嫌いがあって、あなたの力は嫌いで、食べるとお腹を壊してしまう。だけど、少しは栄養にできる。イーニアス殿下の力だとお腹を壊さずその全てを栄養に出来るのですね」
『おおっ、わかりやすいな!』
あら? でもそれだと……
「あなたはその『しんりょく』とやらを魔力に変換する事は出来ないけれど、イーニアス殿下は『しんりょく』を魔力に変換して使用する事が出来るのですか?」
『そうだ! どうしてそうなるのかはわからんが、神力は人間の身体を通すと魔力に変換される!』
まるで濾過装置ですわね……。
「イーニアス殿下が行うのは、本当に月に一度の魔力注入だけですのね?」
『もちろんだ。わしは嘘はつかぬ! 神殿も、イーニアスの好きにしてもらって構わぬし、財宝も全て管理者のものだ。数百年に一度あるかないかの神託を、人間に伝えてもらう事もあるやもしれぬが、イーニアスは皇帝になるのであろう? ならば適任よな!』
聞けば聞くほど胡散臭くなっていくのはなぜかしら……。でも、イーニアス殿下の守りが固くなったのは良かったのかもしれませんわね。
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