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第二部 第2章
313.フロちゃんとお出かけ2 〜 オリヴァー視点 〜
しおりを挟む「申し訳ございません。本日のチケットは売り切れてしまいまして……」
大行列が出来ている劇場のチケット売り場で、やっと買えると思った矢先言われてしまった売り切れの一言。
フローレンスも使用人たちも、期待に満ちた顔をしていたので、悲しむかもしれない。
とはいえ、無理は言えないよな。
「にぃに?」
「ごめんね、フローレンス。チケットが売り切れちゃったみたいで」
「ぅ? にぃに、よちよち」
フローレンスが僕の頭を撫でてくれる。優しいね。
「また次の機会にね。次は事前にチケットを手に入れてから来ようね」
「ぁーい」
片手を上げて返事をしてくれるフローレンスは素直でいい子だ。
「オリヴァー様、残念でしたね。かなり人気の劇団のようですから、当日券は発売開始からあっという間に売り切れるのだそうですよ」
ドニーズがスタッフに聞いてきてくれようで、そう教えてくれた。
「そうなの? じゃあこの行列は何なんだろう……」
「別日のチケットを購入する列のようです」
「えぇ!? 別日のチケットにこんな行列が!?」
そんなに人気な劇団なのかぁ。
「……あの、もしかして当日券が購入出来なかったのでしょうか」
突然誰かに話しかけられて驚いた。護衛が僕らの前にスッと入ってきて話しかけてきた人物を警戒している。
「あ、驚かせてしまい申し訳ありません。怪しい者ではないのです。困ってらっしゃったようでしたので、つい話しかけてしまいました」
おっとりと穏やかな笑みを浮かべたその人は、美の神に愛されたのだろうか。中性的な整った容姿にウェーブがかった空色の長髪を持った男性だった。上品な仕草や、男性にしては綺麗な手からも、高位貴族らしい事がうかがえる。
あちらから話しかけてきたって事は、かなり高い身分の人かもしれない
「いえ、あの……失礼かもしれませんが、とても高貴な方のようにお見受けいたします。その、ご挨拶させていただいてもよろしいでしょうか?」
高位貴族であれば、こちらが名乗らず相手に名乗らせる事も失礼にあたるし、いきなりこちらが名乗るのも失礼だ。
本当なら身分が高い方がそこを配慮して名乗ってくれるものだけど……、もしかしたら有名な人なのかも。知っていて当然だと怒らせてしまったらどうしよう……。
お姉様なら上手くやるんだろうけど、僕はこういう事は苦手だ。
「あっ、申し訳ありません。私はウィーヌス・ウラノ・ディオネと申します」
ディオネ……聞いた事があるような、ないような……。非常識なのに、貴族名鑑を小説代わりに読むお姉様なら知っているだろうか。
「僕はシモンズ伯爵家の嫡男でオリヴァーと申します」
「あのシモンズ伯爵家の方でしたか。我が家も新素材には大変お世話になっていますよ」
「そうですか……」
相手はシモンズを知っているようだけど……。
「あ、お声をかけさせていただいたのは、よろしければチケットをお譲りしようと思っての事なのです」
「え?」
チケットって、この劇団の当日券の事だよね?
「実は友人と一緒にと思っていたのですが、来られなくなってしまい、余ったチケットをどうしようかと困っていた所だったのです。そこにあなたたちが現れ、失礼ながらお声をかけさせていただきました」
こんな上手い話、あるのだろうか。
不安になってドニーズを見ると、かなり警戒した硬い表情をしているではないか。
「余ったチケットが三枚あるのですが、よろしければ……」
親切で声をかけてくれたんだろうけど……
「大変有難いお話ですが、護衛や侍女もいますから、チケットの枚数が三枚だと足りないんです。親切に声をかけていただきありがとうございます。また、次の機会に皆で来ようと思います」
「……そうですか。余計な事を申しました。また御縁がありましたら、お会いしましょう」
お断りすると、ディオネ様は案外あっさり去っていったんだ。
「悪い事しちゃったかな……」
「ぅ?」
フローレンスがわかっていないように首を傾げる所は、どこか抜けていて、ほっとさせられる。
「それにしてもディオネ家……思い出せないな」
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