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第二部 第2章
307.倒れた駒とコップ 〜 ぺーちゃん視点 〜
しおりを挟むぺーちゃん視点
「……と、このように子育て支援センターは、子供と親の交流を深め、子育てに関する悩みや不安を相談できる場にしたいと考えておりますの」
突然裸に剥かれたと思ったら、ベビーマッサージなるものを施され、あっという間にふにゃふにゃになってしまった私と他の赤子たち。
途中ノアとイーニアスの乱入があり、二人の足のマッサージがくすぐったくてゲラゲラ笑ってしまったが、私の隣にいる赤子も同じように笑っていたから悪目立ちはしていないだろう。
しかし、隣の赤子は皇后様の子供らしい。
回帰前とお母さんも皇后様も違うから、イーニアスの他にも赤子を産んだのだろうか。
「リューちゃん良い子ね~」
「リューちゃん、わらってる。ははうえ、リューちゃんが、よろこんでいるのです」
リューちゃんって、皇帝リューク……? いやいや、そんなわけないか。だって皇帝リュークは、あの悪魔以上に悪魔のオリヴィアが産んだ子供だ。皇后様の子供じゃない。
「あら、ぺーちゃんはリューちゃんが気になりますの? お友だちになりたいのかしら」
え!?
お母さんが突然そんな事を言ってくるからぎょっとした。
いや、そういうわけではないが……だって相手は赤ちゃん。お母さん、私は大人なんだからな! さすがに大人の私と、赤ちゃんが友だちになれるわけないじゃないか。
「にゃ!」
「ぺーちゃんがリューちゃんとお友だちになりたいんですって! 良かったわね~。リューちゃん」
なんでそうなるの!?
「ぺーちゃん、おとうとと、なかよくしてくれると、うれしい」
うぅ……。仕方ない。皇后様とイーニアスが言うなら、リューちゃんは私の友だちという事にしてあげよう。特別だからな!
「ちょきゅ、っちゅ!」
「ぺーちゃん、とくべつよって、おはなち、ちてるのよ」
さすがノア! 私の言葉がわかるのは、ノアとクレオだけだ。他は誰もわからないが、なぜなんだろう?
「うむ。あ、わたしとも、なかよくしてほしい」
「ぁーい!」
今のイーニアスであれば、もちろん仲良しになる! ノアと同じで、優しく頼りになるお兄ちゃんだ。イーニアス、ノアの次に好きだ。
「うふふっ。ぺーちゃんうれししょうね」
うん。ノア、私は嬉しい!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「───ディバイン公爵家では公爵、公子、皇族ではイーニアス殿下、皇后、教会では大司教、教皇……」
木製の風合いのあるチェス盤上に置かれた、本象牙の繊細な彫刻が際立つ白と黒の駒。
それらを一つ、また一つと移動させる手は白魚のようで、男性とは思えない。苦労なく育ってきただろうことがうかがい知れる美しい手だ。
「……さて、この一人は……まさか、聖者か……? ククッ、そうか。これは、教皇を蹴落とすのに丁度良い駒が現れた……」
男は、頬杖をついたまま虫も殺さなような笑みを浮かべると、白いキングの駒に同じ白いクイーンの駒をぶつける。カタン……と音をたてて倒れたキングを楽しそうに見つめ、血のように赤いワインの注がれたグラスを手に取り飲み干したのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おもちゃの宝箱帝都支店では、整理券を持った父と娘が手を繋ぎ、おもちゃカフェの席に案内されて嬉しそうに笑い合っていた。
「とぅた、ぁりぇ!」
「ハハッ、僕の娘はおもちゃより、ご飯が好きだなぁ」
小さな娘は、メニューの絵を指差してニコニコと笑う。
「おぃちー」
「そうだねぇ。おもちゃカフェのご飯はとっても美味しいよね」
「はちゃ、しゅき!」
「うんうん。今日もお子様ランチにしようね。あの旗はお気に入りだもんね」
「しゅきー!」
子供に大人気のお子様ランチを頼むつもりでいるらしい。オムレツの、トロトロ卵の上に刺さった旗がお気に入りなのだろう。そこに新素材で出来たコップに入れられた水が運ばれてくる。
「ご注文はお決まりですか?」
愛想の良い店員に、お子様ランチとビーフシチューを頼むと、「楽しみだね」と娘に笑みを向ける父親は、お腹を鳴らして恥ずかしそうに俯くと、水を飲んで誤魔化していた。耳は真っ赤に染まっている。
「とぅたぁ?」
そんな父親の様子に、どうしたのだろう? と手を伸ばした先に、ちょうどコップがあり、当たって倒してしまったのだ。
「あぁっ、パパがふきふきするから、動いちゃだめだよ」
「ごめ、ちゃぃ……」
「水が溢れてびっくりしちゃったね。ほら、店員さんも布巾を持ってきてくれたから、もう大丈夫だよ」
机からポタポタと落ちた水は、床に水溜りを作り、落ち込んだ娘の姿を映し出した。
「ほら、綺麗に拭いてもらったから、落ち込まないで。フローレンス」
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