継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
165 / 393
第二部 第2章

314.お姉様、何やってんだ 〜 オリヴァー視点 〜

しおりを挟む


オリヴァー視点


「あ……、あ、あの……っ」

今日はよく話しかけられる日のようだ。今度は女性のようだけど……。そういえばディオネ様は、男性だよね? 女性だったのかな?

さっきの事を考えながら、声の聞こえてきた方へ振り返ると、劇団の腕章を付けたスタッフが立っているではないか。

「と、突然申し訳ありません! 輪舞の裏方スタッフなのですが、先程の会話が聞こえてしまいまして……っ」

やはりこの女性は、劇団関係者のようだ。

さっきの会話って、もしかしてチケットの譲り合いがダメだったのかな? でも、僕らちゃんと断ったから問題にはならないはずだ。

「劇団の方が、僕に何のご用でしょうか?
「あ、あのっ、し、シモンズ伯爵家の方だと聞こえて……っ」

ああ……。劇団の人に知り合いはいないし、新素材の事で注目されているから、そっちの話でもしたいのかな。チケットの事が問題になったわけじゃないみたい。

「もしや、女神……いえ、ディバイン公爵夫人のご親族ではないかと思い、失礼ながらお声をかけさせていただきました!」

なるほど。ディバイン公爵関係か。でも……

「女神? ディバイン公爵夫人は、僕の姉ですが……」
「め、め、女神様の弟君であらせられましたか!!」
「はぃ?」

え、何? お姉様の知り合い? あらせられって、どんだけへりくだってるんですか!?

「オリヴァー様、もしかしてディバイン公爵夫人のお作りになった、商会の関係者でしょうかね?」

ドニーズが耳打ちしてくれたけど、お姉様を女神とか言ってくるこの変な人が、商会の取引先の人だったりするのだろうか?

「申し訳ございません!! 女神様の弟君とも知らず、大変失礼をいたしました! 皆様のお席はもちろんご用意させていただきますので、どうぞお入りくださいっ」
「えぇ!?」

席を用意って、ディバイン公爵家の関係者だから!? それなら義兄の名前を使ったみたいで恥ずかしいんだけど!

土下座でもしそうなくらいの勢いで謝罪されるが、これにはドニーズだけでなく、護衛や侍女も驚いて一歩引いている。しかも野次馬が集まりだして、何事だというように僕らを見ているではないか。

「いえ、あの……貴族だからと特別扱いはちょっと……」
「なんと!? さすがは女神様の弟君……っ、遠慮は無用でございます! 女神様の為に、いつでもVIP席を空けておりますので」

怖い、怖いっ。何この人!?

ドニーズ、助けてと目で訴えるが、ちょっと距離を取られているのは何でかな?

「ぇ、ちょ、さっきから女神様ってなんですか!?」
「女神様は、この輪舞を救ってくださいました、演出家兼、脚本家兼、作曲家です!」

はぁ!? お姉様、一体何をやらかしているんですか!!

「ディバイン公爵夫人は多才な方々だとは思っていましたが、作曲や脚本、演出などもなさっておいでとは、すごい方なのですね」
「大人気の劇団の演出って、すごすぎませんか!」
「ディバイン公爵夫人が携わったからこそ、人気が出たのでは?」

ドニーズや侍女が後ろでそんな話をしながら盛り上がっている。

ちょっと、本気で恥ずかしい。

「本日の演目は、女神様の演出、脚本、作曲である、モンスタープリンセスです! 様々な動物や、森の白い精霊が出てくるのですよ」
「よーてーたん!」

精霊と聞いたフローレンスは、目を輝かせて即座に反応した。

「妖精ではなく、精霊なのですよ」
「ちぇーれ?」
「はい! カタカタ動く精霊です」

カタカタ動く精霊って何!? お姉様、本当に何やってるんだ!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「護衛や侍女もいますから。ねぇ……」

感情の読めない目で三枚のチケットから手を放すと、ヒラヒラと足元に落ちていく。長蛇の列を作る劇団もこれでは何の意味もない。と、その場を離れるために歩き出した。

目立つ空色の髪が揺れ、行き交う人々がチラチラと視線を寄越す。

注目されるのが当たり前なのか、気にする様子もなく、劇を観ることなく去っていったのだ。



しおりを挟む
感想 11,317

あなたにおすすめの小説

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

継母の品格 〜 行き遅れ令嬢は、辺境伯と愛娘に溺愛される 〜

出口もぐら
恋愛
【短編】巷で流行りの婚約破棄。  令嬢リリーも例外ではなかった。家柄、剣と共に生きる彼女は「女性らしさ」に欠けるという理由から、婚約破棄を突き付けられる。  彼女の手は研鑽の証でもある、肉刺や擦り傷がある。それを隠すため、いつもレースの手袋をしている。別にそれを恥じたこともなければ、婚約破棄を悲しむほど脆弱ではない。 「行き遅れた令嬢」こればかりはどうしようもない、と諦めていた。  しかし、そこへ辺境伯から婚約の申し出が――。その辺境伯には娘がいた。 「分かりましたわ!これは契約結婚!この小さなお姫様を私にお守りするようにと仰せですのね」  少しばかり天然、快活令嬢の継母ライフ。 ■この作品は「小説家になろう」にも投稿しています。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。