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第二部 第2章
316.アカとイーニアス
しおりを挟む「───というわけで、アカとアオがそれぞれノアとイーニアス殿下のそばにいれば、様々な場所に移動出来るようなのですわ」
『妖精と契約すると、そんな事も出来るようになるの!? アタシの能力の意味が!』
皇后様との妖精通信で、今日あった衝撃的な出来事を伝えると、妖精って本当に便利ね! と結構ぞんざいな扱いになっていっている妖精たちにちょっとだけ同情しそうになった。
妖精も妖精で自由にしているから良いのだろうけど。
「いえ、全ての妖精がそうというわけではないようですの。わたくしはチロと契約しておりますが、特にそういった事は出来ませんもの。どうやら中妖精に進化したものだけが、契約者と共に転移ができるようなのです」
ちなみにぺーちゃんは、わたくしたちがアオの話で驚いていた時に、自分が怒られたと勘違いしたらしくて、「ぺーちゃんはいいこ。悪い事はしていない」って訴えていたそうですわ。ノアが通訳してくれましたの。
『ベル~、チロ、チカラナイノ……』
ごめんなさいと小さな身体をさらに小さくするチロに、そういう意味ではなかったのよ。言い方が悪かったですわ。わたくしの方こそごめんなさい、と謝罪する。
「チロ……、あなたに力がないなんて、そんな事ありませんわ! 可愛くて、妖精通信も出来て、わたくしをいつも守ってくれているじゃない」
『ベル~』
ほっぺたに擦り寄るチロの頭を、人差し指でなでる。
マッシュルームのような帽子だが、感触はふわふわしていて不思議だ。
『でも、そうなってくると、お互い行き来がしやすくなって良いかもしれないわ。特にテオ様が領地に戻られている時、イーニアスの魔法の訓練がなかなか出来なかったから』
「移動に回数制限は無さそうですから、遊びや魔法の訓練の為だけに来る事も可能ですが……ノアを一人で皇宮に行かせるのはまだ心配ですわ……」
『そうね。ノアちゃんはまだ小さいし……アタシが常に居られればいいのだけど、ほとんど皇城で仕事しているから難しいのよね。あの妖精たちに任せるのも不安だし……』
まったくですわ。アカとアオは自由すぎますもの。
「イーニアス殿下をこちらにお迎えするのは問題ございませんが、ノアが成長するまでは、皇宮に一人で遊びに行ってはダメだと伝えておきます」
『それが良いわ。アタシもイーニアスによく言っておくから』
「お願いしますわ」
皇后様と妖精通信を終えた翌日の事だ。
「ノア、ぺーちゃん、きょうは、トランポをしよう!」
「はい! わたち、とらんぽだぁいすき!」
「にゃ!?」
『アカも、トランポするー!』
『アオも、トランポするー!!』
朝食前にもかかわらず、当然のようにノアとイーニアス殿下がぺーちゃんを連れて、庭で遊んでいるのだけど……、え? イーニアス殿下、こんな朝早くにどうしたんですの!?
「あっ、イザベルふじん、おはようございます。おじゃましている!」
子供たちが裏庭のトランポリンで遊んでいる所を呆然と眺めていた時、イーニアス殿下と目が合い、殿下がこちらへやって来て挨拶してくれたのだ。
もちろんノアも「おかぁさま、おはよ、ごじゃいます!」って挨拶してくれましたわよ。
あらあら、ぺーちゃんはおはようのあいさつと、抱っこですのね。甘えん坊さん。
「みんな、おはようございます」
きちんと挨拶が出来るなんて、良い子たちですわ。
「ノアとすこしあそんだら、かえるので、きにしないでほしい」
「はい? もしかして、殿下は転移が出来るか確認の為にお越しになったのですか?」
「うむ! じぶんのめで、たしかめることは、たいせつだとならったのだ」
素晴らしい教えですわね! けれど、皇后様がご心配なさっているのではないかしら……。
「ははうえには、きちんと、つたえてきたのだ!」
用意周到! 将来良い皇帝になりそうですわ。
「そうでしたか。それでしたら安心ですわね。ですが、次からはわたくしとテオ様にも、お越しになる前に妖精通信で教えてくださいましね? 何かあってもいけませんし」
「うむ! きちんと、つたえるようにする!」
とっても素直で可愛いわぁ。
『アカ、テオにいったー!』
「あら、アカがテオ様には伝えてくださいましたのね」
起きたらテオ様もノアもいらっしゃらなかったから……。
妊娠が分かってから、わたくしだけ朝寝坊する事が増えましたのよね……。
「かぁちゃ、ぃちょお、ごちょ、にゃ?」
「おかぁさま、ぺーちゃん、なんでひとりで、おしゃべり、ちてるの? って」
妖精とお話していると、ぺーちゃんには独り言を言っているみたいですわよね。びっくりさせてごめんなさいね。
「アカ、アオ、イーニアス殿下とノアを転移で連れ回したりしないようにしてくださいましね」
『アカ、アスと、たくさーんあそびたい!』
『アオ、ノアに、キレーなとこ、みせたい!!』
これは……、ルールを設けないと危ないかもしれませんわ!
「ぁきゃ、あぉ?」
◇◇◇
「───ですから、アカとアオが子供たちを外に連れ出す可能性があるのですわ」
「……分かった。アレらには私からも注意しておく」
朝食の最中に、妖精の自由な気質をテオ様に訴えると、珍しく険しいお顔をされたテオ様が、わたくしをじっと見てくるので居心地が悪くなる。
どうなさったのかしら……?
「ノアとイーニアス殿下に何かあったらと思うと……もし、アカとアオが子供たちを妖精の世界に連れて行ってしまったら……」
そんな世界が存在しているかどうかは分かりませんけれど。
「大丈夫だ。それよりもベル、」
テオ様は、わたくしの話を遮り、より険しい表情で持っていたスプーンを置くと、久々に場の空気がピリッとしたものに変わる。
「テオ様?」
「その朝食はなんだ……」
「え?」
わたくしが食べている柑橘のゼリーが気に触ったのか、使用人たちの顔も青くなっていく。漂う緊張感に、ノアも食べるのを止めてしまっているではないか。ぺーちゃんは食べるのに夢中で気付いていないところが微笑ましい。
「? 美味しいですわよ」
「そうではない! なぜ君の前にはそのゼリーしか無い!?」
ああ、そういう事ですのね。
「つわりで、今お食事が辛くて……シェフがこのようにゼリーを作ってくれたのですわ」
「っ……ただでさえあまり食べないというのに……、食べられないだと!?」
何故か、テオ様が絶望の表情をされているのですが、今は子供たちの事を考えてくださいましね?
あら、ノアまでお父様の真似をして。さすがそっくりですわね。
「ぅ~ちぃ!」
ぺーちゃん、美味しいのね。良かったですわ。
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