継母の心得

トール

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第二部 第2章

314.お姉様、何やってんだ 〜 オリヴァー視点 〜

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オリヴァー視点


「あ……、あ、あの……っ」

今日はよく話しかけられる日のようだ。今度は女性のようだけど……。そういえばディオネ様は、男性だよね? 女性だったのかな?

さっきの事を考えながら、声の聞こえてきた方へ振り返ると、劇団の腕章を付けたスタッフが立っているではないか。

「と、突然申し訳ありません! 輪舞の裏方スタッフなのですが、先程の会話が聞こえてしまいまして……っ」

やはりこの女性は、劇団関係者のようだ。

さっきの会話って、もしかしてチケットの譲り合いがダメだったのかな? でも、僕らちゃんと断ったから問題にはならないはずだ。

「劇団の方が、僕に何のご用でしょうか?
「あ、あのっ、し、シモンズ伯爵家の方だと聞こえて……っ」

ああ……。劇団の人に知り合いはいないし、新素材の事で注目されているから、そっちの話でもしたいのかな。チケットの事が問題になったわけじゃないみたい。

「もしや、女神……いえ、ディバイン公爵夫人のご親族ではないかと思い、失礼ながらお声をかけさせていただきました!」

なるほど。ディバイン公爵関係か。でも……

「女神? ディバイン公爵夫人は、僕の姉ですが……」
「め、め、女神様の弟君であらせられましたか!!」
「はぃ?」

え、何? お姉様の知り合い? あらせられって、どんだけへりくだってるんですか!?

「オリヴァー様、もしかしてディバイン公爵夫人のお作りになった、商会の関係者でしょうかね?」

ドニーズが耳打ちしてくれたけど、お姉様を女神とか言ってくるこの変な人が、商会の取引先の人だったりするのだろうか?

「申し訳ございません!! 女神様の弟君とも知らず、大変失礼をいたしました! 皆様のお席はもちろんご用意させていただきますので、どうぞお入りくださいっ」
「えぇ!?」

席を用意って、ディバイン公爵家の関係者だから!? それなら義兄の名前を使ったみたいで恥ずかしいんだけど!

土下座でもしそうなくらいの勢いで謝罪されるが、これにはドニーズだけでなく、護衛や侍女も驚いて一歩引いている。しかも野次馬が集まりだして、何事だというように僕らを見ているではないか。

「いえ、あの……貴族だからと特別扱いはちょっと……」
「なんと!? さすがは女神様の弟君……っ、遠慮は無用でございます! 女神様の為に、いつでもVIP席を空けておりますので」

怖い、怖いっ。何この人!?

ドニーズ、助けてと目で訴えるが、ちょっと距離を取られているのは何でかな?

「ぇ、ちょ、さっきから女神様ってなんですか!?」
「女神様は、この輪舞を救ってくださいました、演出家兼、脚本家兼、作曲家です!」

はぁ!? お姉様、一体何をやらかしているんですか!!

「ディバイン公爵夫人は多才な方々だとは思っていましたが、作曲や脚本、演出などもなさっておいでとは、すごい方なのですね」
「大人気の劇団の演出って、すごすぎませんか!」
「ディバイン公爵夫人が携わったからこそ、人気が出たのでは?」

ドニーズや侍女が後ろでそんな話をしながら盛り上がっている。

ちょっと、本気で恥ずかしい。

「本日の演目は、女神様の演出、脚本、作曲である、モンスタープリンセスです! 様々な動物や、森の白い精霊が出てくるのですよ」
「よーてーたん!」

精霊と聞いたフローレンスは、目を輝かせて即座に反応した。

「妖精ではなく、精霊なのですよ」
「ちぇーれ?」
「はい! カタカタ動く精霊です」

カタカタ動く精霊って何!? お姉様、本当に何やってるんだ!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「護衛や侍女もいますから。ねぇ……」

感情の読めない目で三枚のチケットから手を放すと、ヒラヒラと足元に落ちていく。長蛇の列を作る劇団もこれでは何の意味もない。と、その場を離れるために歩き出した。

目立つ空色の髪が揺れ、行き交う人々がチラチラと視線を寄越す。

注目されるのが当たり前なのか、気にする様子もなく、劇を観ることなく去っていったのだ。



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